第4話 掌の中には


掌を差し出すと

風に舞った砂が纏わりつく。

何か大事なものが

崩れ去ったのかもしれない。

世間の常識か自己の価値観か

あるいは昨日までの自分、

僕らが過去と呼ぶものか。

またあるいは世界自身か。



風は後ろから吹いてくるけれど。

その彼方にどんな景色が拡がっていたかは

もう曖昧な記憶でしかない。

振り向くには、とても勇気がいるし。

ひょっとしたらそんなものはなくて

今この瞬間、歩いてきた道さえも

風に舞う砂の様に崩れ去っている

そんな想像も難しくない。


僕は何処を旅してきたのだろう。

一体何を築いてきたのだろう。

視てきたものの全てが

記憶の中にしか

その存在を許されないとしたら?

それなら目を瞑って

頭の中で造り上げるのと

どんな差異が生まれるというのか。


ここから見える景色さえ

その一切は過ぎ去って

この風に舞う砂の一粒に

やがては変わっていく。

僕のこの掌は今、

何を掴もうとしているのだろう。

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