第49話監禁生活

あれから半日位は、ここに捨て置かれただろうか?


まぁ、ここ南国で暑かったから涼しくて丁度いいんだけどね!

もしかしたら、こんな暑い国に訪問した客人へのおもてなしかもしれないでしょ?

でも、こう真っ暗なのは精神的に頂けないな……。

ここには、クロもヘメラも居るから何も心配はしていないけどさ。


相手の出方次第では、いくらでもやり返せるんですよ!

だって俺の剣も、俺も無傷だし何かに拘束されている訳じゃないしね!


え?

普通は、牢屋に入れられている事を拘束って言うんだって!

そんなの――俺が知る訳が無い。


大体、この目の前に多分座っているんだろうけど――アレフ王子だって何も抵抗してないって事はいつでも脱出、もしくは抵抗出来るから何も行動してない筈だしね。


「我は腹が減ったな」

「兄様、ヘメラもお腹空いて来たんだぞ!」


ちょ、まさか二人だけで逃げ出すつもりですか?

と言うか、二人だけで飯?

いったい何を食べるんでしょう?


「我もグルメになったからのぉ~流石に生肉は嫌いだぞ!」

「ヘメラも胡椒が掛かった野菜と肉の方が好きなんだぞ!」


へいへい、迎賓館で1月も生活して、すっかり人間の生活に順応した様だ。


何をするのか見ていたら……虚空空間からフライドチキンを取り出した。

そんな物があったならもっと早く出してよ!

そう言ったら、これは我が王から貰った貢物だ!

だそうです。

俺はそんな物、貰ってないけど?糞


「コータも出せば良かろう?中に入っておるのだろう?」


俺の、虚空空間に入っている食い物の事を言っているのはすぐ分ったのだが――。

中にあるのは硬い黒パン、干肉、香草、野菜、小麦粉。これしか無いんだけど!

まさか――ここで俺に料理しろと?


ここ、完全では無いけど密閉しているよね!

一酸化炭素中毒で、俺達死なない?


クロを見ると、ヘメラにもチキンを渡して一緒に齧りはじめた所だった。

これ絶対に横から手を出したら……尻尾が飛んで来るよな?

来るよね!

今までがあれだもん。

そう思っていたら、クロのニヤけた視線が眼に映った。


それにしても本当に、この兄妹は仲がいいな。

俺にも兄弟がいたら、こんなんだったんだろうか?

あ゛ぁ~考えるの……止めよう。


馬車の中は、フライドチキンの匂いで充満しており……俺の他、数人の騎士の腹が鳴っていた。

え?来た人間、全員牢屋にいるのかって?

そんな訳が無いでしょう!

港に停泊して――そのまま俺とアレフ王子、セバス、護衛の騎士10人が同じ馬車に乗り込んですぐ閉まったから、他の騎士はもう殺されたか?

船に戻され軟禁されたと思われる。


しかし此処は何処なんだろうな、結構涼しくて助かりはするけど。


「ここは洞窟の中でも奥の方なんだぞ!」


ヘメラさん、見て居ないのに、この場所が分るんですか?


「わらわには、何でも分るんだぞ!凄いんだぞ!」


どういう能力だよ!それ!


「ヘメラは賢い良い子じゃのぉ!」

「ヘメラは兄様のかわいい可愛いヘメラだからな!」


何だ……このブラコンは?

これで神って、普通は信じないぞ!誰もね――。


「コータは、神を何だと思っておるのだ?神だって感情があると言った筈だが……それ同様に思考の偏りもあれば、趣味に走る神も多い。あっちでも竪琴奏者の神、美の神色々表現されておっただろう?」


あ~、俺は図鑑に載っていない神は詳しくないからな。

だが、其れ位なら居たような気がする。

それと同じ事か。


それで、ここが洞窟の奥だとして、これからどうなるんだろうね?

不安は無いけど、流石に腹も減るからイライラしてきちゃうかもね。


「オワレス辺境伯はここから出られるかい?」


当然出られる?と思うとアレフ王子に告げると、アレフ王子があからさまにホッとした表情をした。

なんでだ?と思って、いい機会だから王子のステータスを覗いてみたが……。

見られなかった。


「無駄だよ?僕のステータスは守りのペンダントで見れ無くしてあるからね」


そうですか。

随分、信用されています事。


そんな会話をしていると、少し遠くからざわざわと数人の足音が聞こえだした。

馬車の目の前で足音は止まり、馬車の横に取り付けられている格子つき窓が開き――外から中を誰かが窺っていた。


「おおぅ、おるわおるわ!間抜けなアルステッドの王子が。がははぁ!よもやこんな見え透いた罠に引っ掛るとは思いもしなかったが――流石は4年も騙されておったのを気づかぬ間抜け共よ!最後まで間抜けのままじゃったな!」


