第84話山下哲司

「・・・・本当に・・・お主なのか・・・?」

「・・・・・哲二さん、なの?」


桜の木の下に、そこには確かに山下グループ元会長山下哲司がいた。


皆も突然の転移とあまりにも有名すぎる人物に開いた口が塞がらないようだ・・・。


「ガッハッハッハ!!何じゃ皆して、幽霊でも見るような眼をして。いや、わしは死んだからあっているのか!!ガッハッハッハ!!」


涙が出そうになる。

この豪快なしゃべりにお気に入りの黒の和服、白いひげにオールバックの白髪。

そしてこの強くも暖かい顔・・・。

確かに爺さんだ。

間違いなく爺さんはそこにいた。



「ん。おじいちゃんなの?」

エリーゼが恐る恐る問いかける。


「おぉ!!香織に千坂か!!いや、AOLらしくエリーゼとエリザベスと呼ぶか。久しぶりじゃのう。また母さんに似てきれいになったのう。」


温かい眼差しで二人を見つめるその姿は確かに爺さんそのものだった。


「それに、ウィル、アイリス、クリス。久しぶりじゃのう。元気にやっとるようで何よりじゃ。」


「「「「「「おじいちゃん!!」」」」」


僕らは五人して、泣きながら爺さんに抱き着く。

暖かい感触とほっそりとした体が確かにそこにはあった。


「よしよし。わしは幸せ者じゃのう。死んでもこうして孫たちが愛してくれているのじゃ。これで安心して死ぬことができる。」


僕らをまるで赤ちゃんをあやすように優しく撫でてくれる爺さん。


「何言っとるんじゃ。お主は死んでおるじゃろう。はよ、この状況を説明せんか。」


落ち着きながら話すジィジだったがその眼にはうっすりと涙が溜まっていた・・・。


「そうじゃった!!わしは死んでいるんじゃった!!ガッハッハッハ!!」

「説明じゃったな。つまり儂が死んだ後、脳だけ取り出してAOLにダイブできるよう、保存してもらっておるんじゃ。そしてお主が来たらここに呼び一緒に酒が飲めるようにな。」


「おい!!それは違法なんじゃなかったのか?全くわけわからん奴じゃ。お主になって頭の中を覗いてみたいもんじゃ。」


「ガッハッハッハ!!そこは総理大臣と何人かの政治家に依頼して一度だけ合法にしてもらったんじゃ。特別にな。それに儂を理解するのに儂になる必要はないさ。もしお主が儂になってしまったら一緒に酒が楽しめなくなってしまうじゃろ。」


「ふっ。それもそうじゃな。全くめちゃくちゃな奴め。いったいどんな教育を受けてきたんだか。」


「母はかつて言った。お前は軍人になれば将軍になり、修道士になれば法王になれる。」


「・・・そして私は画家になりピカソになった・・・・じゃったか?」


「そうじゃ。うちの教育方針じゃ。自由に生き、大人は陰ながら支え、道を示してやる。」


「そうじゃったな。山下家はそういう家で、お主は昔から自由な奴じゃった。」


「ガッハッハッハ!!まぁこっちに座り酒を飲もう。奥さん。すまんが注いでくれ。あまり時間がないのでの。」


「わかりました・・・が、時間がないとはどういうことですか?」


「儂はい今脳だけしかない。今の状態では稼働してから1時間で脳は停止してしまう。・・・あと45分か。これが現在の医学の限界なんじゃ。」


「な!?・・・・そうなのか・・・。」


「ガッハッハッハ!!まぁちょうどいいではないか。それにいつまでも居すぎるとお主が寂しくて帰れなくなってしまうからな。」


「・・・アホか。お主より神社の方が大事だわい。」


「・・・・まじめな話来てくれて本当に嬉しい。本当は稼働しなくてもあと半年も持たなかったのじゃ。脳を取り出したら1年で完全に脳は停止してしまう。だからお主が来るかどうかは賭けじゃったのじゃ。」


