第73話エルフ

 魔法をこちらに向け放っておいて、恩知らずとは何でしょう?


 僕は抗議します。


「みゃぁ~!みゃぁ~!」


 すると、まるで僕の声が聞こえているかのように、目を細め言い返されました。


「だから恩知らずだと言うんだ! せっかく魚を捕まえてあげたのに……」


 船の船首に仁王立ちで立ち、両手を腰に当て偉そうに言葉を放ちます。


「子猫ちゃんが、泳がなくても良い様に、魔法で魚を飛ばしたというにゃ?」


 ミカちゃんが怒っている僕を宥めるように抱きかかえながら、相手と会話します。


「だからそうだって言っているじゃないか!」


 そんな事は始めて聞きました。


「妾たちはそんな事は聞いておらぬぞ!」


 フローゼ姫が、反論してくれます。


 すると――。


「何故こんな場所に人族がいる! ここはお前達人間がくる場所では無い!」


 ミカちゃんの時は何事も無かったのに、フローゼ姫に気が付いた途端に相手の態度が変わります。


 どうしたのでしょうか?


「おい! 猫と猫獣人も早く逃げなければ人間に殺されるぞ!」


 えっと……何か勘違いをしている様です。


「みゃぁ~みゃぁ~みゃぁ~!」


 僕が、皆仲間なんだよと説明すると、疑った様にジロジロと全員を見渡されます。


 鎧を着こんで武器を持っているのは女1人か……。


 何やら呟いていますが、僕にもミカちゃんにも聞こえていますよ。


 僕達が用心して対峙していると、川に浮かんでいる船がこちらに近づいてきました。


 いつでも魔法を放てる様に、手に魔力を纏わせ待機していると――。


「僕達は君の敵では無いよ。その魔法を解除してくれないかな?」


 そう告げられました。


 僕が魔法の発動状態にある事を、見破られたのは初めてです。


 仕方ないので解除します。


 するとホッとした表情を見せ、船首からジャンプして陸に着地します。


 その少女が着地すると、胸が大きく揺れました。


 僕は珍しさからそれを目で追っていると――。


「子猫ちゃんは見ちゃ駄目にゃ!」


 そう言ってミカちゃんに目隠しをされました。


 何故でしょうか……。


「ようこそアルフヘイムへの玄関口へ!」


 この僕っ子の少女は両手を広げ川の方へと掌を翳します。


 すると――。


 川がある場所の対岸に、巨大な天まで届きそうな高さの木が出現しました。


「僕達エルフは、迷い人を歓迎します」


 何故僕が迷い人だと分るのでしょうか?


「みゃぁ~?」


 僕が尋ねると、聞かれた事が意外だったのか首を傾げ言葉を漏らします。


「僕達が作ったゲートを通って来た者は、全て僕達には分るんだよ」


 それを言うなら、ミカちゃんも、エリッサちゃん達もゲートを通ってきましたよ?


 僕が詳細を聞こうとすると、


「私達はアンドレア王国の森からここに飛ばされて来たのですわ!」


 いつもは控えめで、聞き役のエリッサちゃんが声を掛けました。


 僕がエルフの少女を見つめていると、エリッサちゃんが喋りだした所で、微かに、他の人は気づかない位に僅かに頬が引き攣りました。


 僕は一層警戒の色を深めます。


「その様なゲートは知らない。だが、異世界と繋ぐゲートなら知っている」


 僕がこの世界へやってきたのは、エルフの仕業だったようです。


 でも何で僕なのでしょう……。


 僕が言葉を捜していると、ミカちゃんが声を発します。


「私達はアンドレア国に帰らないと行けないにゃ。その為にはエルフの領地を通らないと行けないと親狐さんから聞いたにゃ」


 ミカちゃんが説明すると、エルフの少女はさっき引き攣った面持ちは嘘の様に笑顔になります。そして――。


「あの千年狐に会ったのか。元気――」


 言葉を途中で遮ると、エリッサちゃんに抱えられている子狐を認めます。


「まさか、君達が千年狐を殺して子狐を奪ってくるとはね……」


 大きな勘違いをされたようでした。


 僕は文句を言います。


「みゃぁ~!みゃぁ~!」


 すると、意外そうな面持ちを浮かべ子狐さんに話しかけます。


「君の親はこいつらに殺されたのかい?」


 言葉の意味を理解していれば、子狐さんは正直に話してくれるでしょう。


 でもどうなのでしょう?


 そう考えたのは杞憂でした。


「アーン、アーン」


 子狐さんが声を漏らすと、少女は大きな緑の瞳を見開き驚いています。


「まさか、千年狐が子供を託すなんて……」


 余程意外な様でした。

 

 でも、主さん、(以降は千年狐さん)が僕達に預けたのは事実です。


「みゃぁ~!」


 嘘は言っていないでしょ!


 そう告げると、少女はコクリと首肯し謝罪を口にします。


「疑ってすまなかった。まさかあの偉大な千年狐が他人に子供を預けるとは思ってもみなかったんだよ」


 殊勝な態度で謝罪を口にしているのでここが落とし所ですかね?


 僕達も沢山の魚を陸揚げしてもらいましたし……。


「謝罪はもういいにゃ。それよりこれから魚を焼いて晩御飯にするにゃ。良ければ一緒に如何かにゃ?」


 ミカちゃんが晩御飯に誘いますが、


「いいえ、私は迷い人を迎えに来たのです。晩御飯ならエルフで用意致しますが……」


 確かにここで魚を焼いても、味気ないだけですね。


 ミカちゃんがエルフの誘いに乗るか、皆と話し合っています。


 僕はミカちゃんが決めた事なら着いていくだけですよ。


 そしてフローゼ姫、エリッサちゃん、ミカちゃんの話し合いが終わり、エルフの目の前にミカちゃんが来て言い放ちます。


「晩御飯はここで食べるにゃ! エルフの里は明るくなってから行くか考えるにゃ!」


 ミカちゃんも会話の途中でエリッサちゃんを見た時に見せた表情の変化を気にしていたみたいですね。


 エルフはまた明日来ますと言い残し、船へ飛び移るとまた川に潜って行きました。

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