第165話ノアとアニの街

「・・・・・・という事なのだよ。お願いできるかね?」

「・・・一つだけいいですか?」

「・・・なんだね?」

「・・・何故僕らなんです?もっと適任がいると思うのですが・・・。」

「先ほども言ったように恥ずかしながら信用できる人間が少なくてね。それにその「指輪」を持つ者以上に信用できる者などいるはずがない。」


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クランシークレットクエスト【ノアの護衛】


大国神官長のノアを護衛してアニの村まで行こう。


このクエストは一度断ると二度と発生しないクエストなので答えはよく考えよう。


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僕らは目配せをして意思を確認しあう。


「・・・わかりました。その依頼、お受けいたします。」

「・・・助かる。ではまた明日・・・。」


そう言い残しノアは素早く「カンパニー」ホームから立ち去って行った。

その後ろ姿は何か大きなものを背負っている様に感じた・・・。



僕らは今の話の内容を確認しあっていた。


「・・・この国がそんなに不安定だったなんて知らなかったわ・・・。」

「そうだねー。でも話が大きすぎてわからないよ~~。」

「ん。政治に裏切りはつきもの。」

「そうね・・・。とりあえず話をまとめましょう。」

「だね。とりあえず僕が理解したのは神官長は国の裏切りの容疑でアニの村まで飛ばされた事。そしてこの件に副神官長と王族がかかわっている事。そして内乱が起こるかもしれないという事の3点かな・・・。」

「それであってると思うわ。だけど大事な部分は伏せていた気がするわね。」

「流石に今は話せないんじゃないかなぁ・・・。まだアイリスとかは初対面何だし・・・。」

「ん。彼の信頼を勝ち取ればまた話が聞けると思う。」

「そうね。まずは依頼をしっかりやりましょう。」


こうして今日は僕らは早めのダイブアウトをした。

これから起こるであろう大きな出来事の為に英気を養うためだ。

僕らは家で宿題におわれている絵里奈にも話をした。


「・・・うむ。なるほど。さっぱりわからん!!」

「だろうね・・・。じゃあもう一回簡単に説明するよ?AOLの世界で唯一の宗教である「フィリア教」。その組織が巨大な為、昔から政治には関わってはいけないという法律があるんだけど、今その法律を壊そうとしている動きがあるそうなんだ。それが副神官長のブクブク、そして王族の誰かが協力してそれを止めようと知ている神官長のノアを追い出そうとしているんだ。だけどそれを王様が止めたため何とか遠くの街へ飛ばされるだけで済んだんだ。そして僕らはその道中の護衛役というわけさ。」

「うむ!!わからん!!」

「まだ分からんか。そしたら僕はもうお手上げだな。」

「何で王族が出てくるのだ?その「フィリア教」とかいう内輪もめではないのか?」

「さすがに大国のフィリア教トップの神官長をその椅子から下ろすのには難しいのよ。でもそれを簡単にできる存在がいる。」

「・・・それが王族か。」


ようやく絵里奈も少し理解してきたみたいだ。


「そう。政治と宗教が手を結んで力を手に入れるってことは凄く怖いことだと思うの。権力が一カ所に集中してしまうから。でもそれを王族が推薦しているという事は恐らく王座の跡取り問題が絡んでくると思うの。」

