第142話馬さんも仲間?

 重力操作の魔法が延々と続けば問題はありませんでしたが、その効果は突然切れました。時間にして2時間といった所でしょうか。

 急激に負荷の掛かった馬車に驚いた馬さんが、地面に顔から突っ込みました。

 幸い皆軽傷で済みましたが、馬車はまたしても壊れミカちゃんの魔法のお世話になってしまいました。


「早いのは助かるが、何度も同じ事が起こるようでは困るな」

「流石に何度もハイヒールを掛けるのは可哀想にゃ」

「魔法が切れた時に胃が締め付けられましたわ」

「アーン、アーン」


 早さを求めるなら続行ですが、次は時間を計りながらになりますかね。

 子狐さんには好評の様です……宙に投げ出される感じが楽しかった様ですね。


「次はもっと早く上掛けしますね」

「そうしてくれ。流石に肝が冷える思いは――こりごりだ」

「子猫ちゃん、馬さんを無理させちゃ駄目にゃ。馬さんも旅の仲間にゃ」

「子猫ちゃん、次は頼みますわよ」


 皆の了承を得て魔法を掛け直そうとした所で、ミカちゃんの語った馬さんも仲間という言葉に引っ掛かりを覚えます。僕の能力は仲間に魔石を食べさせると魔法を覚える事が出来ると言うものです。――それは馬さんにも当てはまるのか。


「ねぇミカちゃん。馬さんも仲間なの?」

「一緒に旅をして苦楽を共にすれば仲間にゃ!」


 という事は、魔石を食べさせたらどう変化するんでしょう……。

 皆の意見も聞いてみましょう。


「馬さんが仲間だと、魔石を食べさせたらどうなると思います?」


 僕の質問が予想外だったようで、皆で首を傾げながら考えています。

 するとフローゼ姫が、


「魔石で余っている物があれば食わせてみたらどうだ?」

「試してみるのも手にゃ」

「馬さんが子狐さんみたいになるんですわね」


 いや、エリッサちゃん流石に子狐さんの様にはいかないと思いますよ。

 子狐さんはあの千年狐さんの子供ですよ。普通の馬さんとはもって生まれた質が圧倒的に違います。

 それでも皆もどうなるのか興味津々の様子なので、ポーチの中から前に倒したスコーピオンの魔石を食べさせる事にします。

 馬さんの目の前に魔石を持っていくと、そんな物食えるかとばかりにグヒヒン、と鼻で笑われ、魔石を鼻息で飛ばされました。


 皆は喜んで食べてくれたのに、そんな我が儘許しませんよ!


 僕は爪を立てた状態で自身を鋼の肉体に変えると、馬さんの目の前に立ち威嚇します。僕の鋭利な爪で一瞬にして怯えた馬さんが、恐る恐る口を開いた所で、口の中に魔石を投げ入れると噛みもせずに丸呑みにしました。

 皆が息を飲んで見守っていると――あら不思議。

 馬さんの体が仄かに光り、何らかの魔法を覚えました。


 仲間になって魔法を覚えたという事は――僕の意思の疎通でそのステータスが見られるという事でもあります。

 僕は馬さんをジッと見つめそれを見ます。

 ――その結果がこれです。


●馬


攻撃系魔法・・【疾走(神速の劣化版)】


バフ系魔法・・なし


ユニークスキル・・なし


 はは……もう乾いた笑いしか出ませんね。


 皆に伝えると――。


「神速の劣化版とはまた微妙な……」

「魔法を覚えられて良かったにゃ」

「私でも速度系の魔法はまだですのよ!」

「アーン」


 所詮、馬さんですからね。

 皆の反応も微妙なものでした。


 さて、気を取り直して馬車に魔法を掛けますよ!


