第82話じゃぶじゃぶ温泉、前編

「わぁ!!温泉街だー!!」

「「和」な感じなのね。ここは。」

「ん。火の国との交易のおかげ?」

「おそらくそうじゃないかしら。」

「まぁ五年前では交易があったんだ。「和物」が持ち込まれていても不思議じゃないよな。」


温泉の都「じゃぶじゃぶの里」。


ここは王様も利用するとい大国一の温泉街。


山の麓から山の斜面に沿って斜めに作られたこの町には沢山の温泉が湧いていた。

和の国は友好の証にこの町を作ったそうだ。

一番下の方が安い冒険者用の宿になっていて上に行くほど高級宿になっている。


因みに中間地点の宿からは芸者さんも呼べるらしい。


以上が「情報屋ジン」からの情報だ。


因みにジンは必ず芸者さんと夜遊びをするらしい。


うらやましい限りだ。

僕は絶対できないだろう・・・。


「あーーーーれーーーー。」とかやってみたいな・・・。

名前はわからないけどじゃんけんとか、踊ったりとか・・・。


・・・・・・あっ心読まれて睨まれてるから妄想はここまでにしよう。


「とりあえずどこか宿を・・・・ん?オリバーたちから連絡だ。」


「ダブルナイツ」と「悪魔結社」からのメールが入っていた。


「お兄ちゃん。皆はなんだって?」

「「暇。何処にいる?」だって。どうする?」

「せっかくの温泉だからみんなで楽しめばいいんじゃない?」

「ん。みんなはここに来れるんの?」

「確か両クランともここまで来てるはずよ?」


とりあえず現在地とこれからみんなで温泉に入る旨を伝える。


「・・・・・・すぐに行くから動くなって・・・。」

「あはは!!皆温泉好きなんだね!!」

「違うでしょ?私たちの裸目当てでしょ?」

「ん。下心丸見え。」

「ふふっ。私の裸を見ていいのはウィルだけよ?」


もうたくさん見せてもらってますよ。

・・・駄目だ。今考えるな。警告が出る。


「・・・・・兄貴ーー!!混浴ですかー?」

「もちろん混浴ですよね!!??」

「ぐっはっ!!考えただけで警告が!!」

「逝くな!!耐えるんだ!!これから俺たちの「ユートピア」が待ってるんだ!!」

「そうだ!!「氷見乙の花園が!!」

「「夢のハーレム温泉」が!!」

「あかん・・・。もう俺逝きそう・・・。」


「うるさいなお前らは。まず8m以内に近づいてから言え。そして来るの速いな・・・。」


「「「「「「「「俺らに死ねと!!??」」」」」」」」」


「そこまでは言ってない。というか死ぬのかよ・・・・。」


うるさい「悪魔結社」が、温泉噴き出す噴水の転移ポータルから登場した。

・・・というか、目立ってるからもう少し静かにしてくれ・・・。


「おう!!いいとこに温泉の誘いがあって助かったぜ!!」

「もう。こっちからお願いしたんでしょ。調子乗らないの。」

「ユイユイー!!来たよーー!!」


「ダブルナイツ」の登場だ。


「早いな皆。そんなに暇だったのか?」


「「「うん。暇。」」」


あっそう。


聞けばみんな武器がまだ出来上がっておらずやることがなかったらしい。

「悪魔結社」も僕らが持ち込んだ素材で武器強化をしてもらっていて現在装備がない。


皆情報集めをしていたそうだが、「情報屋ジン」を紹介したから、彼から聞く以上の情報はどこにもないらし。

まぁこの国で5本指に入る人だからな。

普段はただの酔っぱらいだが・・・。


「そういえば兄貴!!「古代の島」なんて楽しそうなイベント何で誘ってくんなかったんですか!?」

「そうっすよ!!このあたりじゃあそこ以上の素材はないのに!!」

「そうだそうだ!!あっ素材提供ありがとうございました。」

「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」

「でもこれとそれとは話が別ですよ!!」

「そうだそうだ!!あっ温泉へのお誘いありがとうございました。

「「「「「「「ありがとうございました。」」」」」」」」


「やかましいわ。どういたしまして。姉妹クランとしてどっちも当たり前のことだ。」


「な!?俺なら一人でハーレム混浴独占するのに・・・。」

「七!?リーダーそれはないっすよ!!俺らも誘え!」

「そーだそ~だ!!変態リーダーー!!」

「ひでぇぞ!!ドM リーダー!!」

「仲間だろ!!踏まれるのが好きなリーダー!!」

「信じてたのに!!好みがナース服のお姉さんのリーダー!!」

「えーとえーと・・・。バーカバーカ!!リーダーのバーカ!!」



「あはは!!相変わらず仲いいね!!」

「こんなとこで性癖を叫ばれるリーダーって・・・。」

「ん。ウィルはナースとか好き?」

「ふふっ。良かったら今度着るわよ?踏んであげる。」


僕はMじゃないし、ナースは・・・・ノーコメントだ。


「ぶふぁ!!じ、女王様のナース服だ・・・と・・・・・・。」

「リーダー!!リーダーが警告通り越して逝っちまった!!」

「リーダー・・・。あんたってやつは・・・。」

「妄想だけで逝くなんて・・・。哀れな・・・・・・。」

「もう一人逝ったぞ!!!」

「もう「悪魔結社」もおしまいだ・・・。」

「・・・・・・・・。」

「「「「「すでにもう一人いない!!??」」」」」


「はっはっはっは!!やっぱり来てよかったぜ!!」

「うるさすぎ。早くいきましょ?」

「そうだよ!!せっかくだから高級な方にいこ!!」



僕らはリーダー達を待たずに歩き出す。

アイツらアホすぎて泣けてくるな・・・。



「ここなんていいんじゃないか?「桜の宿」。」

「あら、素敵な名前ね。」

「さんせー!!」

「ん。空いてるかな?」

「どうだろう。土曜日だしねー。」

「こっちに曜日なんて関係ないんじゃない?」


そこは街の上の方にあるとても大きな宿だった。

風情がありリアルだと絶対に予約制、一見様お断りなお店だ。



「「「「「「いらっしゃいませ。お客様。」」」」」」」」


綺麗に並びお辞儀しながらお出迎えをしてくれる仲居さん。

やっぱりこういうところは着物だよな。

なんだか落ち着く場所だ。

僕らが日本人だからだろうか。


「すみません。えっと・・・16人なんですが、温泉って入れますか?できれば食事付きで宿泊もしたいのですが・・・・。」


「はい。可能ですよ。お一人様2万5000Gになりますがよろしいですか?」


安い!!

・・・いやっ、高いのだが、このクオリティでこの値段は安い。と、思う。


皆も賛成してくれてお金を払う。

イベントとかもあり僕らの懐は潤っている。


さっそく中に案内してもらう。


「この宿は「桜」と呼ばれる木が「火の国」から運ばれて来て、唯一見られる宿なのですよ。中庭、裏庭、宿の周りに外からは見えませんが桜の木があり、一年中咲いています。」


