第206話悪魔の城への道中「鏡花水月」編2

 この洞窟内には線路はない。だが確かに列車は大きな音をたてこちらに向かってくる。


「な、な、なんでござるかあの悪魔は!?速いでござる!まずいでござる!」

「十左エ門!とにかく走れ!考えるのは後だ!」

「ウィルさん!無理です!流石に追いつかれます!」

「っこのハーレム王子!!敵を引き付けてとはお願いしましたが、列車までひきつけないで下さい!」

「アカンッ!このままやと30秒の経たずに轢き殺され!」


 珍しく卍さんに座長さんまで声を荒げ全力で走る。だが列車は当然はそれより速く、仮に僕がスキルをフルに使ったとしてもすぐに追いつかれるだろう。


 なら斬るか?一瞬考えたがすぐにやめた。まずあの列車を斬れる気がしない。そして仮に斬れたとしてもあの巨体が爆発したら恐らく誰も助からないだろう。


「来ないで来ないで!!「レインシャワー」!!」

「ちょ!あれが爆発したらどうすんねん!」

「二人ともしゃべる暇あったら走ってください!!」


 恐怖に負け冷静な判断が出来なくなっているフクチョウが、列車に矢の雨を降らせるが当然列車はそれをもろともせず走り続ける。

 

 だが仕方ない事だろう。いくらゲームとはいえ列車に跳ねられたいと思う人はそういないだろう。いたとしたら一度病院で見てもらった方がいい。


「ウィル殿!流れ人は死なないのだろう?「火の国」を頼むでござる!」


 十左エ門のその一言で僕はハッとなる。僕らは死んでも復活するが、現地人は死んだら二度と復活しない。つまりここで僕が諦めれば十左エ門とは二度と会えなくなる。


 くそ!何かないのか、何か手は!?列車がすぐ後ろに来た瞬間僕は閃く。


「皆!天井ギリギリまで飛べ!!今だ!!」


 既に諦めかけている皆に有無を言わさず天井まで飛ばせる。


 理由は先ほどフクチョーが放った「レインシャワー」。確かにその攻撃は列車に阻まれたが、範囲攻撃の上の方の矢は何にも当たらず後方へ飛んで行っていたのを思い出したからだ。


 何とか列車が僕らを轢き殺す前に、皆列車の上に飛び乗ることに成功した。


「はぁはぁ、し、死ぬかと思った」

「はぁ、二度とこんな経験したくないですね」

「ほんまや、トラウマや、こんなのトラウマになるで」

「さ、流石ウィル殿、助かったでござる」

「列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い……」


 皆膝から崩れ落ち肩で息をしている状態の中、フクチョーには刺激が強すぎたようで体育座りをしながら虚ろな眼で何か呪文のようなものをつぶやき続けていた。


 本当にギリギリだった。洞窟内は薄暗く、そして僕らは列車のライトによって列車の正確な大きさまでは把握できなかった。


 今回はフクチョーの攻撃のおかげだろう。まぁ本人はその事に気が付かず呪文を唱え続けているが。


 皆が未だ座っている中僕は立ち上がり列車の両サイドを確認する。洞窟と列車の幅はほぼ同じで、どうやらこの列車は横にも車輪がついているようだ。つまり線路がなくとも列車と同じこの洞窟自体が線路となり、そのおかげで列車はまっすぐ進めているという事らしい。


