第92話 イネちゃんと携帯許可
で、思考停止した後直ぐに晩ご飯になったからそこでお話が終わってしまった。
イネちゃんとティラーさんがなんか重要なことやるみたいなこと言ってたんですが、こっちの世界でドンパチとかあまり考えたくないんですけどー。
いやまぁあっちの世界なら問題無いってことは無いけれど、人口密度的に銃撃どころかナイフも厳しいし、関節を極めるにも絶対相手が1人じゃないから、プロ相手だと確実に仕留める必要が出てくるんだよね。
まぁそれ以上に得るものはまったく無い、ムーンラビットさんから護衛報酬がもらえるかもしれないけれど、言ってみればそれだけ。
それだけで民間人を巻き込む可能性が極めて高い作戦になるだろうっていうのは流石に、ねぇ。
くそぉムーンラビットさんめ、とんでもないことを言ってくれちゃったからご飯の味がわからなかった。
とイネちゃんが自分のお部屋でベッドの上でバタバタしていたところ、家の呼び鈴が鳴った。
「あ、私が行ってくるんよ。コーイチ坊主は今風呂の最中やったはずやし」
とイネちゃんのベッドの横に座って、部屋にあった漫画を読んでいたムーンラビットさんが立ち上がった。
いつから居たんですかね、なんとなく最初からって返ってきそうだから口には出さないけれど。
まぁお父さんが対応できないし、イネちゃんもなんか立ち上がる気力が無いから別にいいか、ムーンラビットさんは少しアレだけれどなんだかんだ常識はあるし、その常識も守ってくれるから……。
「ただまー、とりあえずお役所の人だったわ。夕方言った調査の件をこの人が直接しに来てくれたんよ」
ベッドで枕に顔を埋めているイネちゃんに、部屋に戻ってきただろうムーンラビットさんがそんなことを言う。
……ちょっと待って、今この人とか言ったよね、それって今、イネちゃんの部屋に、そのお役所の担当者さんがいるって意味で間違ってないよね。
今イネちゃんちょっと薄着な部屋着な上に、お部屋に下着とかまだタンスにしまっていなかった記憶なのですが。
「えっと、やはり個室まで上がらせて頂くわけには……」
「何、同性の子に興味あるん」
「いえ、そういうわけではありませんが……普通はこういった場を初対面の人間に見られるのは、18歳の女の子なら当然嫌がるものかと」
そんな会話が聞こえてくるおまけに、遠慮がちな女性の声は知らない人の声なので確実にムーンラビットさんがやらかしたね、これ。
ともあれ既にここまで御足労させてしまった以上イネちゃんは諦めて枕から顔を上げる。
「あ、貴女がイネさん……ですか」
あれ、なんでイネちゃんの本人確認をするんだろう。
「そう、だけど……貴方は誰なんです?」
「私は異世界対策庁ヌーリエ教会交渉課の田中玉恵と言うものです、以後お見知りおきを……それとイネさん、貴方は地球全体で関係各位では知らない人はいない有名人ですので、多少自覚を持たれたほうがよろしいかと。それとこれは名刺です」
「あぁこれは丁寧に……いやいやいや、あれだけ入るのを躊躇っていたのに名刺を渡そうと躊躇なく入りましたね」
「あ、ごめんなさい……なんというかもう見ちゃったのでいっそ用件だけさっさと済ませてしまおうかと思い、失礼します」
失礼してます。が正しいよね。
「まぁもう入ってきちゃってるしいいけど……イネちゃんのほうは名刺とか無いんだけれど」
「あ、そこはわかっているので大丈夫です。それで用件ですが、イネさんともうひとりの護衛の方に武器貸与……携行許可が下りました。ともあれムーンラビット様と一緒にいる時限定の許可ですが」
あ、許可が下りたんだ。
日本国内で銃の携帯が認められるって結構重大事案だよね、ムツキお父さんが言うには自衛官でも法律違反になるとか言ってたし。
「それと携行できる武装は近接武器であっても、できればそれを完全に隠せるサイズに限定されますし、銃に関しても火力の高いものは許可できません。特にイネさんのあちらでメインウェポンとされている主兵装は禁止となります」
「え、P90もスパスもダメなんです?」
「P90に関してはマガジン制限することで一応は……それでも軍の主兵装とする国もある銃ですからね、できれば控えていただきたいところではあります」
「まぁ、爆破した連中がおびき出される程度には目立たないとあかんのやけれどな」
「だからと言って民間人に不安を与えるのはダメですよ」
「危険が遠すぎるのも麻痺するんよ、と言っとくけどこっちの世界はそれが普通やもんな。そもそも本来ならイネ嬢ちゃんたちは置いていく予定だったわけやし」
えーそれってどういうこと……?
