第134話サバイバル島、その10

「「疾風切り」「かまいたち」!!」


僕は最速でかまいたちを出す。


「がぁぁぁぁ!!「龍化」「剛剣」!!」


キルは体全体に龍の鱗が出て、最早見た目は人間ではなく・・・トカゲのようだった。

そのまま二本の剣でかまいたちをたたき潰される。


「・・・龍じゃなかったんですか?」

「ギャハハハハ!!まだまだLVが低くてな!これが限界みたいだ!見ろ!ちっちゃい羽もあるんだぜ?だがこの姿になると尻尾が邪魔になるし使える魔法もスキルも制限されるんだ!だが・・・な!!」


キルは一気に距離を詰めてくる。

速いッッ!?


「・・・がぁ!?」

僕は「剛剣」を使ったが、後ろに吹き飛ばされる。


「ギャハハハハ!!見ての通り力はかなり増えるんだ!だが時間制限もあるがな。」

「・・・そんなこと話てよかったんです・・・か!?」


再び剣がまじりあう。


「・・・クッ!?・・・構わねぇよ!!その前に倒しちまえばいいんだから・・・よぉ!!」


キルは片手で僕の剣を支え、もう片手で首を狙って剣を振るってくる。

僕は頭を下げそれを躱し、キルの腹を魔力脚でけ飛ばす。


「・・・がぁ!?」

キルは後ろに5mほど吹き飛ぶ。


「・・・はぁ・・・。なら僕も。この「雷神衣威」は少しずつ自分にダメージが入るので時間制限付きなんです。」


僕はポーションを取り出し自分の体に当てて割る。


「ギャハハハハ!!そうか!お前はいいやつだな!ますます気に入ったぜ!!」

「・・・できれば気に入られたくないのですが・・・。」

「無理だな!!もう気に入っちまったからな!ところでポーションはずるくないか?」

「・・・あなたも使えばいいじゃないですか?」

「俺は酒しか持ってこなかったんだよ!」

「アホですね。」

「ギャハハハハ!!そうかも・・・な!!」


そう言いキルは思いっきり息を吸う。

口に魔力がたまってく。

「はぁああ!!「炎の息吹」!」


キルの口から火炎放射器のように炎が飛び出す。

が、発射口は口だ。

僕は剣に魔力を溜め滑り込むように姿勢を低くし、炎を斬り相手の足元に滑り込む。

ここなら炎のない死角だ。


だがキルは予想していたかのように足に魔力を溜めていて蹴りを入れてくる。

僕も負けじとそれを剣でたたき切る。


「「豪脚」!!」

「「剛剣」!!」


辺りに金属音が響き、二人は吹き飛ぶ。


・・・剣と足が同じ威力って、あの足どうなってんだよ!?