「・・・そうか。だったら招待状でもよこさんか。」


「貴方がじっとしていれば、人はあなたに会いに来るだろう・・・。」


「ドアノの言葉か。お主が好きな昔のアニメのセリフじゃったか・・・。」


「あぁ。さぁ酒を飲もう。実はこのAOLで一番こだわったのが酒の味なんじゃ。」


「ふっ、お主らしい・・・。」


ジィジ爺さんはお互いに正面に座り、向き合わず、遠くの景色を見ながら座る。

空いた席にばぁちゃんが座り二人に酒を注ぐ。


「・・・なんじゃ。奥さんも飲まんか。」

「私は遠慮します。今も昔も、お二人にお酒を注いであげるのが私の仕事ですので・・・。」

「ふふ。全くいい女じゃな。お主にはもったいないわい。」

「・・・ほっとけ。」


僕らは一緒に転移してきた畳の上に正座し、今だ固まる皆と一緒に3人を見守り。


「五大シャトー。シャトー・マルゴーか・・・。お主が一番愛したワインじゃったの・・・。」

「どうだうまいだろう。この女性的な味わい。全くいつ飲んでもこいつもいい女だわい・・・。」

「あぁ・・・。うまいな・・・。」

「だろ?酒を楽しめなくなったらそりゃ病気だからな。」

「・・・全くだ。」


ゆっくり酒をたしなむ二人。

酒がなくなると丁寧に酒を注ぐばぁちゃん。


桜吹雪の中、3人は絶景を見ながら静かに座っている。


「・・・どうじゃ。この世界は美しかろう・・・?」

「・・あぁ。美しいな。そして素晴らしい。ここまで孫たちときたが、他のプレイヤー含め皆いい顔をしていたよ。」

「そうかそうか。それは良かった。」


「よくこんな世界を作ったの。大変じゃったろう。」

「私は仕事で疲れたという記憶は全くない。しかし何もしないでいると、くたくたに疲れ切ってしまう。」

「コナン・ドイルか・・・。そういえばお主は小さいころから落ち着きがなく、常に何かしておったな。全くようやるわ・・・。」


「そうだな。思えば長い長い旅じゃった。全てが冒険で全てがロマンじゃた・・・。」


「お主は何を作り、何を伝えたかったんじゃ?」


「・・・そうだな。今の世の中は便利すぎる。人間は本質の一つを見失っている。儂はそれを止めたかった・・・。」


「・・・それはなんだ?」


「生きるという意思じゃよ。人は人生に飽きた時すでに死が始まっている。生きるということは何かを感じ続けるということ。何かを求め続けるということだ。今の世の中誰もが同じに感じ、同じでなくてはならなくなってきている。確かに人間の本質である好奇心から生まれる探求心によって人は人であり続けている。が、肝心の「生きる」という意思が感じられんようになってきている。」


「・・・・どれで何でAOLなんじゃ。」


「儂の好奇心を求めた先にはゲームがあった。人生で楽しめないのであれば、もう一つの人生を作ってしまえばいい。一つの人生で足らなければ、もう一つ作ってしまえばいい。片方が楽しければ、その世界で楽しむために、もう一つの人生で皆必死に生きる。儂はそう確信した。」

「世の中考えすぎる奴が多すぎる。何かしなければと考える奴が。そんな奴にこそ頭を空っぽにして楽しむ必要がある。ここはそれができる世界なんじゃ。この世界から皆何かを感じ、学びかえってくれたらいい。人生はどちらも冒険でありゲームなんじゃからな。」



