第70話コータの優雅な一日

 タマちゃんのパワーレベリングから、アイテールの街へ戻って今朝からは、皆で早朝稽古を始めた。


「いくにゃ! とぉ!」


 タマちゃんが、姿勢を低くし、勢い良くダッシュでポチの懐へ飛び込む。

 木で出来た、タマちゃん専用のナイフを、ポチの首筋に当てる寸前で、ポチが横っ飛びしてかわした。

 ポチはかわしながら、木の枝をタマちゃんのわき腹に当てる。


「にゃにゃっ!」

「タマ、相手も必死だに! 最後まで気を抜いたら駄目だに!」


 さぁもう一回だに! と、再び二人の特訓は始まる。

 ポチとは、2倍以上のレベル差があるから。普通に考えて勝てる訳が無いんだけどね。

 それでも普通の騎士相手なら、タマちゃんのスピードには、付いてこられまい。



 メテオラも、アルテッザと二人で、稽古をしている。主に、結界で避ける稽古だが……。



「メテオラさん、行きますよ!」

「はい、お願いしますわ」


 アルテッザの石突が、メテオラの、わき腹付目掛けて突かれる。

 即、結界を張れる訓練の様で、メテオラもそれに順応して、目の前にプリズム結晶の結界を張った。石突は、わき腹の手前で止まっている。


 これはどういう事だ……アルテッザのHPが1960に対して、メテオラのMPが、1743だから? 大差無いと判断されて、防げるのか? それとも力とかは、別なのかな?


 今一、このステータスは、分りづらい。


 HP1960の攻撃を、MP599の、タマちゃんの結界で防げるか、今度試してもらおう。


 え? お前は稽古しないのかって?

 俺、竜を一刀で切り伏せちゃう位だよ?


 そんなの相手では、相手が怪我しそうで無理でしょ!


「我がやってやろうか!」


 えっ、無理だから! 俺が怪我するし! 痛いし、気絶しちゃうから!


「お前は相変わらず、へたれのまんまだな!」


 だって『神』相手に勝てる気すらしません。

 神VSコータなんてフラグ。いりませんからね!

 俺、マジで死んじゃう。


「所で、これからの予定は、どうなっておる?」


 うーん。丁度もうすぐ、冬が来るらしいんだよね。


「だからなんじゃ?」

「流石に、冬は馬車での移動も、寒くて大変だな? って」

「確かに、寒いかもしれぬのぉ」


 しれない。じゃなくて、確実に寒いから!

 一人の御車席だけでも、寂しいし。それで寒さも加わったら。ねぇ?


「ただ寒いのが嫌なだけなんだぞ!」


 うん。そうとも言う。


「じゃ冬の間、ずっと篭っているのか? 昔みたいに」


 ぐさっ! 母さんみたいな、毒のある台詞、何時覚えたんだよ!


「コータの家に4年、住んでいたからのぉ」


 そーだったね。クロを保護して4年かぁ。

 色々な事ありすぎて、あっという間だったけど。


 なんか俺の、人生、波乱万丈じゃない?


「そうか? 我にはただ楽をして、レベル上がって、天狗になっておる様にしか見えんがのぉ」


 あぁ、それはあるかも? VS人で言えば、今の所負けなしだし。

 小竜もあっさり倒しているし。

 そう考えると、俺って。強いんじゃ? 魔法は、使えないけれど。


「お前そういうのを自惚れっていうんだぞ!」


  ですよねぇー。


「それでどうするのだ?」


 うーん、領地運営とか、俺には出来ないし。異世界チートモノってさ、良く内政チートとかあるけど、あれ普通の人じゃないよね!

 普通の人って、あんな知識無いと思うよ!


 それに豆使って、醤油を作る!とか、その専門の職業の人じゃないと、絶対無理だし!


 料理は、出来る人は多いかもだけど。俺には無理!

 精々、水車で石臼まわすとかさ、そんなのしか知らないよ!


 なんでもお気軽に、魔法でやっちゃう主人公って、どれだけ多芸なんだって思うし。

 俺の使える魔法、虚空倉庫、焚き火の火、結界、回復魔法。

 あれ? 意外とチートじゃん!


 でも地味だけどね。


「コータは、もっとパワーレベリングした方がいいぞ」


 なんで?神VSコータとかの伏線とかじゃないよね?


「そんなもん我はしらぬ」

「コータに倒される神なんかいないんだぞ!」


 さいですかぁ。

 じゃなんで今以上の、力をつけるんだ?


「あれじゃな! 自分のステータスを見られる位まではあげた方よかろう?」


 それもそうだな。


「ちょろいんだぞ!」


 それ誰から教わった? ヘメラ!


「コータだぞ!」


 ですよねぇ。くそっ。

 しばらく、クロと二人で、旅に出るっていうのはどう?


「他の娘達が納得する訳なかろう」


 そう言えば、思い出した!

 この前、虚空空間の時間が流れていたでしょ?


「コータのはじゃがの」


 それで思い出したんだけど、俺の虚空の中のワイバーンと小竜、どうしよう?


「虚空自体の、温度が、低いのだから、しばらく放置でも構わんだろう?」


 そのしばらくが、問題なんだけどね!


 それで、アイテールの門の左右に、小竜の剥製を置く! ってのはどうよ?


 街の宣伝にもなるし、観光目的で人も、呼べるかも?


「そんな物は好きにせい」







「デメストリーさん、この辺で剥製作ってくれるお店か、職人さんとか知りません?」

「コータ様、それなら冒険者ギルドに依頼なされば良いかと」


 なるほど、その手があったか。


「わかった。そうしてみるよ」





「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ!」


 やっぱり若い美人の女性が受付は定番だね!


「依頼をしたいのですが?」

「どの様なご依頼でしょうか?」

「小竜の剥製を、作って欲しいんだけど」

「はい?」

「ですから、小竜の剥製を」

「少々お待ちください」


 受付の美人さんが奥に走っていった。



「マスター変な子供が竜の剥製を作ってくれって来てるんですが! 返しちゃっていいですか?」


 ちょっと……聞こえていますって。


「なんじゃ、騒々しい」

「ですから、変な子供が小竜の剥製を作って欲しいって来てるんですよ。頭おかしいから帰ってもらっていいですか?」

「それはおかしいな。ドラゴンを見かけなくなって何十年も経つのにのぉ」


 がはははは、とか笑ってんじゃねぇ!


「一丁、わしが相手してやるか!」

「ようこそ冒険者ギルドへ。貴方がドラゴンの剥製を依頼されている方だとか?」

「そうだけど……」


「そんな台詞は、ドラゴンを、退治出来る様になってから言うんだな!」


「じゃ、ちょっと広い場所貸してよ」


 そう言うと――広い場所に案内してくれた。

 指定されたのは、解体部屋では無く、訓練用の修練部屋だった。

 仕方ないので、虚空から、ドラゴンを2体出す。すると、流石に大口が塞がった。


 ざまぁ!


「いったい、お前。いや、あなた様はどなたで?」

「ここの城主の、コータ・ミヤギである!」


 ここからは、さっきまでのは何だったの? と言う位腰が低くなり、態度が丁寧になった。


「じゃ、この竜の剥製をよろしくね!」

「はい。畏まりました」


 1週間で出来上がるそうなんで、出来たら門に運んでもらおう!


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