僕は吹き飛ばされながらリザードマンとの戦いで新しく覚えた「サンだーアロー」を放つ。

が、キルも吹き飛びながら口から氷の塊を飛ばしてくる。

二つの魔法はぶつかり砕け、辺りは細かい氷の粒がきれいに舞う。


二人は着地と同時に駆け、剣を交える。

キルがクロスして剣を振るい、僕は「剛剣」で迎え撃ち、はじけた剣で胸を目掛け突く。

それをキルが片手の剣で受け流し、もう片方の剣を振るってくる。

僕は避けるのが間に合わないと悟り、剣より先に体当たりをする。

キルは驚き僕の攻撃を受け一瞬よろける。

その隙に乱れ切りで何度も斬りかかるが、キルも立て直し全て防ぐ。


その後二人の剣は50回を超える数を打ち付けあう。

お互い少しずつ剣が体に掠るが致命傷には至らない。


お互い一歩も引かずに戦う。

今少しでも逃げた方が、その瞬間斬られることを知っているからだ。


「ギャハ・・・ハハハ!!楽しい!!楽しい・・・なぁ!!??」

「・・・全然・・・楽しく・・・なんか・・・ないですよ!!」


僕らは剣を交えながら叫びあう。

僕のHPが半分を切る。

このままでは・・・。


「どう・・・した!?困った顔して!!・・・さてはHPが切れそうか!?」

「そうです・・・よ!だから・・・早く終わらせたいん・・・ですがっ!!」

「大丈夫っだっ!!俺様も・・・酒が切れてきた!!」

「知りませんよ!?・・・というか・・・さっきから・・・酒臭いんですよ!!」

「おい!?・・・恥ずかしい事・・・言うんじゃねぇ!!・・・レディが見てるんだぞ!!」

「・・・この酒臭い戦闘狂!!」

「おい!!マジで・・・やめろや!!この女顔めっっ!!」

「あ!!・・・・気にしてるんですっっよ!それっっ!!」

「ギャハハハハ!!女顔のガキ!!」

「酒臭いオヤジ!!・・・・・あ!?」


いきなりキルが止まる。

僕も思わず剣を止めてしう・・・。


「・・・龍化が解けちまった・・・。」

「・・・みたいですね・・・。どうします・・・?やめます?」

「・・・ギャハ、ハハハ!!止めるわけねぇだろ!!こんな面白れぇ事!!人生楽しまなきゃ損だろ!!なぁ・・・!?」


僕は止めないと聞いて少し離れて「早切り」と「かまいたち」を使う。

止めないなら勝つまで止まるわけにはいかない。

キルは慌てて剣でかまいたちを叩き潰すが2本ほど潰しきれずダメージを与える。


「ちょ!?・・・ギヒ、ギャハハハハ!!いいね!!いいぜ!!最後の最後まで殺りあおうぜ!!」


これで僕とキルのHPは3割を切った。


そろそろ終わりは近いだろう・・・。

だが最後まで気は抜かない。

というか抜けない。

絶対に勝ってやる!


僕は「雷神衣威」に加え「捨て身」剣には「重力剣」を使い全力で戦う。

これで僕は何もしなくても5分と持たないだろう・・・。

一気に決めてやる。


「さぁ来いやウィル!!「竜神衣威」「捨て身」「龍剣」!!」


キルから赤い魔力が噴き出す。

ボスと戦うときのあれだ。

・・・だがキルのHPはみるみる減っていく。


もしかしたら僕の「雷神衣威」と同じで力は上がるがリスクのあるスキルなのかもしれない。


僕は駆け出しお互いの間合いに入る。


キルの攻撃を「達人見切り」スキルで紙一重で躱し、斬る。

キルはもう片方の剣で斬りかかってくるが僕は全力で叩き、はじく。


「うぉ!?」


キルの体制が崩れる。

・・・入る!!

僕は勝ちを確信してキルの頭目掛けて剣を振り下ろす。


「!?」


気づけば僕は転がされていた。

その理由はすぐにわかった。

尻尾だ。

キルは体制を崩したまま、尻尾で僕の足を薙ぎ払ったんだ。


「詰めが甘かったな!!」


キルは僕に突き刺すように剣を振り下ろす。


僕はそれを転げまわり躱し、跳ね起きる。

が、「空間把握」でその瞬間背後に剣が迫るのを感じる。

僕は振り返っていては間に合わないので、剣を背に持っていき剣を受け止める。


「てめぇ!?後ろに目があるのかよ!?」

「ありますよ?」

「嘘を・・・つけ!!このチート野郎が!!」

「それは・・・・お互い・・・様でしょ!!」


再びお互い何度も剣をぶつけ合う。

恐らく俺が最後の攻防になる。

歯を食いしばり剣を振るい続ける。


ガキィィィィン・・・・・!!


キルの片方の剣が砕け、光の粒子となって消えていく。


今だ!!


