第36話パワーレベリング

「ではコータ殿、一応この書類にサインを、お願い致しますぞ!」


俺は、しょぼくれた顔で借用書にサインをする。


闘技場の破損分と、さらに闘技場脇の教会の屋根を直撃したシャイニングブラスターは――俺の予想に反して当たった場所を粉々にしたらしい。

その修理費用、金貨にして5000枚。

手持ちの金貨1000枚を支払っても、まだまだ全然足りない。


下手したら、ライトノベル初!

自ら借金作って奴隷落ちした主人公に成るのではないだろうか?

え?似たような人いるって?

それ聞いて少し安心したよ。


部屋に戻ると、皆が心配そうに集まってきて、口々に慰め?てくれた。


「コータさんがどんなに貧乏でも私、借金を返すお手伝いさせて頂きますね!商会の伝手もありますし……」

「コータさんが借金負ってもお肉食べられるだに?」


ポチ……自給自足ならいくらでも肉は食べられるから!

むしろ俺の精神状態の方を心配して!


「コータさんならすぐ返済できますよ!なんせ古竜様の加護があるんですから!」


確かにね……魔獣を狩りまくればいつかは返済出来るよね?

ただし、返済終わる頃には俺……人じゃないかも?だけど。


「コータさんも、私と似ておっちょこちょいですね!私も伯爵に騙されて盗賊と行動を共にしましたし……」


イアン……それと俺を一緒にされても困ります。


「コータさん貧乏になったのかにゃ?ごはんだいじょうぶにゃ?」


うん、タマちゃんくらいは面倒見られると思うよ。

まだ体小さいから、そんな食べないしね!


「だから我がよせ!と言っただろうに……」


かっちぃーん!

言っただろうにじゃねーよ!

あんな破壊力なんて聞いてないし――。

そもそも俺が魔力操作やっていないの、クロは知っていたよね?

知らないなんて言わせないよ!

ほとんど俺の肩の上に乗っていたんだからさ!

すっかり自業自得の逆恨みである。


「じゃ手っ取り早く返済する為に、パワーレベリングにでも行こうではないか!」


またまた……クロさん、今度は何企んでいやがるんです?

俺だってね……言う時は言うんですよ!


「じゃ大人しく、鉱山送りにでもなるのか?寂しくなるのぉ」

「コータさん、鉱山に行ってもお帰りをお待ちしていますね。ぐすん」

「コータさん山にいくだに?山の幸がたくさんで羨ましいだに!」

「コータさんなら鉱山では一人でも、ワイバーン退治しそうですね!加護があるんですから!」

「コータさんやまにいくならおみやげおねがいにゃ!」

「私も一度、冒険者の護衛の仕事で鉱山に行きましたが高度が高くて息が苦しかったので――私には行けませんね」


皆、好き勝手いってやがる。

俺、本当にアルテッザといい雰囲気に成れる気がしてきた。

弱っている時に、グッと来る言葉ってあるよね!

ポニーテールの女の子好きだし……。

本気で考えてみようかな――。

お嬢様で育ちもいいしね!


「お邪魔していいかな?」


あー王子か……今そんな気分じゃないんだよね。

あなたの、お誘いのせいで、借金で首が回らないんだからさ。


「おお、いいぞ!」


本当に……いいぞ!じゃねっつーの。

クロ……やっぱり何か企んでいるね。


「じゃぁ、取り込み中の所、悪いけどお邪魔するね。早速でなんだけど、これは僕からの提案なんだけどね……」


ほら。きた……どうでオクトパスをクロ抜きで倒してくれって言うんだろうな。


「借金をチャラにして更に褒美に金貨5000枚と、この前見せた武器で残っている中から1つの報酬で、オクトパスをクロ様抜きで倒して欲しいんだよね」

「オクトパスをクロ抜きで倒せっていうんでしょ!」


最後だけ声があった。


そんなの、この流れだ――決っているじゃん!

褒美の宝物庫の時から、フラグがビンビン立ちっ放しだもん。


「やってくれるかい!コータ殿なら必ずそう言ってくれると思っていたよ!」


糞。また爽やか笑顔全開かよ……やる方の身にもなってみろ!


「はいはい、やらせて頂きますよ。ただし、今日から1週間後でも良ければね。それとしばらくの間、タマちゃんを預かって貰ってもいいですか?」


流石に、こんな幼女を連れて魔獣退治とか無理ゲーだし。


「いやぁ本当に助かるよ!タマちゃんの事なら心配しなくていいよ、ローラと一緒に面倒見るから」


勇者候補のくせに……安全な所で、高みの見物決め込むんですね!

何か納得いかないけど……仕方ない。


「クロ、この近くに魔獣の多い所は?」

「うむ、例の湖を更に北に行った山脈を越えた辺りに、数多く生息している様だぞ」

「それじゃ、明日から皆でそこでパワーレベリングね!俺だけ強くなっても他の皆が弱かったら、護り切れないかもだし」


皆も状況は本当は分かっている様で、素直にはい!と答えてくれた。


そして翌朝、

タマちゃんを王城に残し、王都から人目に付かない所まで馬車で移動――。俺達5人とフロストでクロの上に乗り込む。

このメンバーでの飛行も、タマちゃん救出の時以来だな。

そんな事を考えたり、女性陣に遊ばれたり?

