第82話クロへの頼み、クロからの頼み

 起きたら既に陽が高く。っていつもの事じゃねぇか!

 他所に泊まりに来て寝過ごすとか……俺の生活のリズム滅茶苦茶だな!


 起きて皆の集まっているフロアに顔を出すと、やはり皆揃っており、


「コータよ、遅いぞ!」

「おまえのせいでご飯まだなんだぞ!」

「おはよう御座いますコータさん」

「相変わらず朝が弱いのですわね」

「コータさん遅いにゃ!」

「コータさん、寝過ぎもよくないだに!」

「コータさんお腹の虫が鳴りっぱなしなのですが……」


 なんかアルテッザだけが優しいんですが……。


 メテオラも俺達の雰囲気に慣れて来たのか、辛辣な様な感じを受けますね。


「ごめん、ごめん。昨日遅くまでちょっと考え事しちゃって……」


「コータがいくら考えても、エルフのメリットなど出る訳がなかろう!」


 え?


 なんで?


「エルフは1000年を生きる種族ぞ。その輩が必要な事なら既に1000年かけてやっておるからに決っておろうが!」


 さいですかぁ。言われて見ればそうだねって……いきなり詰んだ!


「じゃ、どうしろって言うんだよ! このままだとガルラード帝国が何処かの国に侵略戦争を仕掛けて大勢死んじゃうんだよ? 何もしなくてもガルラード帝国の人達が飢えで死んじゃう。俺、もう人が死ぬ所なんて見たくないよ! 死んだらただの物になっちゃう……母さんや父さんのように……」



「コータさん……」


 俺が初めて母さんや父さんの話をしたからか? それとも盗賊に殺された自分の親を思い出したのか、ポチ、タマ、ホロウまでもが意気消沈して涙ぐみだした。


 アルテッザも俺の名前を呼んだきり言葉が出せなくなっていた。


「コータよ、お主の両親は死んでいるが消えては居ない。それよりも我は前に言ったな? 甘える事と頼る事を履き違えるなと……。何故ここで我を頼らん。我は永久を生きる竜神ぞ!」


「なんだよ! 死んでいるけど消えて無いって! 頼るって、クロにならエルフのメリットを提示出来るって事か?」


「うむ、我ならばな」


 このまま俺がいくら考えても埒が明かない。両親の事も気になるけどここはクロを信じよう。


「クロ、頼む。何とかしてエルフの蟠りを解いてやってくれよ」


「承知した。我はしばらく留守にするよって後は任せたぞ。コータ」


「ああ、任された!」


 コータの頼みを聞き入れたクロは巨大樹から一気に飛び立ち、本来の巨大な姿に戻り、そのまま雲より上空に一気に加速していった。



 しかし、コータもまだまだ子供よのぉ。自分で考えが及ばなければ頼ればいいものを。おっと、我の方が甘やかし過ぎている気もするが……。コータも我の子。子の頼みを聞くのはいい気分だ。クロは一人思いながら大空を飛んでいた。そしてそれは突然やってくる。



 ――急に雨雲が差したかと思ったら。


 『ゴロゴロズバーン』という、気魂しい轟音が鳴り響きそれは現れた。


「よぉ、アイテール殿。久しぶりじゃねぇーか! うちの親父に何か用か?」

「うむ。久しいのぉ、トール。今回はお主等アースとヴァンに用があっての」

「ふん、まぁ上から見ていたから用向きは知っているが、相変わらずもの好きだな。アイテール殿も」

「それで会わせてもらえるか?」

「好きにしていいよ! でも怒らせないほうがいいと思うけどね」

「お主も言う様になったではないか!」

「ははっ、アイテール殿もね」

「それじゃ行くよ! ご招待」


 クロが目を開けるとそこは真っ白な世界だった。正面の椅子には、ぼろい黒のローブを着て、つばの広い帽子を目深に被り。白い髭を束ねている片目の男の姿があった。


「久しいのぉ、アイテール。こちらに戻っているとは聞いておったがこのわしに何様じゃ?」


 鋭い威圧を放ちながら、クロに問いかける老人。


「うむ、実はお主に頼みがあってのぉ。お主達アース神族とヴァン神族はエルフを見放したらしいが、今一度奴等に機会を与えてやってはくれんかのぉ」

「ふん。そんな事か。それならフロージかフレイヤの奴に直接言えばよかろうが!」

「その二人ならお主等の処におるのじゃろう?」

「ふん。そんな事まで知っておったか……」


 嫌そうな顔を隠しもせず、鼻を鳴らしそこには居ない者へ命令する。


「おい、フロージを呼べ!」


 黒いローブの老人が従者へ命じると、いつの間にか二人の脇に傅き人が現れ、首肯すると直ぐに消えていった。


「所でお主はまだ人間を諦めてはおらんのか? あれ程、愚かな行いを止め様としない魔獣以下の存在に何を期待しておる」


「お主もオルナスと同じ考えなのか?」


「当然であろう。フロージがエルフを見限ったのも神の子であるエルフの傲慢さゆえじゃしな」

「オルナスにも同じ事をいわれたがのぉ、そう簡単には割り切れぬのじゃ」

「ふぉふぉふぉ、本当にもの好きな事だ」


 そこへ傅き人に連れられ、眉目秀麗な優男が現れた。


「御呼びでしょうか。オーディン様」

「うむ、そこのアイテールがお主に頼み事があるそうじゃ」

「なんで御座いましょう。アイテール様」


「うむ、実はエルフと音信を断っているそうでは無いか。それを止めて欲しい」


「アイテール様ともあろうお方がエルフのお味方をされるとは……実に嘆かわしい」

「そうは申すな。フロージよ、今一度奴らに機会を与えてやってはくれんか? 奴らも主神からの音信が途絶えて悲しんでおるしのぉ」

「アイテール様自ら、私奴に頭をお下げになられるとは……。それでは近いうちに音信を再開させましょう」


「済まぬな。よろしく頼む」


「ふぉふぉふぉ、面白い茶番であったわ。オルナス同様、此度の演目しかと拝見させてもらうぞ。だが、つまらぬものだった場合は分っておろうな――前回は逃げられたが次は無いぞ!」


 老人の笑い声が響く中、クロが気づくと雨雲の中に居た。


「どうやら何事もなく戻って来られたみたいだねぇ、アイテール殿」

「ふん。親父殿に伝えておけ! もっと身奇麗にしろとな!」

「親子喧嘩になる元だからな。遠慮しとくわ!」

「では、アイテール殿またいずれ」

「ああ……」


 クロにトールと呼ばれていた男も消えていった。



 さっきまで周りに漂っていた雨雲は嘘の様に晴れ渡り、青空の空間にまばらに、ポツリ、ポツリと白い雲が光り輝いていた。

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