第198話 イネちゃんと村内不和
というわけでイネちゃん今、捕虜さんの前に立っているの。
まぁイネちゃんは今この人らの近くに張り付けになっていないといけないわけで、目の前を慌ただしく動いている人たちの動きを眺めていることしかできない。
一応勇者の力がそれなりに馴染んだのか、イネちゃんが慣れたのか、今大地の感覚を同化して捕虜の人たちが動いたらすぐにわかるようにしているし、常時発動させておきながらも消耗を殆どしないで力を使えているから割と問題ない……んだけれど、これはこれでちょっと暇でつらい。
「勇者、連絡、巡回……両方、終わった」
「ん、ありがとう。じゃあ次は寝床の用意かな。シックからこの人らを連行してくれる人たちは数日かかるだろうから、その間に村人の人たちやイネちゃんたち、それにこの人らの寝泊りできる場所を確保しないといけないからね。この人らに関してはとりあえず拘束を解いて拘留できる場所があれば嬉しいんだけれども……」
うん、自分で言っててイネちゃんはかなりのむちゃぶりしている気がする。
これだけ被害の出た村でそれが確保できる場所はちょっと難しいってことはイネちゃんはお父さんたちの体験談とかで理解はしてたりするんだけれど……実際に自分がそういう現場にいて、更に指揮を出さないといけなくなるなんて想定していなかったからなぁ……ボブお父さんはこういう現場で陣地形成するときは多くを望まないほうがいいが、最低限だけは確保しなきゃいかんとか言ってたけれど、正直この状況はその最低限である雨風しのげる場所の確保が大変よろしくないのがなんともつらい。
「ん……カカの家、無事、地下室……ダメ?」
む、これは割と望外の流れかも。
地下室は出入り口が少なければ拘留するにはもってこいだし、ちゃんと食事と水、最低限の衛生管理で一時的な交流所としては間違いなく機能してくれるから嬉しい。
ただまぁそうなるとイネちゃんたちはカカさんの家の地上部で寝泊りが確定するわけだけどね、確実に監視、管理ができる場所で寝ないといけないから。
問題になりそうなのは広さくらいかな、流石に十数人の男の人を押し込めるわけだから相応の広さがないと捕虜虐待だのなんだのと叩かれてしまう。
「そこ、広さって大丈夫かな。この人数を押し込めることになるわけだからさ、広くないと色々問題が出てきちゃうから」
「食料保管、それと、作業場……皮なめし」
「皮なめしって風通りが良くないと無理じゃなかったっけ、乾燥させないといけないって聞いたことがあるんだけれど」
「乾燥は、納屋。地下、倉庫と、作業場、だけ」
なる程、皮なめしの作業場があって、更に食料倉庫も備え付けとなると、皮なめしに使う道具の保管とかでそれなりの広さがあるのか、特に生皮とかだと場所をとりそうだしそういうのを保管する必要があるだろうしね。
「なら捕虜の人らとイネちゃんたちは……カカさんには悪いけれどそこを使わせてもらおうか。それなら村人の人たちは今病院みたいになっちゃってるけれどあの集会場を避難所ということで当座をしのいでもらうことにしよっか」
「……そこ、防衛?」
「ティラーさんとキュミラさんにやってもらう予定だけど?」
イネちゃんがそう言うとロロさんが首を横に振って。
「皆、不安。勇者、一番安全、できると……思う」
「……それはわからないでもないけど、捕虜の監視は夜通しになるし、村人の人の中にはこの人たちに対して復讐心を抱いている人が少なくない。となると村人さんを相手にした対人戦が想定できちゃうわけで……」
戦闘ができる人は3人……キュミラさんを含めれば4人だけれど、全力で逃げる可能性があるから最初から数に含めないことで考えて、この3人で村人さんを殺傷せずに無力化できる技量を持っているのはロロさんとイネちゃんの2人になるわけで……ちなみにイネちゃんはお父さんたちにある程度武道とか格闘技も仕込まれてるので達人とか有段者相手は難しいけれど、普通の一般人相手になら合気道なり柔道の技で対処できたりする。
まぁちょっと話題がずれたけれど、となれば捕虜の監視と管理はロロさんとイネちゃんが最適と言えるのだ。
……いやササヤさんやムーンラビットさん、お父さんたちならそんなことはないとか他に案を出せるんだろうけれど、イネちゃんが思いついたのはこの程度でしかない。
「大丈夫、その代わり……村人、勇者と、リリアで……」
あぁなる程、確かにそのシフトならティラーさんとキュミラさんをセットと考えておけばできなくもないのか、ただどうしてもキュミラさんが不確定要素になっちゃう分安定性が……いやイネちゃんの案でも似たようなものか。
「わかったけれど……ロロさん、大丈夫?キュミラさんが夜目が利くようなら夜はティラーさんたちに任せてもいいんだからね?」
「ん、勇者も……無茶、しないで。勇者、1人」
あぁこの編成だとイネちゃん1人で村人さんを守る必要があるからか。