「ん?」


 列車のライトが何かを照らす。


・洞窟門番バージョン4


 あ、モンスターだ。と思った瞬間列車はロボをそのまま轢き殺す。同時にロボは大爆発を起こし辺りは煙に包まれる。


「きゃあ!?な、なにが起きたんですか!?」

「な、何かにぶつかったんやないか!?列車は無事なんか!?」

「あ、悪魔がいたでござるか!?」

「列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い……」


 僕もモンスターの名前を全部読み切る前に列車が衝突してしまった為唖然とし、彼らの疑問に答えることが出来なかった。そしてフクチョーはなんか怖い。


 煙が晴れた時、フクチョーがいきなり立ち上がり列車の前方の方へふらふらと歩き出す。


「ふ、フクチョー?危ないぞ?しかもなんか怖いぞ?」

「そ、そうですよフクチョーどうしたんですか?」

「ふふ、ふふふ。列車怖い列車止める列車怖い列車止める……」


 フクチョウはなにかぶつぶつ言いながら列車の先頭にある操縦席の方へ降りていく。


「で、でも確かにこのままだと止まるか分からんし、ブレーキを探した方がいいんやないか?」

「た、確かにそうでござるな。座長殿の言う通りでござる」


 皆もその事に同意し一番前の車両の中へ降りる。僕が最後に降りた時にはすでにフクチョーがブレーキらしきレバーを発見し握っていた。


「列車怖い列車止める列車怖い列車止める!列車止める!!」


 皆が見守る中フクチョーは今の感情をぶつけるかのようにレバーを思い切り押し、そしてレバーを折った。


「「「「「……は?」」」」」


 列車は一瞬その速度を緩めたが、すぐにまた加速を始める。


「ぎゃあああああ!!??」

「「「「ば、ば、馬鹿やろーー!!」」」」


 ブレーキが壊れ止めることが出来なくなり、まさに暴走列車化した中で皆が叫ぶ。


「ど、ど、どうしましょう!?折れてしまいました!」

「見れば分かる!皆、上に登って最後尾まで!飛び降りるぞ!」

「ウィル殿!思ったよりこの列車は長く最後尾が見えないでござる!」


 僕の声にいち早く反応し上に上った十左エ門から報告が入ったがそれでも皆で何とかそこまで行くしかない。


 皆が上に上った時、さらに不幸が続く。


「「「きゃあああ!!」」」


 列車が突然方向を変え洞窟の上へ上へと昇っていく。だが不幸はそれで終わらない。


「ウィル殿!正面!行き止まりでござる!!」


 正面は行き止まりになっており、壁の中央には細い階段があるだけだった。恐らく普段は列車は先ほどの坂道の手前で止まり、あとは徒歩でこの階段を上り地上へ上がるのだろう。


 次々に起こる出来事に絶望しながらもなんとか頭を働かせる。もう皆で後方へ逃げている時間はない。かといって正面には列車が通れるほどの幅はない。万事休すか?


「アカン!ほんまにぶつかる!!」

「うぃ、ウィルさん何か手は!?」

「このままではまずいでござる!!」

「列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い……」


 考えろ考えろ!周りをよく見るんだ!何か手はあるはずだ!!


 冷静に辺りを観察すると、正面の壁に沢山の亀裂が入っているのが確認できた。なら一か八か……


「全員で正面の壁を撃破しよう!ある程度壊せば列車が何とかしてくれるはず!!」

「えええ!!??で、でもウィルさんがそう言うなら!」

「考えてる暇はなさそうやな!もうヤケや!うちは乗った!!」

「うぐ!や、やるしかないでござるな!拙者も侍!腹くくるでござる!」

「列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い……」


 一人体育座りしたまま動かないがもう説得している時間もない。


「皆全力で行くよ!?「雷神衣威」「剛剣」「乱れ切り」「かまいたち」!!」


 僕と卍さん十左エ門は斬撃を飛ばし続け、座長さんは最大級の火の玉を何度も壁にぶつける。


「「「「はぁあああああああ!!!」」」」

「列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い……」


 攻撃が壁に当たるがその衝撃で砂煙が上がり、壁がが壊れたのかどうか確認できない。だが誰一人攻撃を辞めることなくスキル使い続ける。


「列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い……」


 絶え間ない攻撃に確かに壁が崩れ落ちる音が聞こえる。だがその手を休めるものはいない。もう列車がぶつかるまで数秒もない。


「列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い……」


 皆衝撃に備え足を踏ん張りながらも頑張る。


「「「「はぁああああああああ!!」

「列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い列車怖い!!!!」


 そしてその瞬間が訪れる。凄まじい衝撃に皆耐え列車にしがみつく。どうやら壁は一枚だけではなかったようだ。2,3度小さな空間を突き抜け階段をどんどん上り、その都度列車が壁を破壊する。そしてとうとう地上へ……。


 だが地上へ出た瞬間再び何かにぶつかり大爆発を起こす。


「「「「「ああああああああああ!!??」」」」」


 恐怖からか、その衝撃からか。皆いつの間にか叫びながら上空へと打ち上げられ、そして大きな門のような物を破壊しながら着地し、そして列車は止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る