第334話 イネちゃんとお出かけ
「むー……動きにくい」
「でもほらお揃い!へへーん」
リリアが一晩でやってくれちゃいました。
というのも驚きのフリフリドレスが採寸の翌日に、イネちゃんのものだけでなくリリア自身も同じデザインのものが作られていて、夢でも見ているのではないかって感じに二度寝しようとしたよね、うん。
「ジェシカおばさんもイネを着飾るって言ったらすごくいっぱい布をくれてね、いやぁ捗ったよ」
すごくいい顔をしているリリアを横目に、イネちゃんは履き慣れないヒラヒラ多めのロングスカートに悪戦苦闘しながら歩く。
いつもように歩こうとすると裾を踏んでしまいそうになるから足はうまく上げられないし、足幅も大きく伸ばせないからもどかしくなってくる。
一方普段ショートパンツとかホットパンツなのにリリアは慣れた様子で歩いていて、この差は趣味でおしゃれとかをするかしないかの差なんだろうけれど、リリアの場合長身なのもあって清楚って感じがイネちゃんから見ても感じられるくらいだから、これ絶対雰囲気とかもあるよね。
「すり足気味に足を動かすと裾を踏まなくていいよ」
リリアもよほど気になったのか、イネちゃんに歩き方のアドバイスを飛ばしてくる。
「むぅ……いっそ地面に足を同化させてしまおうか」
「それはだめだよ、せっかく靴も可愛いのを履いてるんだからさ」
そう、実は靴の方もジェシカお母さんがすごくノリノリで鮮やかな色の靴を渡して来て、それを今履いているのだけれど……それがまた微妙に上げ底でこれもまた歩きにくい原因を担っているのだ。
普段滑りにくい安全靴というか、装甲能力を持たせた重量のある靴を履いているからどうにも軽い靴に慣れないからこそ、歩くときに勢いをつけてしまってすり足にしてもちょっと裾を踏んでしまいそうになってしまう。
「せめてどっちかいつものならよかったんだけど……」
とは言え今は平日なので、いつものセーラー服なんか着ていたらお巡りさんに全力で補導されてしまうので、いつものとなると靴のほうになるけれど、それはそれでテンション上がってノリノリだったジェシカお母さんに悪いから、イネちゃんに選択肢なんてなかったのだった。
「ほら、私がエスコートするからさ。それでもダメなら少し調整してあげるからどこかに入ろ!」
そう言ってリリアはイネちゃんの手を取るとゆっくりと商店街の方へと向かって歩きだした。
うー……これは想像以上に恥ずかしい。
うまく歩くのすら難しい状態で知人に会うっていうのはこうも恥ずかしいものなのかと実感することになるとは……地球に来た直後は結構着せ替え人形状態で顔を合わせていた人が多いだけに本当にちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
「リリア、せめてもうちょっとゆっくり……」
「あ、ごめんごめん」
イネちゃんの言葉に、リリアが歩く速度を落としたところで。
「あらあらまぁまぁ、イネちゃんじゃない。お人形みたいな格好でまぁまぁ。昔のことを思い出すわぁ」
「う、おひさしぶりです」
早速顔見知りとエンカウントをする地元世間の狭さ……いやムータリアスでも知人とエンカウントしたけどさ、ジャクリーンさんとか。
「あらあら、そっちの子はまたお綺麗。イネちゃんの彼女かしら」
「友達だよ、もう橋本のおばあちゃんはいっつもそうやってからかうんだから」
あまりの勢いでグイグイ来るものだからリリアなんて割と引き気味で顔がちょっと引つってるのがイネちゃんのポジションでも確認できる。
「えっと……私は築防リリアです。イネとは年が近いこともあってその……仲良く……」
「あらあら、結構おしゃまさんなのねぇ」
リリアって人見知りしないほうだと思ってたのに、こういうグイグイ押してくる人は逆に苦手って感じになっちゃうのかな。
「橋本のおばあちゃん、リリアがちょっと引いちゃってるからもう少しテンション下げてよー。それとおばあちゃんはお買い物?」
「あら、ごめんなさいねぇ、私ったらお邪魔しちゃったわねぇ。イネちゃんは大陸の方で活動しているって聞いてたし、本当に久しぶりに元気な姿を見たものだから」
「あぁそこは別に事実だしいいんだけど……お買い物するなら手伝うけど?」
「そこまでしてくれなくてもいいわよぉ、イネちゃんはお休みなんでしょう?だったらゆっくり休まないといけないわよぉ」
