第39話お手本

「まぁ、それでは子猫ちゃんが、その盗賊を倒してくれたお陰でミカさんは無事だったという事ですのね」


「そうですにゃ。それからは2人でこの街まで来ましたにゃ。来る途中に林の中を通ってきたからいっぱい魔物を倒したにゃ」


「それは、凄い事ですわね。お父様から聞き及んでおりますが、あの林は魔物の巣窟らしく、強い冒険者の方でも依頼でも無ければ入らないと窺っていますわ」


「子猫ちゃんが一緒だったから問題無いにゃ」


「みゃぁ~」


 僕達は、庭に備えられているスペースで紅茶を頂いていました。僕のは、わざと温くした紅茶を用意してくれています。


「ミカさんは、いつから魔法が使えるように?」


「私は、まだ覚えて1週間位にゃ」


「――えっ。それでもうAランクの魔物を倒したんですの?」


「そうですにゃ。子猫ちゃんが魔石を食べていて、そんなの食べるものじゃにゃいと言ったら、魔法を使って見せてくれて――それで魔石を食べれば魔法が使える事に気づいたにゃ」


「みゃぁ~!」


 エリッサちゃんも興味津々の様子です。でもまだ近くにメイドさんが居てこちらの様子を窺っていますから今は、無理ですね。


「私も、使えるようになるのでしょうか?」


「多分、大丈夫にゃ。私が使えるようになったにゃ。獣人は普通は、魔力が低く、魔法は使えないと言われていたにゃ」


「そうですわよね――私もそう教育係から教えて頂きましたわ」


「でも実際には違ったにゃ。誰も魔石を食べなかったから、気づかにゃかっただけにゃ」


 先程、渡した魔石はまだエリッサちゃんが持っています。後で試してみるといいでしょう。


「でも魔石は、最近特に貴重なのだそうですわ」


「私と子猫ちゃんなら1日で50個近くは集められるにゃ」


「まぁ、凄いのですわね」


 僕達の武勇伝を聞いて、エリッサちゃんは目を白黒させています。


 すると、エリッサちゃんから――。


「良ければ、何か魔法を見せて頂けません事」


「いいですにゃ。何か的が欲しいですにゃ」


 メイドに申しつけ、庭に要らない酒樽が用意されます。


「行きますにゃ」


 そう言って、ミカちゃんが掌を翳すと――樽の中央に、『ゴゴゴグワァーン』爆音と共に、光の帯が降り注ぎました。


「きゃっ」


「大丈夫ですにゃ。狙ったのはあの樽ですにゃ」


 エリッサちゃんが驚いて悲鳴をあげましたが、それを見たミカちゃんは直ぐに宥めます。


「驚きましたわ。あんなに凄い魔法は初めて見ましたの」


 エリッサちゃんが話していると、城の中から大勢の人が出てきました。


「お譲様、大丈夫ですか」

「お怪我は御座いませんか」

「今の轟音はいったい――」


 皆、あの魔法に驚いた様でした。


「今のは、私がミカさんにお願いして魔法を見せてもらっていた音ですわ。あれをご覧になれば分りますでしょ」


 そう言って、ミカちゃんは樽を指差します。そこには、燃えていないのに真っ黒に焦げ付き、バラバラになった樽の残骸だけが残されていました。

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