第138話試行錯誤

 黒竜と遭遇した場所から馬車を先の街道へ出すだけで時間を食ってしまった僕達は、街道脇に馬車を停車させ休憩を取る事にします。

 ですが馬車に積んであった食材と水は黒竜が作った浅く広い穴に落下した時に、すべて駄目にしてしまいました。

 食材も、水も無いなら肌寒い外で休憩する意味はありません。

 馬さん以外の面子で馬車の座席で寛ぎます。

 それでも何も食べる物が無いというのは精神的にも堪えますよね。


 そういう時は魔石を食べれば多少は違ってきます。

 僕がこの世界に着いた時に食事代わりによく食べていましたしね。

 首に巻いてあるポーチからこの森で取れた魔石と、前回ガンバラ王国のワイバーンを倒した時の魔石を人数分取り出します。

 ミカちゃん以外は食事の代用品として魔石を食べた事が無いので、怪訝そうな面持ちを浮かべていますが……。


「これは非常食にゃ! 魔法も覚えられて一石二鳥にゃ!」


 ミカちゃんが魔法を覚える以外の魔石の使い方を説明しますが、水の無い状態で甘くない角砂糖の様な食感を楽しむにも困難を極めます。フローゼ姫が恐る恐る手を伸ばし、置かれた魔石を1つ手に取りました。エリッサちゃんもそれに倣い子狐さんと自分の魔石を手に取ります。


「まぁ、1つ食べてみて、水が無くても次を食べられそうならもう1つ頂こう」

「そ、そうですわね」

「アーン」


 2人が魔石を口に運ぶのを見届け、僕とミカちゃんもワイバーンの魔石を食べます。皆、口からシャリシャリと小気味いい音を響かせますが、中々飲み込もうとしません。やはり飲み物が無いと苦行の様相を醸し出していますね。


「ほう、これは――」

「覚えましたわ!」

「アーン!」

「私も覚えたにゃ!」


 僕以外の皆、体が光ったので何らかの魔法を覚えた様です。

 ワイバーンの魔石を食べたのは2個目だからか、僕は今回覚えなかったみたいですが同じ魔石が後1個あります。恐らくこれを食べれば僕もまた魔法を覚えると思いますが、楽しみにしていた大木の魔物から取り出した魔石を食べましょう。さっきのワイバーンの魔石は青色が濃く小ぶりでしたが、大木の魔物の方は明るく黄色が鮮やかでワイバーンより一回り大きい為に、爪で細かく砕いてから食べます。

 皆は最初の1個だけで十分な様で、僕が2個目を食べるのを見つめています。

 僕が魔石を飲み込むと一際明るく体が輝き、新しい魔法を覚えました。

 ここでこの魔法を覚えますか……どうせなら黒竜が掘った穴から出る前に欲しかったです。


「これで皆、新しい魔法を覚えたにゃ。大猿の魔石はまた後で食べるにゃ」

「ああ、魔法を覚えられたのは嬉しいのだが――まだ口の中がジャリジャリするぞ」

「これさえ無ければ言う事なしですのに……」

「アーン」


 皆はどんな魔法を覚えたんでしょうね。

 最近は皆と一緒の時に常時意思の疎通を使っているので、今の僕には皆が覚えた魔法が見えています。


●子猫ちゃん


攻撃系魔法・・・【爪研ぎ】【爪飛ばし】【ファイア】【メテオ】【ブリザード】【サンダーストリーム】【神速】【鋼の体】【重力圧縮】【重力殲滅魔法】【重力操作】【消滅】


バフ系魔法・・・【ヒーリング】【結界】【意思の疎通】


ユニークスキル・・【???】


●ミカ


攻撃系魔法・・・【神速の鏃】【ブリザード】【氷結】【アイス・サークル】【サンダー】【透明化】【神速】


バフ系魔法・・・【ハイヒール】【オーロラの輝き(周囲の土地に恵みを齎す)】【修復魔法(物理的な破損を修復)】【濃霧】【聖なる癒し(ハイヒールを半径20mにいる全員に齎す)】