ただリリアもやろうと思えば……というか人が相手ならムーンラビットさんから受け継いでる夢魔の力である程度の対処ができるから、むしろイネちゃんはお昼に寝て夜にって手段も取れなくはない……力の具合で考えたら逆のほうがいいかもだけれど、イネちゃんはリリアに夜1人でって心配で眠れなくなりそうだからね、うん。
「わかったよ、じゃあひとまずこの人たちその地下室まで連行してからその配置で……いいよね?」
イネちゃんが確認するとロロさんは首を縦に振って近くに座っていた捕虜の人を小突いて立たせ始めた。
「それじゃあ移動するから、立って……言葉は通じないけれどジェスチャーは大丈夫でしょ?」
銃口で立つように促してからロロさんについていくように示すと、この場にいる人たちは特に抵抗することも無く従ってくれた。
「UORADINOKOD……」
「EKOETTAGATIHSAHAMI、AKURIHS」
うーん、割と絶望ってるなぁ話している内容はよくわからないけれどニュアンスは概ねわかっちゃうから少し同情心を抱いてしまうね。
「イネさーん!そのへんに寝転がってた敵さん連れてきたッス……って移動ッスか?」
「キュミラさん、丁度よかった。この人たちの監視とかを頼むことになるから、ティラーさんにも伝えてきて。キュミラさんとティラーさん、それにロロさんが捕虜の監視だからね」
「うへぇ、また面倒そうなことをッス……」
「まぁ面倒なのは確かだからね、今回はキュミラさんの言うとおりだよ。でも必要なことだしやらないとね」
「うーわかったッス……まぁ監視するだけなら私にもできそうッスし……」
と業務連絡をしていると捕虜の人たちが騒ぎ始めた。
「IKASETONUOAM!」
「ADNANIRAPPAY……」
……そういえばカカラさんも最初キュミラさん見たときの反応がこんな感じに恐慌状態になってたっけ、キュミラさんはチキンハートを持つ猛禽類で日和る人だからこの人らの心配は杞憂でしかないのだけれど、言葉が通じないからどうしようもない……まぁ今はキュミラさんの姿だけで威圧できると考えてその分楽になると考えておこう、誤解はシックの人たちに解いてもらえばいいしね。
「イネ!大変!ちょっと来て!」
と楽ができるかなーと考えたとほぼ同時にリリアが慌てた様子で走ってきた。
まぁうん、楽なんてできないよね。
「ロロさん、連行のほうお願い。キュミラさんが背中をちょっと小突くだけでこの人たち、多分だけど素直に従ってくれるだろうから、イネちゃんはリリアのほうに行ってくるよ」
「わかった」
ロロさんの返事を聞いてからイネちゃんは走ってくるリリアと合流して話を聞く。
「どうしたのリリア」
「村の人たちが喧嘩を始めちゃって……今はティラーさんが抑えてくれてるけれど1人じゃどうしようもなくって」
うーん……この村、結構村人さんの仲が悪いのかなぁ。
軽い感じにそんなことを考えながらリリアと一緒に村の集会場へと向かうと、想像以上に修羅場っていた。
「だぁ!あんたら争っている場合じゃねぇだろうが!」
「俺は家族全員殺されたんだぞ!あいつらに復讐させろ!」
「もうあんた、そいつを好きにさせてやってくれ。貴族様もヌーリエ教会も復讐は禁じてるのにやるって言ってんだ、覚悟できてんだろうから……あんたまで怪我しちまうぞ」
集会場に入ると場の空気が大きく二分されている感じで、感情に任せて復讐したいっていう人たちと、消極的ではあるけれど止めようとしている人たち……その間にティラーさんで、子供たちは遠巻きにそんな大人たちを泣きながら見ていた。
「治療が終わってあり合わせの食べ物を振舞ったらこんな感じで……私が悪かったのかな……」
「いやその流れならリリアは悪くないよ。安全が確保されてお腹が膨れたら考える余裕ができてってことじゃないかな」
余裕がないときは命の確保で精一杯であまり考える余裕はないからね、イネちゃんの場合はもう考えることもやめてたけどさ、体力的にまだ余力があるときに助けられたわけだしね、あの人たちは。
「大体誰があいつらを殺すなって言ったんだ!」
あ、うん、イネちゃんが原因だこれ。
「勇者だよ、勇者の言い分には筋は通っていたからな、俺は納得はできなかったが感情を飲み込むだけの説得力はあったぞ」
あ、さっきの人……。
「懐柔されてんじゃねぇぞ!こうなったら俺が……」
はぁ……これはちょっと仕方ないな、流石にこれを放置したら恐慌状態が加速して取り返しがつかないことになるし、多少イネちゃんが恨まれる程度で済むなら安いものだね、うん。
「俺が、どうするつもりなのかな、イネちゃんに聞かせてもらっていい?」
そう言って集会場から外にでようとした男の人の進路を望外する形でイネちゃんは躍り出た……のだけれど、さて、どうやって説得すべきかな。
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