第59話クランクエスト


「おっきな屋敷だねぇ。」

「ここがブクブク男爵のお屋敷?」

「みたいね。ブクブク男爵の。」

「ん。ブクブク。」

「そこだけ言うなよエリーゼ・・・。ただの悪口になってるぞ。」



「止まれ!!ここはブクブク男爵様のお屋敷だ!!」


「私たちはブクブク様に依頼されたクラン「カンパニー」のものです。」

「お前たちが・・・。すまないがギルドカードを確認させてくれ。」


素直に皆ギルドカードを差し出す。


「こ!これはっ!!・・・いやすまない。王のサイン入りカードを初めて見たから驚いてしまった。さすが流れ人といったところか・・・。」


門番はそう言い屋敷の中に案内してくれる・・・。


屋敷の扉を開けると香水のような独特な甘ったるい香りがしてくる・・・。


「き、来たな!!来たんだな!!わしがブクブク男爵であるんだな!!」


そこには絵にかいたような太った貴族がいましたとさ・・・。


「こんにちは。今回はご依頼ありがとうございます。「カンパニー」リーダーのエリザベスと申します。

「副リーダーのウィルです」

「同じく服リーダーのクリスです。」

「ん。エリーゼ。」

「アイリスです・・・。」


「ん!!合格なんだな!!皆わしの嫁になるんだな!!」


・・・・・。は?

そんな依頼だったか・・・?


僕はメニューを開き、依頼内容を確認する。


ーーーーーーーーーーーーーー

・クランクエスト【ブクブク男爵の屋敷を守れ】


最近噂になっている怪盗「無期懲役」が今晩24時に、ブクブク男爵の屋敷を狙っている。


何とか屋敷を「無期懲役」から守れ。


・報酬

10万G

叫びの杖


ーーーーーーーーーーーーーーー


うん。やっぱり違う。「無期懲役」って捕まっちゃってんね。


「ありがたい申し出ですが私たちは依頼の件で参りましたのよ?男爵様。」


「そうでありんすよ!!こんな貧相な体をした女なんか屋敷に住まわせたくないでありんすよ!!」

「そ、そんな事ないでありんすよ!ぼ、僕は欲しいでありんすよ。」


「二人は男爵夫人と次期当主様だ。それと後ろのがこの屋敷唯一の使用人のジジイだ。」


先ほどの門番が小声で教えてくれる。

気づけば夫人の後ろに足の悪そうな寡黙な爺さんがいた。


「綺麗な女はいくらあっても問題ないんだな!!」


・・・・あってもだと・・・?