「いやまぁそうだけど、橋本のおばあちゃんのお買い物のお手伝いくらいなら全然平気だからさ。リリアも大丈夫だよね?」
「え、う、うん……」
うーん、まだ硬い感じ。
でもまぁ、リリアも地球に来たことはあっても、行く場所は基本的に服飾系のお店か本屋さんだったからね、こういうご近所さんとの交流は殆どなかったし、今後はリリアも地球にきたりするかもしれないわけだからね、そういう意味では丁度いいのかもしれない。
それに近くのスーパーは来たことあるらしいけれど、その時はリリアとティラーさんの2人だったみたいだしご近所さんは声をかけなかっただろうからね、これを機会に地球の文化に触れるのもいいよね。
「よーし、それじゃあ行こうか。ところで橋本のおばあちゃん、スーパーでいいんだよね?」
「えぇ、商店街はもう周り終えたからねぇ。でもよくわかったねぇ」
「買い物かごにお野菜が見えてるから。大手流通スーパーよりも、大陸側から仕入れをしてる個人商店のほうがお野菜は間違いなく安いからさ」
「そうなのよねぇ、お肉とかお魚はスーパーのほうが安いからもう毎日大変よー」
大陸との貿易協定では一部お野菜に限定して取引してたりするからね、これも日本の農家さんを守るためだし関税関係はイネちゃんの住んでるこの街以外に出荷しようとすると発動するようになってるので、この街ではお野菜は本当に安く済ませられると評判になって人口が増加していたりするらしい。
「ただねぇ、最近じゃ他の国から難民が大陸を目指して来てて、ちょっと治安が悪くなったりしてるのよねぇ。問題を起こした人は大陸側受け入れないって言っているのに、なんで暴れちゃうのかしらねぇ」
「国が違うだけでも不安ですし、それこそ文字通り世界が違うのだから不安に押しつぶされそうになったんじゃないでしょうか……」
なんかリリアが微妙に丁寧な言葉遣いで会話に入ってきた。
「気持ちはわかるけれど、大陸の人たちはこの街に住んでいるとわかるけどいい人ばかりですから、もうちょっと相手を理解しようとすれば、いいのにねぇ」
それができたらそもそも争いが起きないと思われることを橋本のおばあちゃんの口からもれるくらい、今のこの街も世界の情勢の影響を受けているということを実感させられる……まぁ地球で起きているゴブリン災害に関してはイネちゃんが関われない部分なのでどうしようもないのだけれど、その元凶を潰すことはできなくはないのでここはコーイチお父さんの持ってる漫画とかで気持ちを新たにするところではあるのかもしれない。
いやどうせイネちゃんとしてはムータリアスのゴブリン施設を潰す方向なのは変わらないので気持ちを新たにするとかそういうのはないのだけれど、イネちゃんがムータリアスの施設を潰すことで地球側に影響はあるだろうからね、一層頑張らないとってところだろうか。
ただ……イネちゃんが施設を潰しても地球側に影響がなにもなかった場合が、一番怖い展開だよね、既に地球上でゴブリンの生産施設が存在するってことの証明になっちゃうから。
「ちょっと暗くなる話題だったわねぇ、ごめんなさい。リリアちゃんも、イネちゃんのこと宜しくお願いねぇ」
「え、えぇ!?いつもは私がイネに頼ってる感じですよ!」
「あらあらあら、イネちゃんの場合誰かのためにって頑張っちゃうときは大切なものを守りたいってことなのよぉ」
「イネは優しいですし、誰でも守るんじゃないんです?」
「それが違うのよぉ、昔4人もお父さんがいるってことで邪推した人がいてねぇ」
「橋本のおばあちゃん!そういうのは別にいいから!ほら、お買い物!」
今のはお父さん達が通報されて警察の人が云々とかいう生々しい奴だから会話を中断して足早にスーパーに向か……えたらよかったのだけれど、今イネちゃんの服装はフリフリロングスカートのお人形のような格好だったのを忘れてたんだよね、思いっきり裾を踏んでコケてしまう。
痛くはないのだけれど……もう恥ずかしさで顔から火が出そうと表現した最初の人は天才だなとイネちゃんは思いながら慌てた橋本のおばあちゃんとリリアに慌てた感じに助け出されたのだった。
今後、もう絶対にイネちゃんはロングスカートは履かない。
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