第121話イベントまで・・・。その4
木曜日。
今日は「鋼鉄騎士団」のホームに行くことになっていた。
装備はそろそろメンテナンスができるが今日は休養し、「鋼鉄騎士団」で世間話をして終わりにする予定だ。
「・・・カフェ?」
「・・・そうね。「マッスルカフェ」だって・・・。」
「あはは!ドンらしいね!」
「ん。男臭そう。」
「ふふっ。楽しそうじゃない。入りましょうか。」
「「BLカフェ」・・・。考えただけで鼻血が出そう・・・。」
勝手に名前を変えるんじゃない。
「鋼鉄騎士団」のホームは平民街の大通りから一本裏道に入ったところにあった。
裏道だが人の多さは大通りと変わらないみたいだ。
そこにあるひと際大きな建物がホームのようだ。
一階がカフェになっており二階からがクランホームになっているみたいだ。
「お邪魔します・・・。」
「「「「「いらっしゃいマッスル。」」」」」」
「あ、間違えました・・・。」
僕は扉を閉めたが、店内からすごい力で扉が開かれてしまった。
「おいおい!閉めることはないだろ!全くマッスルジョークがうまい奴だな!」
ドンが店内からドアを開けたようだ。
というかそんなジョークは知らないからな・・・。
そしてフランジェシカはすでに鼻血が止まらないようだ。
こいつ、ここに入ったら死ぬんじゃないか・・・?
「はぁ・・・。とりあえずお邪魔します。」
「「「「「お邪魔します。」」」」」
そこはレトロな感じのカフェだった。
木の家具で統一されたカフェには、ダーツ台やビリヤード台などもあった。
大人がくつろげるようなカフェだな。
店員がこんなんじゃなければ・・・。
だが以外にも女性の店員もいるようだ。
マッチョではあるが・・・・。
「女性の人もいるのね。」
「あぁ。リアルでうちのジムで働いてくれてる子だ。女性だがなかなかのマッスルセンスの持ち主だ。」
マッスルセンスなんて言葉はありません。
どんどん言葉を造らないでください。
とりあえず案内されて奥の落ち着いたテーブルの席に着く。
「何かおすすめの飲み物を頼もうかな?」
「だったらマッスルジュースがあるぜ。」
「やっぱりあったか。あるような気がしたんだ。」
「じゃあマッスルジュース6つでいいか?」
「いいや。コーヒー6つで。」
「マッスルジュース6つ頂きましたー!!」
「「「「「サンキューマッスル!!」」」」」
「話を聞きなさい。オーダー間違ってるぞ。」
「ガッハッハッハ!!それはマッスルジョークか?」
「こいつダメだ。話を聞かない・・・。」
結局話の通じないドンのせいでマッスルジュースが出てきてしまった・・・。
因みにマッスルジュースはただの野菜ジュースだった・・・。
「そう言えば「カンパニー」は最近「デスペラーズ」を見たか?」
「「デスペラーズ」?ってか座るんかい。」
「まぁいいじゃねぇか。よいしょっと・・・。「デスペラーズ」ってのはお前達も前に襲われた「無差別二刀流」のケンちゃんがいるPKクランだ。」
「ケンちゃん・・・?あぁ。王都に向かう途中に襲ってきたPK集団か。」
「ん。PK集団ってクラン立ち上げられるの?」
「あぁ。どうやらどこかに闇ギルドがあってそこでクランを立ち上げられるようだ。場所まではまだわかってないがな。」
「鋼鉄騎士団」は攻略、新人教育のほかに、PK集団とも戦っている。
その為色々な情報を集めているんだろう。
「「デスペラーズ」は見てないな。なにか気がかりな事でも?」
「あぁ。最近急に見当たらんくなってな。もしかしたらイベントに入ってくるんじゃないかと懸念しているんだ。」
PKプレイヤー、つまりレッドネームと呼ばれているプレイヤーはイベントには参加できない仕様になっている。