「まぁ、綺麗だなんてお上手なのですね。男爵様は。それより屋敷の中を見学しても?」


「ふん。まぁいいんだな。この屋敷には宝石がいっぱいあるんだな!!しっかり守るんだな!!」


エリザベスの切り替えしで何とか冷静になる。

僕らは自由に動く許可をもらい屋敷を見学させてもらう。


屋敷の中はあの男爵からは考えられないほどきれいだった。あの使用人の力量がうかがえる。

そして屋敷の中は正直趣味が悪いとしか言いようがなかった・・。

金銀に溢れ、所々に宝石がちりばめられている・・・。しかも隅々まで甘ったるい香りが・・・。


「趣味が悪いねー!」

「ん。臭い」

「ほんと。それになんだかおかしいわ。」

「おかしい?確かに変な屋敷だけど・・・・・・。」

「私もおかしいと思うわ。収入と支出の量が合ってないわ・・・。」


「といいますと?」

「つまりね。男爵がこんなにお金を持っているとは思えないのよ。男爵といえば貴族の中では下級よ?こんなに宝石があるはずないわ。」

「ってことは・・・。」

「そうね。もしかしたらジンの言う通りかもね・・・・・・・。」


ジンには出発前に男爵のは黒い噂があると話しを聞いていた。

そして「無期懲役」。彼らは悪い金持ちだけを狙う義賊なんじゃないかという話がある・・・。


「だからね。相談があるのだけれど怪盗を泳がせない?狙いが何なのか気になわ。」


こうして僕らは怪盗がどの宝石を狙うか見極めてから捕まえることにした・・・。



「しっかしどうやって来るのかね?」

「定番で言ったら穴を掘ってくるのだけれど・・・。」

「あとは監視システムを利用したトリックよね。」

「んーー。でも電気がないから監視カメラなんかないしねー。」


僕らはパーティチャットで話している。


僕は屋敷の屋根の上。エリザベスは正面、アイリスは裏手、クリスとエリーゼは屋敷の中。



「そろそろかしら・・・・。」


時刻は23:55。


「・・・・・・・動き出したわ。」


クリスからの通信。


「クリスはそのまま追跡。皆は待機よ。」


エリザベスの命令。」


「今一階に降りたわ・・・・。執務室?こんなところに何が・・・?」


23:58分。


「クリス。動きは?」


「ないわ。さっき何か音がした気がしたけど、今は静かなものよ。」


「もしかしたらもう来てるのかもしれない。みんな執務室前に集まって。」



執務室前に集まり、中に入る・・・・。


「誰もいないわね・・・・。」

「どこ行ったのかな・・・?」

「確かに入ったんだけれども・・・。」

「あっあそこ・・・。」


執務室の本棚の床が一カ所だけ汚れていた・・・。


僕は本棚を調べる。と、回転式になっていた・・・。


「入ろう・・・。」


僕らは武器を構えて階段を下りる・・・。


「ここは・・・!!」

「…ひどい・・・。」

「ん。最低・・。」

「・・・くそ!なんでこんなことを・・・。」

「・・・やっぱりあなたが「無期懲役」ね・・・。」


そこには10人ほどの下着姿の女性。皆傷ついている。

部屋の真ん中には大きなベット。わきには何かの瓶・・・。そして・・・。


「へぇ。よくここがわかったわね。」


足を引きずるおじいさんからは想像がつかないほど、甲高い声でしゃべる。

というか口の動きと声があっていない・・・。



「やっぱり幻術魔法だったのね・・・。」


「・・・どこでわかったの?」


爺さんの体がゆっくり歪み、羽の生えた少女が姿を現した。


「まず、あなたが足を引きずっていたことね。その足で隅々まできれいにするのは無理よ。それに足を引きずっているのに、引きずっている音がしなかった。足元の絨毯も動いてなかったしね。」

「それにあの強烈な甘い香り。確かにあれは夫人の香水の匂いだったけど他にも甘い香りがしたの。」

「ん。嗅いだことある匂いだった。」

「僕らは以前、幻術魔法を受けたことがあるんだ。」



カッコよく言っているが気づかなかったのは僕だけだ・・・。


「あらそう。策士策に溺れるってやつね。ただのおじいさんにしておけばよかった・・・。」


「まぁそれで俺たちの計画は失敗したわけではないがな。」


突然後ろから声がし、振り向くと門番がアイリスの喉元に剣を構えていた。


「ごめんお兄ちゃん・・・。」

アイリスの弱弱しい声・・・。


「初めから男爵の味方はいなかったわけだ。」


「そういうことだ。」


「ねぇ。この子たちはいったい・・・?」


「それには私が答えてあげる。男爵は人身売買のホストの一人なの。他にも薬の転売。宝石の密輸入なんかもしているの。」

「そういうことだ。まぁ結果男爵はやりすぎて、周りの人間もそれに気づき離れていった。捕まるのを恐れてな。まぁだから潜入しやすかったよ。」


薬の転売は男爵が元締めだったのか・・・。

あの男達が騒いでいたのは「無期懲役」が仕事口を次々とつぶしていたからだろう。


「さてどうする?俺たちを捕まえるか?それとも・・・・・・」


「おいおいおい!!なんでここがわかったんだな!?門番!!何してんだな!?」


タイミングが悪い・・・。


「悪いな。俺たちは「無期懲役」なんだ。この子たちは解放させてもらう。」


「な、なんてことなんだな!!??衛兵!!衛兵来るんだな!!」


誰も来ない。


目の前の門番さんが唯一の衛兵だからだ。

このおっさん寝ぼけてんのか・・・?


僕は隙を見て門番と妖精族の子にウィンクする。


「あーーー・・・。つかまえてやるーー。てーーやーー!!」


完全に棒読みで僕は杖を振るう。


バブリーな杖を。


辺りにバブルが広がる。


「よし!!やっちゃうんだな!!行くんだな!!衛兵が来るまでもないんだな!!っぐっふぉ!?」


バブルが男爵に当たる。

男爵は吹き飛び階段に頭を打ち気絶する。

・・・だから衛兵はもういないのだ・・・・。


「あら、やるじゃない。」

「これは・・・・そういうことでいいのか?」


「あぁ。僕らは君たちに敵対しない。みんなもいいね?」

「もちろんよ。」

「さんせー!!」

「さすがお兄ちゃん!」

「ふふっ。もちろん」


「でもそうしたら依頼が失敗になっちゃうんじゃない?」


「大丈夫よ。私たちへの依頼は屋敷を守ること。屋敷は無事だから任務完了だわ。」




屋敷の前。

「なぁ。一つ聞かせてくれ。」


「なんだ?」


「なんで「無期懲役」なんだ?」


「あぁ俺たちは義賊。犯罪者だ。捕まったら「無期懲役」になる覚悟をもって参加する。それが俺たちのルールなんだ。」



意外とまともな回答だった。



こうしてクエストは無事完了。

女の子たちは解放され、ジンが呼んであった衛兵に男爵たちは逮捕され、彼らが「無期懲役」になりましたとさ。おしまい

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