遊んだんじゃなく遊ばれたの!俺が!

最近、どんどん立場が狭くなっている気がします。


山脈を越えて、木々の深い山奥に降り立った。

降り立つ際に、クロがやれと言うので……。

カラドボルグでシャイニングブラスターを放ち、滑走路を構築した。

この前より、加減したつもりでもかなりの範囲に被害は及んだ。

え?環境破壊?そんなの知らないよ、俺。


自然は、母さんが好きだったから俺も好きだけど……。

別に環境保護の団体さんじゃ無いからね!


到着早々、森の中から現れたのはコボルト?

これ、ゴブリンと同じ位の雑魚なんじゃなかったっけ?


「イアンは後方待機、もし奥から新手が現れたらインフェルノで先制を……」

「アルテッザは、俺と一緒に右から殲滅」

「ポチとホロウは左をお願い!」


はい!と言って、皆で手分けして相手をする。

今回は、俺も慣れたもので……縮地もどきで距離を詰めて、

カラドボルグを横にぶん回す。

掠っただけで、あっけなく両断されるコボルト。

次から次に沸いてくるコボルトを、無理なくアルテッザと共に倒していく。

うん!いい感じだ……。

やっぱ二人の共同作業って楽しいね!


ちょっと、大きめのコボルトがアルテッザに迫る。

それを槍で突いて無理なく倒したアルテッザは、

その後ろに隠れていたコボルトの発見に遅れる。

『きゃっ』という悲鳴に気づき、慌ててカラドボルグを投げつける。

危機一髪の所で、コボルトの背中にカラドボルグは刺さり息絶えた。


俺が無手になったのに、勢いづいたコボルトが5匹一気に襲い掛かってくるが……無手の方が、最近の戦闘では慣れたものだ。

いつもの様に、相手の斜め後ろまで素早く移動でまわし蹴り。

ただし、コボルトの身長が低い為にまともに首にヒットする。

首の骨が折れる者、頭と胴体が分離した者、様々な結果に終わる。

そこへアルテッザが剣を持ってやってくる。


「ありがとう!」

「いえ、コータさん助かりました。」


二人で見詰め合って、ニコリと笑い合い、また戦闘に戻る。

あぁ、やっぱりアルテッザ、可愛いわ!

俺。成人したら結婚するんだ――アルテッザと!

まだプロポーズもしてないけどね!


ホロウとポチも、前回のオーガ戦の様に交互に槍を突き出し――。

難なく倒していく。

ここまで来るともう作業だな……。


そんな雑魚狩りを、延々一日繰り返し、

初日の狩りが終了。

初めて皆を助けた時の、湖まで戻ってきた。


「ふぁ、疲れましたね」

「アルテッザ、頑張っていたしね」

「ポチも頑張っただに!」

「私も頑張りました!突いては倒し突いては倒し!」

「うんうん、みんなご苦労様。明日も早いから早く休まないとね」


早々に食事を済ませ――。

俺が出した馬車の中に皆で入っていった。

俺?俺は……これから魔力制御の練習です。

湖に向けてなら、まだ影響は最小で済むからね。


そうしてやってきた二日目、二日目も昨日と全く同じ。

何か飽きてくるよね。

一応魔獣でも、命あるものを殺しているんで不謹慎だけどさ……。

でも、ルーチンワークは飽きる訳ですよ。


二日目の夜に、ポチとホロウが馬車に入っていった後で……。

アルテッザが出てきて、俺の隣に座った。


「コータさんは、怖いと思った事とかありませんか?」


これは……いったい……もしかしてチャンスなのか?

距離を縮めるイベントきたぁぁぁ!


「俺もこの前まで怖くて、怖くて……それそこ泣いちゃう位……」

「コータさんみたい絶対防御でしたっけ?無敵でもですか?」

「うん、それを知ったのは最近だからね。タマちゃんの救出の時もワイバーンの時も、オーガの時にも怖かったさ」

「良かった、私だけなのかと思っていました。でも言ったら皆にも影響しちゃうんじゃって思って……」

「戦っているんだもん。アルテッザだけでなく――恐らく皆、怖いと思った事あるよ。きっと」

「アルテッザも、皆も、俺が必ず助けるから!安心して任せて!」


いやぁ、目の前で弱い姿見せられたらぐっときちゃうよ!

思わず格好付けちゃった……。

「はい!じゃ寝ますね、おやすみなさい」

「うん、おやすみアルテッザ」


いい雰囲気のまま、二日目が終わる。

明日は、もっと距離も縮めてみたいな。


結局、5日目の朝まで大きな魔獣も現れずに――。

雑魚ばかりを、延々と倒しまくった。

こんなに魔獣が湧きまくるって逆にやばいんじゃ?

もう1000匹はゆうに倒しているでしょ。

ほとんどスタンピードですよ!


