第77話砂漠の民

 僕の力を当てにされても、仲間にする気はありません。


 ではどうするのか?


 その人間達の事を聞いてみましょう。


「みゃぁ~?」


「あの人間達はここから北西に、丸1日歩いた砂漠地帯からやって来たのじゃ」


 砂漠ですか……砂漠とは何でしょう?


「みゃぁ~?」


「子猫ちゃん、砂漠といえば砂しか無い所にゃ!」


 砂しか無ければ人が住めないんじゃ?


 僕は砂漠というものを見た事はありません。


 お婆さんの家の近所にある子供が遊んでいた砂場なら知っています。


 僕が首を傾げていると、フローゼ姫が口を開きます。


「砂漠とは自然現象によって雨が降らなくなり、草木が消え一面砂の世界になる事だな。妾も実際に見た事は無いが、文献ではそう書いてあった」


 この近くにも似た場所があるじゃないですか!


 赤茶けた土地とか……。


 もしかしてここも砂漠なのでしょうか?


「みゃぁ~?」


「迷い猫殿、ここは砂漠では無いのじゃ。川から水を吸収しておる分、草木は植林すれば生えてくるのじゃ」


 その境目が良くわかりませんが、今は関係ありませんね。


 その砂漠の人がエルフの森から全ての木を伐採した様です。


 森の木々全てを使って、何をしているんでしょうね?


 ならその人達が、今後エルフに手を出さない様にすればいいのかな?


 僕達が注意をしても、効果は期待出来ないと思います。


「何とかしてあげたいけれど……話し合いで解決出来ない相手にゃ」


「妾も1国の王女という立場で、他国に干渉は出来ぬぞ?」


 王女様でも他国となると手を出せない様です。


 ――すると。


「妾達が望むのは、妾達が魔法を使える様になる事なのじゃ。そうすれば防衛も出き、植林してからも成長促進の魔法を使える筈なのじゃ」


 う~ん……誰彼構わず仲間には出来ません。


 それに僕の仲間になっても、魔法を覚えるのは魔石を食べた時だけです。


 都合よく、成長促進の魔法が使えるとは限りません。


 魔法の件は、エルフ達の問題ですね。


 それをセロナに大事な部分はぼかして説明します。


「みゃぁ~」


 僕の話を聞いて落胆したセロナは、俯いてしまいました。


 そして……「10年前に勇者を見つける事が出来ていれば……」と言葉をボツリと零します。


 10年前に勇者がこの世界に来たようです。


 あれ?


 どこかで似た話を聞いた気が……。


 僕が首を傾げて思い出そうとしていると――。


「10年前といえば……腐った豆を広めた迷い人ではないか?」


 フローゼ姫から回答が出ました。


 僕達が納得していると、1人だけそれに反応を示した人物が……。


「10年前の迷い人を知っておるのか?」


 先程まで落胆して落ち込んでいた表情から一転、キラキラと瞳を輝かせ言葉を投げかけてきました。


「知っていると言うか……妾の国で腐った食い物を広め、頭のおかしな人物として塔に幽閉されたが、気づいたら姿を眩ましておった人物だな」


「なんともった……いえ、残酷な事をするのじゃ!」


 セロナさん、今絶対もったいない事をって言おうとしたでしょ?


「あの者の世界で流通しておる食べ物だとは知らなかったのだ。王都に腐った食べ物の匂いを充満させ混乱を引き起こした。仕方なかろう」


 確かにあの納豆の匂いは臭いですからね。


 お婆さんは、毎朝ご飯にかけて食べていましたが……。


「その者は今どこにおるのじゃ?」


 僕を仲間に引き入れられないと知れば、すぐ次ですか……変わり身の早い人ですね。


「幽閉されていた塔から突然姿を眩ましてそれっきりだ。妾の国でも2度と同じ食べ物を流通させなければ追わぬからな」


 行方知れずと聞き、またしてもセロナは表情を暗くしています。


 変わり身だけでなく、表情もころころ変わるとか――面白い人ですね。


 僕が接近した事には気づいたのに、その迷い人が何処にいるのかは分らないのでしょうか?


「みゃぁ~?」


 尋ねてみると……。


「近くに居れば分るのじゃ。だが――遠く離れておったらわからぬのじゃ」


 それじゃ、その人が近くに居ない現状では無理ですね。


 そんな話をしていると、廊下を駆けてくる音が聞こえてきます。


 障子の向こうでは、僕っ子と掛けて来た人が言い争いを始めます。


 一体何が起きているんでしょう?


 掛声も無く突然障子が開くと――。


「長、大変です。またあいつ等が来ました!」


 男のエルフの腰に僕っ子がしがみ付いて止めようとした様ですが、話す言葉は男でも体は少女です。力で押し切られた様でした。


 障子が開かれると、話題の人族が現れたと伝令が報告してきました。


 僕達の会談は中止となり、長は大樹の上から地上を見つめています。


 僕達もエルフを苦しめている人間を見てみましょう。


 長が見ている先には真っ白な雲があって何も見えません。


 長の翡翠色の瞳は、金色に輝いています。


「人数は――およそ100か」


 長には地上の様子が見えている様です。


 不思議に思っていると――。


「ほぉ、エルフの長が透視のユニークスキル持ちとはな」


 フローゼ姫はセロナの瞳の謎が理解出来ている様です。


「そうなのじゃ。妾の一族は代々このスキルを持って生まれてくるのじゃ。それよりも人族が大樹を探してうろついておるのじゃ」


 大樹に掛けられた結界魔法の効果で、この木を視認出来ていない様です。


 でもそれも時間の問題だと言います。


 流石に近距離まで近づけばその効果も消え、姿を晒してしまうのだそうです。


 でも神木である大樹に傷を付ける事は出来ない筈です。


 木々を伐採した他にも何か狙いがあるのでしょうか?


「ここはユグドラシルでも最上階なのじゃ。そなた達でも見られる場所に移動するのじゃ」


 付いてくるのじゃと誘われ、僕達一行と僕っ子、長は転移の部屋に入ります。


 先程と同様、光り輝くと外の景色が変わりました。


 案内されるまま展望室へとやって来ます。


 そこからは地上が一望出来ます。地上にはこぶが付いた馬に跨った兵が100人近く集まっています。


 彼等は、エルフがこのユグドラシルに隠れている事を知っているのでしょう。


 地上から大声でエルフを呼んでいます。


 長の指示で高さ10m位の場所にある窓を開け、若い男のエルフが用向きを確認しています。


 すると――。


「我等に力を貸せ! 貸さねば大樹を燃やすぞ!」


 偉そうな身なりの兵が、脅している様です。


 散々木々を伐採した挙句に、力を貸せとか馬鹿なんでしょうか?


 若いエルフが断わると、木々の周りに何か液体を掛けています。


 あれ?


 この匂いは僕も嗅いだ事がありますよ。


 お婆さんの近所にある、人を乗せた箱が良く立ち寄る場所の匂いです。


 液体を撒き終えた兵は、何か道具を使って火をつくり出します。


 その火を、振り撒いた液体に近づけると――。


 ボワッと音が鳴り一気に燃え出します。


 しばらくその様子を眺めていますが、大樹が燃える事は無く、燃え盛った火は勢いを弱め、次第に鎮火しました。


 大樹には傷すら付けられないと言っていたのは本当の様ですね。


 火が止むと、各層の窓が開き弓を持っているエルフ達が一斉に矢を放ちました。

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