「「「一年中!!??」」」


「はい。それにこの街は海も山も近いのでとっても種類豊富な食材が取れるのです。お食事は期待していてくださいね?」


30台半ばだろうか。

綺麗なおかみさんがウィンクをしながら教えてくれた。

とってもきれいな人で、着物と背景の桜の木がとても似合いとても可愛らしかった・・・。


後ろで何人か急性ダイブアウトしたみたいだが気にしないでおこう。


「お部屋はここから先が空いていますが何部屋にしますか?」


「えっ・・!?・・失礼ですが結構空いているのですね・・・。時期的にあまりお客さんが来ないのですか?」


「いえ、普段はこんなことないんですが、魔物の大繁殖期が近いので・・・・。今、温泉で休んでいる場合ではないと、皆外に行ってしまっているのですよ。」

「私からしたらこんな時こそ、温泉で英気を養ってほしいのですが・・・。皆さんは流れ人ですよね?ぜひ皆さんはゆっくりしていかれて英気を養ってくださいね。」


おかみさんは少し寂しそうに語る。

・・・・・掲示板でここの宿を宣伝しとくか・・・。



「大丈夫だよ!!アイリスたちが今度いっぱいお客さん呼んできてあげるからね!!」


アイリスの満面な笑顔におかみさんは「ふふっ。期待していますね。」と柔らかい笑顔で答える。

アイリスの無邪気な笑顔は桜よりもおかみさんを元気にさせたようだ。


結局部屋はクランごとに分かれることになった。


おかみさんのおちゃめな笑顔で「悪魔結社」は全員強制ダイブアウトしていたので、意見は聞けなかったが仕方ないだろう。


部屋には魔法でしっかりカギがかけられ、部屋に泊まるお客さんしか入れない仕組みらしい。

そして各部屋に温泉があり、他にもみんなで入れる大浴場があるとのこと。


まずはオリバーと、やっと帰ってきた「悪魔結社」と大浴場に入ることにした。


「うはーー!!これはすごいな・・・。」

「あぁ、リアルじゃこれは味わえないな・・・。」


そこは山の上の方で素晴らしい景色だった。

後ろには大きな山があり正面には見渡す限りに草原。

奥の方に小さくフェラール山脈と王都パラードがあり、小さく浮かぶ城も見える。


さらに温泉の周りには桜の木が満開に咲いており、お湯は小さな滝のようなところから来ていた。

外からは魔法で除き防止がかかっている。


これ以上贅沢な温泉を僕は見たことがなかった・・・・。


「これは・・・・言葉もないな・・・。」

「ほんと。すごすぎる。」

「山下グループ様様だな。」

「というか元会長ら、だろ。」

「こんな景色想像もできないし作れないよ。」

「一体どんな頭の中してたんだろうな・・・。」

「偉大な人なんだよ・・・。きっと。」


意外と酒飲みのスケベジジイでしたよ。


まぁ、「どんな素晴らしい偉人も従者から見たら皆大した人間じゃない」って誰かも言ってたっけ。


どんな人でも会えばただの人間なんだよな。

おじさんも社長だけど家だとおばさんに逆らえない、ただのいい亭主だもんな。

肩書はあんなにすごいのに・・・・。


「はぁ~~~。これは癒される~~~~♪」

「ほんとね。あら?エリーゼ見ないうちにまた大きくなった?」

「ん。もうすぐワンサイズ上がる・・・はず。」

「む~~。アイリスはなんで・・・。」

「大丈夫よ。クリスを見れば遺伝的に。」

「エリザベスさん。・・・浮いてる・・・。」

「ほんとだよ~。なんで浮いてんのさ・・・・。」


ごくりっ・・・・。


そんな音が背後から聞こえた・・・・。


「おいおい。落ち着けお前ら。また強制ダイブアウトするぞ?」


「くそっ。お前はいいよな。いつもリアルで皆と入ってんだろ?」


「う、嘘だろ兄貴!!嘘だといってくれ!!」

「あ、兄貴が実は大人だったなんて・・・。」

「て、敵だ!!あんたは俺たちの敵だったのか!!」

「こちらチームα!!至急応援を頼む!!」

「こちらチームβ!!無理だ!!彼は大人の階段をすでに上がりきっている!!」