僕は剣を相手の首筋目掛け振る。

だがキルも剣を気にすることなく僕の首筋目掛けて剣を振るう・・・。


・・・ピタッ・・・・・・・。


「「・・・・・・・・・・・。」」


お互いの剣がお互いの首筋の寸前で止まる。

お互い剣が首に触れた瞬間死に戻りするだろう・・・。


それを悟り、諦めたわけでなく、引き分けだということを理解したのだ。


お互いスキルを解き、剣を収める。


二人のHPはコンマ1残っている状態だ。

デコピン一発でも死に戻りするかもしれない・・・。


「・・・引き分けですかね・・・?」

「・・・だな。ここまでのようだ・・・。」


キルは天を仰ぐ。

その顔はどこか満足気だった。


「・・・こんな楽しいバトルは初めてだぜ・・・。お前もそうだろう・・・?」

「・・・まぁ否定はしません・・・。」

「ギャハハハハ!!ツンデレか!?素直に楽しかったって言えや。」

「うるさいですね。はいはい。楽しかったですよ~。」

「ギャハハハハ!!なんだそりゃ。ガキか!?・・・いやガキだったな。」

「ガキガキ言わないでくださいよ。おじさん。」

「誰がおじさんだ。俺はまだ30歳だ。」

「僕からしたら十分おじさんですよ。」

「けっ。生意気なガキだぜ。まぁいいや。疲れたし帰るわ。」


そう言うとキルは振り返り歩き出す。


「・・・キルさん・・・。これ。」

「あぁ?・・・いいのか?」

「ええ。酒しか持ってきてないのでしょう?」

「まぁな。大人はそれで十分なんだよ。」

「今度からは回復薬くらい持ってきた方がいいですよ?」

「ギャハハハハ!!次覚えてたらな。」


僕はミドルポーションをキルに投げ渡す。

理由はわからない。

ただ何となく初めよりは彼の事が嫌いではなくなったからかもしれない。


「・・・ポーションを上げる代わりに一つ教えてください。」

「あ?なんだ?女にもてる秘訣か?」

「それも気になりますが・・・。何でAOLを始めたんですか?」


彼はソロのPKプレイヤーだ。

僕はVRMMOの本当の楽しみ方は色々な人に出会って、皆で楽しむことだと思っている。

なぜ彼がひとりで戦い続けているのか疑問に思った。


「・・・何故・・・か・・・。なんでだろうな。一番の理由はやっぱ「何者にもなれるゲーム」ってキャッチコピーにひかれたからだな。」


キルはしばらく真剣に考えそして話し出す。


「今のリアルってよ。なんかつまんねぇだろ?・・・まぁ楽しい人は楽しいんだろうが。俺も楽しいことは楽しいが、どこかもの足んなくてよ。「個性」ってもんが失われていっている気がして。皆誰かと同じことして奴隷みたいに働かされて、空いてる時間はSNSで必死に画像を投稿してよ。他の人と同じことして、知らない人に褒められて何が楽しいってんだ。あんなもんくだらねぇだろ・・・。それなのに皆生きているのに死んだような顔してよ。そんなことに時間使って、そして死んでいく・・・。そんなの俺はごめんだね。「生きてる」って実感が欲しかったんだ。そして探してたんだ。「生きる」って何なんだろうなって・・・。そしてこのゲームの中で人を殺し続けて気づいたんだ。人は上手い飯食って、寝て、起きて、働いて・・・。それだけで幸せ者なんだなって・・・。人生は限りある時間の中で生きるから面白い。そしてこんな楽しいゲームに出会った。この世界はすげぇよ・・・。人の夢ってのは無限にあるんだなって気づかされた・・・。」


「だからよ・・・。いや。少ししゃべりすぎたな。・・・ったく年を取ると話が長くなってなって駄目だな。・・・うまく言えなかったが、質問の答えはこんなもんでいいか?俺はそんな感じの事を感じたかったんだ。」


・・・この人は必死に生きているんだ。

・・・うまくは言えないがそんな気がした。


「生きるという意思。人は人生に飽きた時すでに死が始まっている。生きるということは何かを感じ続けるということ。何かを求め続けるということだ。今の世の中誰もが同じに感じ、同じでなくてはならなくなってきている。確かに人間の本質である好奇心から生まれる探求心によって人は人であり続けている。が、肝心の「生きる」という意思が感じられんようになってきている。」


「あぁ?なんの話だ?」


「儂の好奇心を求めた先にはゲームがあった。人生で楽しめないのであれば、もう一つの人生を作ってしまえばいい。一つの人生で足らなければ、もう一つ作ってしまえばいい。片方が楽しければ、その世界で楽しむために、もう一つの人生で皆必死に生きる。儂はそう確信した。世の中考えすぎる奴が多すぎる。何かしなければと考える奴が。そんな奴にこそ頭を空っぽにして楽しむ必要がある。ここはそれができる世界なんじゃ。この世界から皆何かを感じ、学びかえってくれたらいい。人生はどちらも冒険でありゲームなんじゃからな。」


「・・・・・・・・・・・・・・・。」


「貴方が今、夢中になっているものを大切にしなさい。それはあなたが真に求めているものだから。」


「・・・エマーソンか。ガキのくせにいい言葉知ってるじゃねぇか。」


「・・・この話はこのゲームの製作者「山下哲二」の言葉です。」


「あぁ?・・・なんでお前がこのゲームの製作者の意図を知っているんだ?」


「さぁ・・・。なんででしょうね。・・・とにかくあなたの考え方はこのゲームの意図にあっていると思います。・・・やり方は荒っぽいですが。・・・僕が言うことではありませんがこのゲームを楽しんでください。そうすればあなたの人生はもっと楽しいものになるはずだから・・・。」


「・・・あぁ。そうさせてもらうわ。・・・ポーションありがとな。」


そう言い残しキルは町の外に消えていった・・・。


爺さんの考えと似てたな。

でもあの人はまだ答えを見つけきれていないようだ。

どこかで見つけられるといいな。

もっとこの世界を楽しめればいいな。


きっと爺さんもそれを望んでいるような気がする。

そんな人がもっと増えればいいなって・・・。


僕も心の中で小さくそう願ったのだった・・・。


そして僕は彼とはまた近いうちに合う気がした・・・。



皆の所に戻ると、卍が泣いていて、フランジェシカは鼻血を出していた。

・・・・何が起こったんだ・・・?


「男同士の死闘から生まれた友情・・・。もうたまらん・・・。」


フランジェシカはそう言い残し倒れてしまった。


・・・なんか全て台無しになった気がした・・・。

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