そして、その軍団がやってきた。

朝から最終日と言う事で、浮かれていた部分があったのは認める。

でもまさか……。

クロが近くにいるのに、竜が3体もやって来るなんて……。

――誰にも想像が付かなかった。


早朝に、湖に女性陣が顔を洗いに行き……。

俺は、昨晩も魔力操作の練習をしていて、眠かった為に寝坊していた。


そこに……湖の水でも飲みに来たのか?

それとも、過去に目撃されたピクシードラゴンを造りだした竜で――

久しぶりに戻ってきただけだったのかも知れない。

だが、竜が3体襲来した……。


そして、湖畔で顔を洗って支度していた4人が発見されてしまった。

『グワァァァァァァァァァァァァー』


けたたましい咆哮で飛び起きた俺が馬車の窓から外を見ると……。

獣人の二人が横飛びに避けた所で……。

初動に遅れたと思われた、アルテッザとイアンに向け、

――竜の爪がなぎ払われた所だった。


俺の目には、スローモーションで二人に腕が当たったのが見えた。


「アルテッザぁぁ!」


俺は、急いで武器も持たず外へ飛び出したが……見た光景は――。

イアンは爪ではなく、手のひらで払われた様で、

ダイナミックに吹き飛んではいるが、軽症で済んでいそうだったが……。


アルテッザはまともに足に爪が当り……。

バッサリと片足が切断されていた。


俺は、もう何が何だか分からず――ただ我武者羅に竜に突っ込む。

突っ込まれた竜も最初は驚いて居た様だが、

相手が人間の子供、ただ一人と思い油断して顔をニヤケさせた様に見えた。

俺は、アルテッザを切った竜の足に、渾身の力を振り絞ったローキックを叩き付けた。

だが流石に格が違い過ぎた……。

五月蝿そうに尻尾を振り回し、俺に当てて来たがなんて事は無い。

いつも食らっている、クロの尻尾の方がかなり痛い。

そこへ馬車に逃げ込んで、俺の剣に気づいたポチが剣を持って走ってきた。

2度、3度と竜へローキックをしていると次第に竜の足が腫れ上がる。


「剣、忘れているだに!」


ポチも慌てているようだ……。

頭の上に剣を掲げ、俺に剣を持ってきた事を知らせてくれる。


「こっちへ!」


それで通じたようで、ポチは剣を投げつけてきた。

空中で剣を受け取り……鞘が付いたまま一気に竜の頭に振り下ろした。


俺の着地と同時に、雨の様に竜の血が降り注ぐ。


後、2体……急げ、急げ……。


じゃないと……アルテッザが死んじゃう!


1体が倒された事に怯えたのか?もう1体は逃げる体勢に入った――。

逃げる竜を追わずにまだ戦闘意欲の旺盛な1体に、下から逆袈裟懸けに……

剣を振り上げた。

足に当り、足が腿から切断される。

『グオォォォォォ』

と雄叫びをあげる竜に止めのシャイニングブラスターを顔に放つ。

剣から光が消えた時に、見た光景は――。

首から上が消失した既に事切れた竜だった。

逃げた残りの竜は、逃げる前にフロストのブリザードを翼に食らい――。

飛べずに悶えていた。

そこへすかさず縮地で近づき、本日最速の剣速で首目掛けて振り下ろした。

フロストによって自由を奪われていた、最後の竜もあっけなく息絶えた。


俺は、アルテッザの元へと急ぎ向う。

既に皆に囲まれて、意識を手放さないように声を掛けられていた。


「アルテッザ!」


俺は、アルテッザの横に跪き、急ぎ腰の紐を使って切断された場所の少し上を縛り上げる。

急げ……急げ……最初に血を止めて。

それから……縛った後で傷口を消毒か?

湖の水で大丈夫か?

不安だが仕方ない。

取り敢えず、洗って応急処置をする。


アルテッザはもう、ぐったりしており――。

普段から綺麗なアニメ顔が、黄疸が出来ており痙攣し始めている。

『おおぉぉぉぉぉー!』

俺は、何も出来ない不甲斐ない自分にいらつき声を荒げる。

そこに、今まで何処へ行っていたのか?

クロがやってきて……。


「何をやっておる!コータ!治癒の回復魔法もイメージだぞ」


俺は、クロの言っている意味を一瞬で理解し――。

切れた方の足を持ってきてもらい、形だけ患部に取り付ける。

後はひたすら……。

アルテッザの元気な顔を思い浮かべ、元通りの足をイメージする。

5分程度やっていただろうか?

『ポワッ』と青く光ったと思ったら――。

切れた足は元通りに繋がっており、黄疸も嘘の様に消えて無くなっていた。

俺は最後に、アルテッザの口元に耳をよせ呼吸音を確認する。

その音を聞いて……俺は一気に脱力した。


「良かった。本当に……良かった。俺が護るって約束したのに――」


俺の目には大粒の涙が垂れては落ち、垂れては落ち――。

アルテッザの血に染まった服に、染みを作っていった。

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