「でもPKプレイヤーってイベントには参加できないんでしょ?」
「あぁ。だが抜け道もある。一度わざと捕まり罪を償えばネームは通常の色になる。そうすればイベントにも参加できるんだ。」
「なるほどね。つまりドンはPK集団がイベントでプレイヤー狩りを行うんじゃないかと懸念しているわけね。」
「あぁ。少し前からPKが増えていてな。特に新規プレイヤー狩が多くて。「鋼鉄騎士団」は他のクランと協力してパトロールしているんだが突然そいつらが姿を消したんだ。お前たちもイベント中は気をつけておいてくれ。」
「わかったわ。情報ありがとう。」
「構わねぇよ。「カンパニー」にはいい情報を貰いっぱなしだからな。これくらいで恩が返せるとは思ってないからな。」
ドンは普段ふざけているが、根はまじめないい人なんだよな・・・。
普段はふざけた人だが・・・。
「それとアイツも消えたんだよなぁ・・・。」
ドンは険しい顔をしながら呟く。
「アイツ?」
「ああ。ソロのPKプレイヤーなんだが、名前は「キル」。「さすらい」の二つ名を持つ龍族のプレイヤーだ。こいつは相手が通常プレイヤーでもレッドネームでも関係なく攻撃してくるプレイヤーだ。一部ではこいつにあったらすぐに逃げろとまで言われている。」
そんな奴がいるのか・・・。
名前が「キル」なんてまさにPKをするためにAOLを始めたプレイヤーのようだ。
「じゃあそいつもイベントに出てくるかもだね!!」
「そういうことだ。一度やりあったことがあるが、中々の実力者だった。こっちが複数人いなかったらやられていただろう・・・。」
二つ名持ちのドンがソロでは負けていたということは、相当な実力者なのだろう。
このプレイヤーに関しては僕も気をつけておかなくてはいけないな・・・。
「わかった。気をつけておくよ。」
「マッスル情報ありがとねー!!」
アイリスが、細い腕で小さな力こぶを作りながら変な名前を付ける。
変なの付けるなよ、と言おうとしたがその満面な笑みを浮かべながら一生懸命力こぶを作る姿に毒気を抜かれ、つい微笑んでしまう。
うん。うちの妹は今日も天使だ。
「ふふっ。いいわね。マッスル情報。」
「ん。恩に着る。」
「本当に役に立つ筋肉ね貴方は。」
皆がアイリスに便乗する。
というかエリザベス。
それは悪口なのではないかい?
「おいおい・・・。そんなに褒めんなよ。照れるじゃねぇか・・・。」
あ、喜んでた・・・。
まぁ本人がいいならいいか・・・。
「そう言えばそっちはどうだ?各クランを回っているんだろ?」
「あぁ。そういえば・・・。」
僕らは目を合わせ、頷きあい「悪魔結社」の事を話す。
もちろん他の人たちには聞こえないようにし、彼にも他言無用でと前置きしてから話す。
余計なおせっかいかもしれないが、ドンは本当に優秀な人だと思う。
そんな彼が陰ながら「悪魔結社」の皆を支えてくれれば、彼らがまた一歩前に進めると思ったからだ。
「・・・そうか・・・。やっぱりな・・・。」
「気づいていたの?」
「まぁな。四六時中ダイブインしていたからな。それにあいつら高校生ぐらいの年齢だろ?それなのにいつもAOLにいたからそうなんじゃないかと思ってはいたな。」
「そっか・・・。まぁ昨日さんざんみんなで相談に乗って、前向きな答えを貰ったから大丈夫だとは思うけど・・・。余計なお世話かもしれないけど、それとなく見守ってあげてよ。」
ドンは僕の話を聞くとニヤニヤしながらこっちを見る。
「・・・なんだよ?」
「いやいや。ちゃんと「兄貴」してんだなと思ってな。」
「・・・なんだそれ。相談に乗ったのは基本エリザベス達だぞ。」