格子の隙間から、外に視線を移すと先程の軍部統括大臣のエルダンと、オルドバが居た。


「なぁアレフ王子、なんでオルドバがこんな所に居るんだ?」

「似ているだけじゃないのか?だって彼は――」


王子の言葉が、最後まで語られる前にオルドバが大声で怒鳴ってきた。


「オルドバだと!オルドバを何処にやった!よもや殺してはおるまいな?」


ん?こいつオルドバじゃないのか?


「それを聞いてどうする?そもそもお前こそ誰だ?外見はオルドバに似ているようだが?」

「オルドバはわしの弟ぞ!さぁ吐け、何処におるのだ!王都に草を放ってもこの1月間、一向に足取りは途絶えたままじゃ!さぁ!吐け」


へぇ、こいつが兄なのか。

俺は、目の前の兄妹を見る。

やっぱり同じ顔よりずっといいな。

同じ顔が揃っていたら、落ち着かなくてしょうがない。


確か、オルドバって処刑されたよな?

王族暗殺未遂に、国家を転覆させる工作までやっていたんだから。

当然だな!


「外務大臣のオルドバ氏の事なら、先月未明――人気の少ない早朝に国王、王女暗殺未遂に加え、国家転覆を企んで実行した罪で、人知れず処刑されたぞ?遺体なら燃やして豚に食わせた」


えぇぇ、死体を豚に食わす?

それ、どんな意味があんの?

聞いたら……それほど屈辱的な処刑は無いからだそうだ。鬼か!


「おのれ、おのれぇ!わしの大事な弟を!わしがオルドバの敵は必ず討つ!首を洗って待っていろ!」


そう言って扉を閉め、また来た道を戻っていった。


首を洗ってとか言うなら風呂位用意しろって!

そう思っていたら、クロから暖かな視線を向けられた。


「コータはいつもカラスの行水ね!と母君に言われておったではないか!がはは」


確かに……風呂に入って洗うのは分るけど、長湯する意味が小さい頃は分らなかったからな。

今でも実感が無くて分らんけど……。

大人になれば、肩が凝るとか腰が痛いとかで気持が分るようになるのかねぇ~14歳では分らないや!


さて、どうしますかねぇ~。

大して尋問も何も無かったって事は、このまま処刑する気なのかな?

この檻ってそんな壊れ難いのかな?

俺、蹴り入れただけで、壊れそうな気がするんだけど……。


でも――止めとこう。

何でだって?

終わりの5分前が一番盛り上がるでしょ?

この紋所が眼に入らぬかってね。


「がはは。あのテレビは面白かったな!我も好きだったぞ!」


オウムの癖に、TVをジッと見ていたと思ったら、内容まで理解していたらしい。

――侮れん!


そんな事で、腹の減りもピークになった頃に、オルドバ似の男が手に何かを持ってやってきた。


「ほれ、お前達にお似合いの最後の晩餐の差し入れだ!」


そう言って、窓から放り投げていった物体が4つ。

よく目を凝らすと、腐った鼠の死体だった……。


小窓が開いているし、今ならいいか!

ちょっと練習していた着火魔法で鼠を燃やす。

だって、細菌とか蛆とかイヤじゃん!


「なっ!魔法師がおるのか!だが、着火の魔法だけでは、ここからは出られまい?がはは」


そう高笑いして、小窓に鍵をかけまた戻っていった。


どれだけ此処に居たんだろう……。

あれから、もう二日は感覚的に経過している筈だ。

その間、トイレ小は右の片隅で――。

トイレ大は、左の干草のある場所にした。


そうそう、全国の美男子が超大好きな女性のみなさん!

美男子王子もやっぱり、出すものは出していましたよ!

それもくっさいのを……!


夢と、希望を持ってはいけません!

アイドルはトイレに行かない?そんな事ありえませんから!



もう限界も近いかなと言う所で、漸く人の足跡が聞こえ出した。

今回の足音は、前と違ってかなり多い。

いよいよか?

と思っていたら小窓が開き開いた男が恭しく頭をさげ、後ろに下がった。


「ほう!まだ元気そうではないか!我は海洋国家エジンバラの国王アーグスタ三世である」

「頭が高い!面を下げろ!」


――って王様の護衛らしき騎士に言われた。


あれ?

終わり5分前にそれ言うの……俺達じゃ無かったっけ?

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