 僕が馬車に重力操作の魔法を掛けると、馬さんも自身に魔法を掛けた様です。魔法の掛け方が僕とは違って尻尾を使って行っていましたが……。

 それに反応したのは子狐さんでした。


「アーン、アーン、アーン」


 子狐さんが僕の真似――と苦情を告げると、馬さんがあなた森の中で魔法は手で放っていたじゃないの。と反論され悔しそうにしていたのが印象的でした。

 僕からすればどっちもどっちですけどね。

 それよりも仲間になった事で、馬さんと会話が交わせるようになったようです。

 女性陣と会話を出来るのは僕だけの様ですが……。


 さて魔法が掛かった状態の馬さんがどれだけ早くなったのか……。

 今までの速度より更に早く走れる馬さんは、足の動きが普通の人では捉えきれない程の速度で走り、僕達の通った後には砂煙だけが立ち込めて居ました。


 これ明日にはアンドレア国に着きそうですね。



           ∞     ∞     ∞


 爺やさんからの道が消えているとの報告を受け、騎士団長が馬車から降り様子を見に行きました。王子は騎士団長から外に出る事を止められ馬車の中からその様子を見守ります。直ぐに騎士団長は戻ってきますが、戻ってくるなり――。


「王子、ここは引き返した方が良さそうです」

「何を馬鹿なっ――せっかくここまで来て戻るなど」


 王子の反論は爺やさんの声で止められます。


「坊ちゃま、この先に巨大な穴が開いております。深さはそれ程ではありませんが、広さが――それにこれを作り出したのは恐らく、伝記で伝え聞く竜で御座います」


 王子の口は呆気に取られた事と、驚きから開きっぱなしになります。

 何かを言おうと、口をパクパクさせますが声にはならずに、魚が餌を啄む様な有様です。


「王子、私もここは引き返すのが得策と判断します」


 爺やと騎士団長から追跡の中止を提案されますが、王子は悩む事無く――。


「フローゼ殿はこの先を走っておるのだ。今僕がいかなくてどうするというのだ!」


 竜がここで暴れたのだとしても、フローゼ姫達の遺体も破壊された馬車の姿もありませんからね。この先を進んだと判断した王子の予想は当たっています。


「しかし!」

「くどいぞ! 騎士団長!」


 騎士団長と爺やの説得も空しく王子に押し切られる格好になった一行は、道なき道へ馬車を突き入れます。馬車から馬を外しゆっくりと穴へと下した為、馬車が壊れる事はありませんでしたが、いざ爺やが御者席に乗り込み手綱を振るった所で異変に気付きます。

 元気な2頭立ての馬でも足元の悪い砂の上では力及ばずに、馬車の車輪は砂にめり込みます。動き出す気配が無い事を悟った騎士団長が再度馬車から降り、爺やさんに理由を尋ねます。


「マキシマム殿、如何なされました?」

「キリング殿、馬車が砂に足を取られ――」


 爺やさんからの報告を聞き、馬車の背後に回ると後続の馬車は砂に足を取られはしても砂にめり込むまではいかず、王子の乗る馬車の隣に横づけに停車します。

 後続の馬車は行商人が使う馬車だった為に軽くて難を逃れました。

 騎士団長は仲間の騎士に馬車を押すのを手伝わせ、少しずつ先へと進むとそこには自分達の前にも同様に砂にはまり、数人で押してこの地を脱出した痕跡を発見します。

 進みの遅い馬車に辟易しながら窓から外を眺めていた王子にそれを伝えると。


「ほらね! 僕の言った通りじゃないか。フローゼ殿は目の前だ。急いでくれ!」


 お気楽なもので、自分は座席シートで寛いで配下の騎士達に丸投げしています。

 騎士達の努力の甲斐あって穴の半分を過ぎた頃にそれは突然やってきます。

 ウォッホッホ、ウォッホッホ、と雄叫びをあげて魔物が3匹馬車に襲い掛かってきます。


 狙いは――息を弾ませながら馬車を押している騎士達。


 脅威だった竜も去り、狩場に戻ってみれば人間達が馬車から降りてそれを必死に押している。きっと騎士達が疲れるのを遠くから観察していたのでしょう。

 大猿の魔物が騎士の一人が疲労から足をもつれさせ躓いたタイミングで飛びかかります。人間相手の戦闘は訓練で慣れていても、魔物との戦闘経験は殆どありません。

 人里に魔物が現れても、ゴブリンなど弱い魔物です。

 それでも逸早く魔物に気づいた騎士団長の「敵襲!」の声に反応し腰に下げた剣を抜いた事は褒めるべき事でしょう。

 しかしながら騎士と魔物の身長、体格の差は歴然。

 醜悪な貌の魔物を見上げる様に、首を上に向けた瞬間――騎士の真横に急に振るわれた細長い腕によって呆気なく騎士の首は刈り取られました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る