「・・・つまり・・・。わからん!!」

「・・・まぁとにかく僕らに護衛の依頼が来たという事さ。」

「うむ!!それならわかりやすい!!俺も行くぞ!!」

「もちろん。その旨は伝えてあるから。だから今日中に宿題をかたずけてしまおう。僕らも手伝うから。」

「おお!!それは助かる!よろしく頼む!!」


僕らはその日夜遅くまで絵里奈の宿題を手伝ってからベットに潜り込んだ。

これから起こる大きな事件の事など知る由もない・・・。



「さて、それでは行こうか。」

「はい。よろしくお願いします。」

「はっはっは。こちらこそよろしく頼むよ。どうかこの旅にフィリア様の加護がありますように・・・。」


僕らは王都西門の外でムギ、ホップ、バクガ、そしてレイの愛馬のカルロスにそれぞれ乗り込む。

僕はエリーゼと、エリザベスはレイと、アイリスはクリスと、カルロスにはノアが一人で乗っている。


「・・・馬の扱いが上手なんですね。」

「うむ!!俺の愛馬を乗りこなせる奴は中々いないぞ!?」


ノアは初め何かカルロスと話をしたかと思うとカルロスは水から腰を折り、ノアを背に乗せ走り出した。

今は旅用のローブを着こんで身分を隠している為、その姿だけを見たら旅慣れた冒険者にしか見えないだろう。


「はっはっは!!こう見えて私は田舎の出身でね。今から行く「アニ」の街出身なのだよ。田舎者の男は皆馬の扱いには慣れている者さ。」


ノアは王都から追い出された皆のに、それを感じさせないほど明るく感じる。

それが僕らに心配させまいとわざと明るくふるまっているのか、それとも本当に故郷に行くのが楽しみなの僕には判断がつかなかった。


「「アニ」の街は本当にいいところなんだ。王国の少し外れの方にあるが綺麗な街でな。人口は1000人と規模は小さいが周りの町々の習慣地点になっている為いつも人に溢れている。そして何より自然豊かな場所にある為食事が上手いのだよ。」

「それは楽しみですね。位置的には大国の西の方・・・であってましたよね。」

「うむ。いくつかの街や砦、城を越えないといけないがこの馬なら早く着くだろう!こんな立派な馬は王国でもそうそうお目にかかれない!!実に愉快愉快!!」

「ほう!!ノアは馬の見る目があるな!!だがやらんぞ!?」

「はっはっは!!確かにこの馬はいくらはたいてでも売ってほしくなってしまうな!!」

「おい!!売らんぞ!!カルロスは俺のだぁ!!」


道中は会話が弾みとても楽しいものとなった。

ノアは初めは厳格のある固いイメージの人だったが、話をしてみるととても砕けた人で優しかった。


「そう言えば僕らは西の方に行くのは初めてなのですが他にはどんな町があるんですか?」

「そうだな・・・。まず「アニ」の街周辺を統治している「パレンケ伯爵」が所有する街がいくつかある。そしてそのさらに西に行くと要塞都市「ケロケロソンヌ」という城がある。そしてそこよりさらに西に行くと・・・。乾いた国、帝国がある・・・。」

「乾いた国・・・、とは?」

「その名の通りあの国は色んな意味で常に乾き潤いを求めている。常に戦いに飢え、食べ物に飢え、大地は乾き飢えている。あそこには行くことはあまりお勧めしないな・・・。」


帝国・・・。

そこには以前僕が「試練の塔」で負けた「リムル」がいる国だ・・・。

まぁ行きたいとは思わないな・・・。


「帝国が攻めてくることはないのかしら?」

「ない事はない。だが最近は静かだな。と言ってもちょこちょこ侵略はあるのだよ。しかし「ケロケロソンヌ」の街がある限りこの国は侵略されることはないだろう。あそこの街はいいぞ?「アニ」の街のつぎにいい。君たちも「アニ」の街の次にはそこに行ってみなさい。あそこの神官は私の弟がやっていてね。きっと力になってくれるはずさ・・・。」


「ケロケロソンヌ」と言うふざけた名前だが立派な都市らしい。

爺さんのネーミングセンスは一体どうなってんだ・・・。

何故誰も止めなかった・・・?