ユニークスキル・・【跳躍】


●エリッサ・サースドレイン


攻撃系魔法・・・【氷の鏃】【ファイア】【ブリザード】【サンダー】【ストーン・ウォール(石の壁を築く)】【ストーン・サークル(石の檻で敵を囲う)】【ファイア・サークル(炎の檻で敵を囲う)】


バフ系魔法・・・【ヒーリング】【ストーンガード(石の盾が顕現し周囲を飛び交う)】


●子狐


攻撃系魔法・・・【氷の鏃】【ファイア】【鋼鉄の牙】【感電(サンダーの劣化版)】【ブリザード】【メテオ】


ユニークスキル・・【神速】


●フローゼ・アンドレア


攻撃系魔法・・・【ストーム・ドライバー(空気の大砲)】【アイス・ライトニング(氷の豪雨)】【掘削(巨大な穴を掘れる)】【神速】【ソード・ウエッジ(自身が持つ剣を魔力で覆い収縮が自在となる)】


バフ系魔法・・・【貫通のバフ】


 ミカちゃんは相変わらず女神様の様な魔法ですね。

 エリッサちゃんは……防御に特化してきた様に感じます。

 子狐さんも順当に魔法を覚えてきていますね。今の強さなら僕とミカちゃんでサースドレインの街を守った時位の強さでしょう。

 フローゼ姫は魔力で強化された剣ですか……バフと併用されたらちょっと怖いかもしれませんね。


 こんな感じで皆も強くなっていますが、それでも昼間遭遇した黒竜には――勝てないでしょうね。次に覚える魔法に期待しましょう。

 それにしてもこれだけ多くの魔法を取得しているのに、水の魔法を使える人が居ないとは……残念ですね。まさか氷を溶かして――。


 その手がありましたか!

 

 僕はミカちゃんに木の桶の中に魔法を撃てるか確認します。


「やってみるにゃ!」


 ミカちゃんが桶に手を翳し、薄っすらと掌が光ると――予想通りに桶の中に氷の塊が出来ました。これに炎を入れれば水が出来る筈です。

 でも僕のファイアでは強力過ぎて桶まで燃やしちゃいそうなので、子狐さんにお願いします。


「アーン」


 一言返事で了承してくれた子狐さんが、僕が魔法を放つ時の様に、凍った桶に手を翳します。僕の真似をしない方が十分な威力を出せるでしょうに……。

 エリッサちゃんが瞳を輝かせて見守っています。

 子狐さんの掌が微かに輝くと赤い炎が現れましたが、強力な魔力で作られたミカちゃんの氷に当たった瞬間――ジュウ、と寂しい消火音を鳴らすと表面に薄っすら水滴が付くだけで終わりました。


「アーン」

「子狐さん仕方ありませんわ」


 エリッサちゃんが失敗した子狐さんを抱きしめ慰めます。

 後は炎系の魔法といえば――エリッサちゃんのファイアかファイアサークル。  ひょっとしてメテオでもいけるんでしょうか?

 まずはエリッサちゃんのファイアからですね。


「行きますわ!」


 エリッサちゃんが気合の掛け声をかけ掌を翳します。

 結果――子狐さんよりは溶けましたが、桶の端に流れ落ちると冷たさを維持し続けている氷によってすぐに固まってしまいました。


「ミカさんの氷は手強いですわね!」


  次はファイアサークルで……と話していると、


「こんな事をしているなら、先に進んだ方が早いのでは無いか? それに水を魔法で作り出すなら妾が掘った穴にミカ殿が魔法を放ち、それを子猫ちゃんのファイアで溶かすのが一番早いと思うのだが……」


 確かにこんな事をしている場合ではありませんね。

 でも馬さんにも水分は必要ですし……フローゼ姫の案で試してみましょう。

 フローゼ姫が魔力を抑え気味に直径2m深さ50cm程度の穴を掘り――そこにミカちゃんが氷結で氷を作り出しました。僕は魔力操作には自信がありませんが、その穴に多くの魔物を燃やしてきたファイアを放ちます。


 すると――。


 青い炎は氷を溶かしますが、溶けてからもしばらく燃え続け炎が収まった頃には熱湯が出来上がっていました。


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