「こちらチームγ!!こちらも無理だ。すでに仲間がやられている・・・。」

「一緒に?ははは・・・。一緒に入ってる?・・・どこに入ってるんだろ・・・・?ははは・・・・。」


「おい!大人の階段はまだ上ってないぞ!!」


「だまらっしゃい!!俺たちの気持ちがあんたにわかるか!?」

「わかるわけないよ・・・。俺たちの気持ちなんか・・・。」

「雨の日も風の日も・・・エロ動画を探す日々・・・・・。」

「台風の日も雷の日も・・・・部屋にはマウスのクリック音だけが響き渡る・・・。」

「・・・一体俺は何してんだろう・・・。俺の彼女はこの27型液晶ディスプレイの中にしかいないのか・・・。」

「そう考えてしまう俺は負け組なのか・・・。神はここにはいないのか・・・。」

「あんたにわかるか!!この俺たちの日々の寂しさが!!切なさが・・・・。」


「わかるぜ・・・。お前たち・・。俺はこいつと違ってお前の仲間だ・・・・。」


「「「「「「「オリバーーー!!」」」」」」」」


「そんな寂しい俺たちに今できることはただ一つ・・・・。わかるよな?同士よ・・・・・。」


「ま、まさか・・・。あれをやる気か・・・・。」

「あんたは勇者か!?生きては帰れないぞ!!」

「無理だ!!あの壁を見ろ!!高すぎる!!」

「気持ちはわかる・・・。だがやめておけ・・・。」

「仲間が死ぬのを黙って見過ごせないよ・・・。」

「あんたの気持ちはわかる。その意思は十分すぎるほど伝わった・・・・。」

「そうだぜオリバー!!わざわざ死にに行くことないだろ!!」


「馬鹿野郎!!お前たちの手は何のためにある!!足は!?何のためにある!?」


「「「「「「「・・・・・オリバー・・・・。」」」」」」」」


「あの壁を超える為だ!!違うか!!??足はあの壁を飛び越えるために!!手はあの壁の頂をつかむために!!それができなくて何が男だ!?何が人生だ!?」


「…そうだ。何のためにAOLをやっているんだ俺は・・・。」

「・・・ふっ。俺たちの負けだ。オリバー。」

「ははは!そうだな!!何のためのAOLだってんだよな!!」

「やってやろうぜ皆!!俺たちなら行ける!!」

「そうだ!!どんな困難も越えてきたじゃないか!」

「そうだ!!あんな壁一つ越えられない俺たちじゃない!!」

「目が覚めたよオリバー!!あんたは真の仲間だ!!」


「ということでウィル!!あれを貸してくれ!!「クラーケンの吸盤」を!!」


「・・・・・はぁ。負けたよ・・・・。僕の負けだ。ほら、持っていきな。これもうお前達のものだ・・・。」



「「「「「「「あ、兄貴(ウィル)・・・・」」」」」」」」


「あんたはやっぱり仲間だったんだな!!」

「信じてたせ!!よしみんな!!逝くぞ!!」

「「「「「「「おう!!」」」」」」」」


そして皆で吸盤を持ち壁に貼り付け上っていく・・・。


「もうすぐだ!!あと少し・・・・。」

「…腕が・・・。この前の傷が・・・・。」

「諦めるな!!頂はもうすぐだ!!」

「あと少し・・・。あと少し・・・。」

「つ、つかんだ!!つかんだぞ!!」

「よし!!俺もだ!!」

「待て!!みんなで「せーのっ」で行こう!!」

「あぁ。ついに俺たちの「ユートピア」が・・・。」


「さぁ逝くぞ!!」

「「「「「「「「せーのっ!」」」」」」」」」



「ファイアウォール」



「「「「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」」」」」


皆は顔を上げた瞬間、顔面をエリザベスのファイアウォールで焼かれて温泉に落ちてくる。


まぁだろうね。


さっきみんなから「うるさい」ってメール来てたし。

きっとあの会話は全部筒抜けだったのだろう。


こうして楽しい温泉の時間は終わったのだった・・・。

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