「わかりました。是非行ってみたいと思います。」

「うむ。ぜひそうしてくれ。あとで紹介状も書かせてもらおう。」

「ありがとうございます。」


流石にここは世界一大きな国だ。

一日では着かずに3日かけてようやく到着した。

その間の道中のエリアボスはすでに「悪魔結社」が討伐済みな為、現地人の商業用ルートを通り戦闘はほとんどなかった。


そして金曜日。


「・・・おお!!見えてきたぞ!!あそこが「アニ」だ!!いゃー懐かしい!!」


馬を走らせていくと草原の中に小さな町が見えてきた。

小さな塀に囲まれたその街のおもな産業は農業なのだろう。

街の周りには見渡す限りの畑や田んぼ、そして家畜が多くみられた。

ノア曰くこの辺は魔力が薄くあまり魔物も発生しない所らしい。

そして魔力が薄いため魔物が現れても大して強い魔物は現れないらしい。

その為ここはゆっくりと農業を営み交易都市としても発展、近くの町々の食糧元となっているようだ。


「お??なんだ!!誰かと思ったらノアじゃないか!!久しぶりだなー!!元気にしていたか?」

「あら?ほんとだノアじゃないの?何貴方。また何かやらかしてついに王都から追い出されたのかしら?」

「おお!!ノアじゃないか!久しいのぉ。また最近腰が痛くてのぉ・・・。また後で見てくれんか?」

「あーーー!ノアさんだー!!こんにちわーー!!今回はどのくらい「アニ」にいれるのー?」


街に入るとノアはとにかく人気があった。

誰もがノアを知っていて誰もがノアに会って嬉しそうな顔で話しかけてくる。

僕らはそんな微笑ましい光景を見ながら彼に着いていった・・・。


「今日はここに泊まりなさい。ここは空き家だし私の働く協会までも近い。」

「ありがとうございます。そうさせていただきます。」


僕らはノアと村長に案内されて空き家に泊まらせてもらうことになった。

小さな家だがとても綺麗にされており可愛らしい作りになっていた。

裏庭の地面の下には倉庫がありそこには前の住人が残したワインも残っているらしい。

僕らは未成年だから飲めないが好きに持って帰っていいとのことだった。


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・クランシークレットクエスト【ノアの護衛】クリア!!


大国神官長のノアを護衛してアニの村まで行こう。


・報酬


神官服(人数分)


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この神官服は国内外でフィリア様に仕えるもの、又は神官に認められた者が礼拝時に着る正装のようだ。

僕らはこの日はここでログアウトし、明日はこの町の探索と僕とエリーゼはノアの教会での手伝いをするつもりだ。


そして金曜日。

僕らはノアの約束の時間まで街をゆっくり探索していた。

街は昨日と変わらず賑わいをみせ、いたるところから旅人用の屋台からおいしそうな匂いをしていた。

特に美味しそうな店を見つけ僕らは食べ歩きを楽しもうと店を訪ねてみた。

店主は女性のようで一目でこの人は強いな、と思わせる立ち振る舞いをしていた。

なんんというか・・・、体の使い方、重心のおき方が他の人とは違った。


「こんにちは。ここは何を売っているのですか?」

「あら。いらっしゃい。可愛らしい冒険者ね。ここはサンドイッチのお店よ。この辺で育てている牛を使って自家製パンで挟んで食べるのよ。おいしいから買っていってよ。」

「じゃあそれを人数分。」

「あら。君が一人で払うのね。男らしいじゃない。・・・はいよ!!人数分!」


サンドイッチはシンプルな味付けだがとても美味しかった。

パンからは香ばしい香りと最後に塗っていたバターの香りがした。

バターも恐らくとれたて出来立てなのでリアルのスーパーで売っているよりもとても美味しかった。

挟んでいる野菜はレタスのようなものだった。

これは少し酸味がが効いててオリーブオイルのような味がした。

恐らくオリーブオイルで炒めて塩コショウに最後にビネガーをかけて調理したのだろう。

そしてお肉だ。

これはシンプルに塩コショウしかしていないのに口の中でうまみが広がりとろとろしていて国の中で噛むとすぐに溶けて行ってしまう・・・。


「「「「「お、おいしい・・・。」」」」」」


思わず全員で声が揃ってしまうほどおいしく、感動的な味わいだった。


「あっはっはっはっは!!そうかい!!おいしいかい!!それは嬉しいねぇ!!」

「・・・このお肉どうなっているんですか?ただ焼いただけでこんな感じにはならないですよね・・・?」

「お?目の付け所がいいわね。しょうがない。特別にお姉様が教えてあげるわ。それは特別な調理方法で作ってるの。沸騰しないくらいの温度の出汁でゆっくり何度も出汁をかけ続けてつくるの。決して茹でてはだめなの。それを2時間以上続けてゆっくり、ゆっくり火を入れていくとそうやってとろとろなお肉が出来上がるの。そして最後に表面を焼けば出来上がりってわけよ。」


お姉さんはそう言うとウィンクをして見せた。


「そうなんですね・・・。でもそんなに手間をかけてこの料金って大丈夫なんですか?」

「は・・・?くくく、あっはっはっは!!子供がそんな心配しなくていいんだよ!君は真面目だねぇ・・・。大丈夫さ。この食材は全てあたしの旦那が作ってるものだからさ。・・・ん?」


