第86話ダークエルフのギルマス

 僕は倒した9匹が確実に死んでいる事を確認し、皆に知らせます。


「みゃぁ~!」


「流石子猫ちゃんにゃ! あんな魔法は勇者様位しか使えないにゃ」


 勇者は人ですけど僕は子猫ちゃんですよ。


 ミカちゃんは最初に倒した魔物の討伐証明を取り終わった矢先に、新たに出現したので、数の多さに少しげんなりしながらも僕を褒め称えてくれます。


「妾が読んだ文献でも、ミカ殿と子猫ちゃんの様な魔法は記載されていなかったぞ」


「私もですわ」


「アーン」


 皆が興味深そうに僕達が使った魔法の事を聞いてきますが、またいつ魔物が現れるか分りませんからね。


「今は急いで討伐証明と魔石を回収するにゃ!」


 僕が倒したスコーピオンは凍っていない為、僕の爪でも簡単に切り取れます。


 一通り全ての魔物から魔石と討伐証明を回収し、僕のファイアで一気に燃やします。


 ビックワームはそのままです。


 臭いですからね!


 全てを回収した所で、太陽は既に頭の真上に来ています。


「倒すよりも、魔石と討伐部位の切り取りの方が、時間がかかるにゃ」


 おどけながらミカちゃんが愚痴を漏らします。


 うん。確かに倒すのは一瞬ですが切り取る手間がかかりすぎですね。


 僕達はお昼を持って来ていません。


 何故って?


 この暑さの中で、加工した食べ物なんて持っていたら直ぐに悪くなってしまうからです。


「依頼は達成したにゃ。もう戻るにゃ!」


 街から遺跡まではそう離れていません。


 僕達はお水が無くなる前に、正門に戻りました。


 正門に戻り守衛さん達に討伐部位を見せると、


「すげーな! こんなに持ち帰った冒険者は初めてだぞ」


 そんな風に驚かれましたが、子爵様の街でも似たような感じでした。


「私達に掛かればこんなものにゃ」


 無い胸を張ってミカちゃんが答えると、ドン引きされてしまいます。


 まったく失礼な守衛さんですね。


 これから大きくなるんですよ。


 冗談はさておき、この街でも英雄を見るような視線を投げかけられながら、冒険者ギルドにやって来ました。


 ギルドの暖簾を潜ると――。


「ようこそ冒険者ギルドへ……なんだ。あんた達かい」


 昨日、僕達に依頼書を発行してくれたおばさんが、僕達を目に止めあからさまに声のトーンを落します。


 ミカちゃんがそれを気にするでもなく、


「討伐を達成してきたにゃ」


 そう言い終えるなり、カウンターの上に重くなったバックを置きます。


「なんだいこれは?」


 自分の目の前にドン、と置かれたバックを眺め嫌そうに口に出します。


「だから昨日受けた討伐依頼の証明部位にゃ」


 ミカちゃんが尚も繰り返し言いますが、何を馬鹿な事をと言葉を零しながらバックを開きます。


 すると――。


「――!! スコーピオンの尻尾が17本! ワームの目が1つ、ビックワームの目が1つだって……」


 当然驚かれます。


 このおばさん、まさか昨日の今日で討伐してきたとは、信じていなかったようですね。


「そうにゃ。午前中だけでそれだけ倒したにゃ!」


 ここでもミカちゃんが胸を張りますが――。


 おばさんの視線はミカちゃんを見ずに、討伐部位に釘付けです。


 おばさんが中々次の行動に移らないので、焦れたフローゼ姫が声に出します。


「おい! 依頼は達成されたのだろう?」


 威嚇を含んだ声音に流石に正気に戻ったおばさんが、しばしお待ちをと言い受付の奥へと駆けていきました。


 まったく、いつまで待たせるんでしょうね。


 僕達はお腹を空かせたまま、ギルドに直行してきたので今にもお腹の虫が鳴りそうなのに……。


 暫く待たされると、漸くおばさんが戻ってきて、奥の部屋に誘われます。


 奥でギルドマスターが待っているとか何とか言っています。


 まだ時間が掛かるんですか……。


 皆、お腹を擦りながらおばさんに付いて行きます。


 おばさんが一番奥の扉をノックすると、中から女性の声が聞こえました。


 おばさんは扉を開き、僕達を中に案内します。


 中に入ると、奥に大きな机が置いてあり、そこの網で編んだ椅子には褐色肌の綺麗なお姉さんが座っていました。


 おばさんは、僕達が持ち込んだバックを机の上に置くと早急に部屋から退出します。


 おばさんが扉を閉めて出て行ったタイミングで、正面の褐色肌の美人さんから声が掛かります。


「――やっぱりね」


 何がやっぱりなんでしょうか?


 それにしても、この人の耳……何処かで見た事があるような。


 僕がそう思っていると――。


 予想外の所から声が聞こえます。


「まさかダークエルフか!」


 フローゼ姫が声を震わせながら種族名を口にしました。


 ダークエルフとは何でしょう? エルフなら大樹で会いましたが……。


 正面に座る女性が、細長い足を組み替え妖艶な仕草で吐息を漏らします。


「うふふ、久しぶりにその呼び名を聞いたわね。この街のギルドマスターをしているシャラドワ・ドラウよ。ここの呼び方だとドラウ・シャラドワかしらね」


 この砂漠の国では苗字が名前の先に呼ばれます。


 このダークエルフのギルマスは、シャラドワさんと言うみたいです。


 自分の頬を手の甲で撫で付けながら、色っぽく自己紹介をしてくれました。


 でも生憎ですが、ここには男は僕しか居ませんよ!


 僕がそんな色気に惑わされる筈も無く、さっさと用件を終わらせようと声に出します。


「みゃぁ~!」


 ミカちゃんが通訳をしようと口を開きかけると――。


「あら、そんなに急がなくてもいいじゃないの。迷い人ならぬ迷い猫さん」


 僕の存在を知っていて、敢えて僕に色目を使っていたようです。


 駄目ですよ!


 僕にはミカちゃんが居るんですから!


 僕はこの得体のしれないギルマスを警戒します。


「今日は討伐部位を持って来ただけにゃ。お腹も空いているので早くして欲しいにゃ」


 ミカちゃん、お腹が空いているのは事実ですが、この人の前でそれを言わなくても……。


 ミカちゃんの発言を受け、ギルマスが机の上のベルを鳴らします。


 程なく、若い少女が扉を開くと――。


「このお客さん達に何か食べる物を、何か要望はあるかしら?」


 ご馳走してくれるみたいです。


 ここで過ごす時間が長くなるのは確定しましたね。


 フローゼ姫以外の皆は辛い物が苦手なのでそれを伝えると、ギルマスが小首を傾げ何か考え事をしてから少女に指示を出します。


「それじゃ、日暮れ宿の肉料理と山羊のシチューを人数分。あたくしの分もお願いね」


 指示を受けた少女は、部屋から出て行くと廊下を駆けていきました。


「さて依頼の品から確認しましょうか? それともあなた達の目的からかしらね?」


 一瞬、ギルマスの瞳の奥が光った様な気がします。

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