「・・・お主らしい考えじゃな。それでよく飽きずに作り続けたものじゃ。」


「貴方が今、夢中になっているものを大切にしなさい。それはあなたが真に求めているものだから。・・・儂の好きな言葉じゃ。」


「・・・エマーソンじゃったか。確かにいい言葉じゃ。」

「じゃろう?」


「しかしありがとの。家族を守ってくれていて。」

「何じゃ今更。死んで丸くなったか?お主は。」

「ガッハッハッハ!!そうかもしれんな。じゃが今言わないともう二度と言えんからな。」

「・・・そうだな。・・・お主との約束は死ぬまで守り続けるよ。」

「・・・そうか・・・。ありがとう。・・実にお主らしいな。」

「・・じゃろう?」


ガッハッハッハ!!と二人で笑い、酒を飲む。


そこから10分ほど二人は口を閉ざしただ景色を見ながら酒を嗜んでいた・・・。



おもむろに爺さんが立ち上がる。


「…時間か?」

「・・・あぁ。そうみたいだ。」

「‥‥そうか。」

「‥‥達者でな・・・。」

「・・・あぁ。」


「…奥さんもお元気で・・・。」

「・・・はい。ありがとうございました。後のことはお任せください。」

「・・・うむ。お主らがいれば儂は安心していけるわい・・・。」


「皆も達者でな。」


爺さんはこちらに来て一人一人の肩を掴みながら優しく話しかけてくる。


「アイリスよ。お主の笑顔は皆を幸せにする。いつまでも笑顔でいなさい。」

アイリスは泣きながら笑顔でうなずく。


「クリスよ。お主はいつもエリザベスに勝てないと思っておるじゃろう。そんなことはない。お主は素晴らしい女性じゃ。そのことを誇りに思いなさい。」

クリスも泣きながら真剣にうなずく。


「エリーゼよ。そなたは優しい子じゃ。いつまでもその心を大事にし、皆を癒してあげなさい。」

「ん。おじいちゃんありがとう。大好き。」

「儂もじゃ。愛しておるよ。」


泣いているエリーゼに軽く抱擁する。


「エリザベスよ。お主は天才じゃ。それゆえに世の中に失望しやすい。もっと気軽にいなさい。もっと自由に行きなさい。それがお主の幸せにつながる。」

「わかりました。今までありがとうございました。本当にお疲れさまでした。」

「ありがとう。お主も優しい子じゃな。愛しておるぞ。」

エリザベスに軽く抱擁する。


「そしてウィルよ。」

「・・・はい。」

「孫たちや家族を頼むぞ。あ奴が死んだら後のことはお主に頼みたい。できるか?」

「・・・はい。命に代えても家族を守っていきます。」

「ん。いい答えじゃ。頼んだぞ。」

「・・・はい!!」


僕の肩をしっかり掴み話してくれる爺さん。


「さてさて他の者たちよ。ここは「カンパニー」ホームから特別に転移できるようにしとく。そして今までの会話で儂の正体やこの子たちの正体がわかってあろう。だがそれを他者に決して口外するでないぞ。もししたらヘッドギアがお主らの脳を焼き切ってしまうようにプログラムされておる故に・・・。」


「「「「「「「「えっっ!!??」」」」」」」」」


「それじゃ皆の者達者でな。良い冒険を。そして良い人生を!!」


爺さんはそれだけ言い残し桜の木の下に歩いて行き・・・・・そして青い光となって消えていった・・・・。


僕らは泣きながら頭を下げ、ジィジは「任せておけ」とつぶやき、景色を見ながら酒を飲んだ。



再び景色が戻り宿の宴会場に戻る。


さっきまでの時間は幻のように感じた。



「ガッハッハッハ!!全く最後まで身勝手な奴だったわい!!」


突然爺さんが叫びだす。


ついにとち狂ったか?


「さぁさっきの続きじゃ!!「鋼鉄の騎士団」だけじゃなく「ダブルナイツ」!!「悪魔結社」!!ウィル!!皆かかってきなさい!!稽古をつけてやろう!!」


突然の宣言だったが皆すぐにジィジの寂しさからくるセリフだと悟り戦いを挑む。


「テメェら!!こっちの方がLV30以上上なんだ!!一本くらいとるぞ!!」

「「「「「「YES!!マッスル!!」」」」」」」」」


「「悪魔結社」!!「鋼鉄の騎士団」に負けんじゃねぇぞ!!俺たちが先に取るんだ!!」

「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」


「ウィル!!今まで俺達は爺さんにさんざんやられてきたんだ!!ゲームの中くらい勝つぞ!!」

「・・・あぁ!!やってやろうぜ!!」



こうして僕らはジイジに挑み続けること1時間。

完膚なきまでに叩きのめされ、その後宴会を再開。

最高に楽しい一日となった・・・・。

僕らの冒険はまだまだ続く・・・。



そして僕らは疲れ果て、ダイブアウトするのだった・・・。




そしてそこには最初になかった、テーブルに3つの椅子。

そしてシャトーマルゴーだけが残ったのだった・・・

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