お姉さんが何かに気づき僕らもお姉さんの視線の先を見るとみすぼらしい恰好の冒険者4人組が一人の女性を囲んでいた。


「おいおいいてぇじゃねぇか!?ああん?腕が折れちまったよ!?どうしてくれんだ?ああん?」

「ギャハハハ!!これはもうだめだな!ねぇちゃんこいつの腕の治療費払ってもらおうか?」

「そうだな!!100万Gだ!!ん?払えそうにないって顔だな。ならその体で払ってもらおうか?」

「ギャハハハハハハ!!そいつぁいい!!」


恐らく女性と冒険者がぶつかって、冒険者が難癖つけているのだろう・・・。

どこにでもいるなこういう輩は・・・。


「・・・ウィル。」

「・・・うん。」


エリザベスに言われるまでもなく、僕は「俊足」を使い走り出す。


「・・・ん?」


僕は一瞬で腕が折れたと騒いでる男の腕を掴み足払いをし、腕を後ろに回して抑え込んだ時、同時に他三人も近くの屋台で働いていた男3人組に抑え込まれていた。

彼らは僕よりは動きが遅かったがそれなりに強いだろう。

動きが戦いなれており洗礼された動きのように感じた。


「・・・腕は折れていないようですね。なのに嘘をついて女性を脅すのはよくないですよ?・・・それとも本当に折って差し上げましょうか?」


僕はできるだけ声を低くしチンピラ冒険者の耳元でささやいてみせた。


「ひ、ひぃぃぃx!!??す、すみません!!もう二度としないので放してください!!」


僕は他の冒険者を取り押さえている男たちを見渡すと「放していいだろう」という意味で頷いてくれた。


チンピラ冒険者たちは定番の「お、覚えてろよー!!」と、叫びながら街の外の方へ走っていった。


「ガッハッハッ!!ここは「冒険者のが作った街、アニだ!!二度と来るんじゃねぇぞチンピラども!!」


冒険者を抑えていた一人の男がそう叫び、周りの男たちや屋台の人々は笑い、再び先ほどまでの穏やかな街の雰囲気に戻った。


「・・・いゃあ!!しかしお前さん速いな!俺の目では追えなかったぜ?」

「確かにな!!小さいのにやるじゃねぇか!!」

「ガッハッハ!!世の中こんな強そうなお嬢ちゃんもいるんだな!!」


男たちは笑いながら僕の頭をガシガシ撫でた後どこかに行き、先ほど絡まれた女性は僕らに丁寧にお礼を言いながら去っていった。


僕は男だ、そう言おうと思ったが女性が男性たちにお礼を言うと男性たちは盛大に笑いながら「気にするな」と言い去っていき、その助けることが当たり前だという雰囲気が何だかかっこよく感じ、その雰囲気を壊したくなかったため黙っていた。


「・・・あんたやるじゃない!!あたしはびっくりしたよ。」


先ほどの店に戻るといつの間にか店のお姉さんが店の前に立ち、フライパンを肩に担ぎながら立っていた。

・・・いや、この人チンピラ相手にフライパンで戦う気だったのか・・・?


「・・・いえ、僕は大したことしてませんよ。それより先ほど男性がここは冒険者が作った街って・・・。」

「ああ、それね。ここはね。元々有名な冒険者が作った街でね。そのあとも怪我をして戦えなくなった冒険者や、引退した冒険者を優先的に集めていたらいつの間にか冒険者の再就職場所の街みたいになっっちまってさ。この町の住人はほとんどこの国でそれなりに名の通った冒険者だったのさ。かくいう私も元々Bランク冒険者だったのさ!!」


道理で強そうなわけだ。


「・・・ん?その顔は何となくわかっていたみたいな顔だね。君も並大抵な人生を送ってきてないな?」


お姉さんはそう言いながら僕の頭をガシガシ撫で店に戻っていった。


僕らはお姉さんに挨拶をし店を立ち去った。

その後も何度か冒険者同士などの喧嘩を見つけたが全て通行人や屋台の人たちに取り押さえられていた。

この町の人たちは活気があってそして強く、そして人がいいようだ。


まだこの町に来て時間は短いが僕はこの町が好きになった・・・。

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