「それでもさ。お前がいたから俺達はそろって「カンパニー」の傘下に入ったんだ。そしてエリザベス達もお前がいるから一つにまとまってんだろ?なんだかんだウィルを中心に皆動いてんだ。そしてそれがなきゃ「悪魔結社」の奴らもそん事話さなかったさ。お前がいたから安心して話したんだと思うぞ?」
ドンは僕の目を見ながら真剣に話してくれる。
僕は恥ずかしくなって思わず目線を外す。
今きっと僕の顔は赤くなってしまっているだろう・・・。
「・・・過大評価しすぎだっての。」
「ふふっ。そんなことないわよ。ウィルがいるから皆安心して話したんだと思うわ。」
「お兄ちゃんは気づかないけど、いろんな人に慕われているからねぇ。」
「ん。ウィルは器が大きいから。」
「そういうこと。別に不思議な話ではないわ。」
「腐腐腐。ドンとウィルが見つめあって照れてる。一体どんなご褒美よ。私を萌え殺す気?」
一人だけなんだかテンションが違うみたいだが・・・。
僕は恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
そんな風に皆が思ってくれていたらいいな・・・。
AOLの世界はまだまだ行ってない場所は多くて、やってないことが多すぎる。
僕は沢山の仲間たちとこの世界を楽しみたいと思っている。
こうして仲間に慕われていることは、何事にも代え難い財産だと思った。
「まぁとにかくだ。「悪魔結社」の件はわかった。こっちでもそれとなく気にしてみるわ。」
「うん。お願い。よろしくね。」
「あぁ。だが仕事でも学校でも「続ける」って事は難しいよな。」
「どーゆーこと?」
「ん?アイリスにはまだ難しかったか?いいか?仕事でもなんでも一番難しいことは、一番大事なことは「続ける」って事なんだ。」
「続ける事?」
「そうだ。例えば有名人になろうと思えばいやらしい話お金と伝手さえあれば、ある程度まで行ける。進学校に入りたければ、沢山勉強すればいつかは入れる。だがな。一番難しいことはそれをずっと「続ける」って事なんだ。仕事だったら定年するまで何十年も続けなきゃならない。毎日同じことの繰り返しだ。だがそれが一番難しい事で、大事な事なんだ。」
確かに。
仕事なんかだと大学を卒業して40年間。
人によって、それ以上続けていかなければならない・・・。
「きっと「悪魔結社」もそれが原因の一部ではあるだろうな。まだ話を聞いてないから何とも言えないが。人生の先輩として、お前たちも何か躓いたり困ったときにさっきの話を思い出してほしい。そこで辞めずにもう少し頑張ってみてほしい。そうしたら、また新しい何かが見えてくるかもしれんからな。・・・って話過ぎたか・・・。年をとるとどうも説教臭くなっていかんな・・・。」
ドンは少し照れながら頭をガシガシと掻く。
だがその姿は、人生を生き抜いてきた大きな存在に僕は感じた。
「そんなことはないよ!!アイリスしっかり覚えておくね!!」
「そうね。「続ける」って事、心に書き留めておくわ。」
「ん。マッスル覚えとく。」
「エリーゼなんだか使い方間違ってるわよ・・・。」
「今度はドンが照れている・・・。腐腐腐。もう私おかしくなりそう・・・。」
変態がおかしくなってきてしまったので、ここでお開きとなった。
ドンは他のプレイヤーからの通信で、狩りに出かけてしまった。
僕らはそのあとマッスルケーキ(ただのショートケーキだった。)を食べてお店を後にする。
「「「「「「ありがとうございマッスル!!」」」」」」」
この掛け声がなければいい店なのにな・・・。
そう思いながらホームに帰り装備を貰い装着する。
明日は休みにして、いつも通り家事に勉強を終わらせる。
そして明後日はいよいよイベントだ・・・。
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