「あの、イネさんが凄い表情をしていらっしゃるのですが」
「あぁ、イネ嬢ちゃんは護衛ってことでもう少し外を歩くとか考えてたんやと思うんよ、それが自宅待機でのんびり生活だから拍子抜けってところじゃないかね」
「いや、わかってるなら説明お願いできないかな、うん」
「だって私は別に問題ないしねぇ、話し合いに関してもこの国相手なら別段問題になることはあまりないし。ま、私をいかに利用してやろうって思考はいい加減やめとけとは思うけどなー」
「いえ、だから他国の……」
「それはお宅が対処するよな、その分金属資源よこせーすると思うんやけど、既に知ってるだろうけどこっちはあまり鉄は必要じゃないしねぇ、農具は基本的に神獣の骨やし、剣とか槍とかの武器だって魔法の比率のほうが重いんで量産自体はされるけど10万の軍だとしたら3万用意できればいいってくらいだからねぇ」
なんというかムーンラビットさん、強者の余裕すぎやしませんかね。
相手の思考を文字通り読めるから、こっちの世界と話し合いとかすると圧倒的に優位に立てるだろうしなぁ、会談もこんな感じなんだろうか。
「はぁ、異世界とのゲートが発見されて会談が始まった直ぐの頃、ムーンラビット様のその能力がどう思われたのか知っているでしょうに」
「そりゃぁね、人口差や文明力の差を考えたら少数精鋭で抑止を示さないとあかんわけでな、こっちとしては別に引っ越してきた隣人としての認識しかないわけで……」
隣人が警戒していたらとりあえず友好を示す辺りはヌーリエ教会らしいとは思うけれど、実際のところ1度侵攻されてたよね、日本じゃないけど。
貴族領が1つ制圧されちゃったらしいけれど、ココロさんとヒヒノさんが無双して取り返した……らしい。イネちゃんだって聞いたことしかないし、あの2人の強さってあまりがっつりと見てはいないんだよねぇ、イネちゃんヴェルニア奪還作戦の時はジャクリーンさんと一緒に地下からだったし。
「ともあれ私らに侵略やらの意図がないことを示すのに10年費やしたからな、まだ足りないだろうが自衛でしか力は振るわないってお偉いさんには認知はされてるやろ。問題は情報が足りなさ過ぎて自分の思考が全世界に通用すると思ってる連中やからな、少々派手に立ち回って示す必要はあると思ってるんよ」
「それはそれで恐怖が先に立つと思いますよ、私たちには魔法がありませんし、特に精神魔法というものに対しては無力ですので」
あー精神魔法に抵抗がなかったら本当何もできなくなるからなぁ、それの力が一番強いムーンラビットさんに恐怖は抱くよね、いつ気まぐれにでも使われたらそこで終わりだし。
「だからこの10年、ずっと私がこっちに来て会談に談笑に会食まで全部こなして、問題なしとしてある程度容認されるまで頑張ったんやけどな、ちなみに今後もやる気は一切ないんよ、むしろ平和にのんびり昼寝でもしてぐうたら暮らしたいしなぁ」
「いや、立場的に不可能なんじゃ……」
「そうなんよねぇ、私は隠居したい。でもまぁ組織になっちゃった以上あの子の思いを繋ぐために多少は頑張るだけなんよー」
んームーンラビットさんはちょくちょく女神様のことをあの子って言うよね、だからこそ実在証明にもなるんだろうけれど、どういう関係だったんだろうかちょっと気になる。まぁ誰もムーンラビットさんの言葉が真実かなんて証明できないんだけれども。
「イネ嬢ちゃん、私の言葉の証明は歴代の勇者がしっかりしてくれてるんよ。あの子が勇者にわざわざ困ったら私を頼れって言ってるらしくってねぇ」
あぁ勇者様……あのシステムも結構異質だよね、その時、あっちの世界で必要な抑止力とかを覚醒させる世界のシステムが勇者、だったっけか。
でもだからこそ、その内容なら今代の勇者は戦闘特化になるのかな、あっちもこっちも色々激動して大変な状態だし。
「そういえば私は勇者様にはお会いしたことがないのですよね、機会に恵まれないので」
もうすっかりイネちゃんの部屋に座って用件とは関係のない雑談に混ざっている田中さんがそう言うとムーンラビットさんが。
「んーどうやろうね、私は案外近いうちに会えるとは思うんよ。それよりイネ嬢ちゃんや、せっかく武器の携帯許可が下りたわけやし明日はどこか遊びにいこっか。理由はまぁ文化視察って辺りでええしな」
はい?
「また唐突ですね、ですが街中ということもあって民間人に危険がおよびそうなのが不安材料で、こちらも爆破事件の追跡調査があるので難しいですよ」
「だからこその携帯許可なんじゃないんかね、自前の護衛がいるならそっちに動いてもらおうって上のお達しなんじゃないかね」
なる程都合のいい解釈。
でもイネちゃんちょっと自信がないかなぁ、爆破事件の犯人はあっちの世界の魔法使いである算段が高い以上、イネちゃんの優位性ってあまりないし。
ティラーさんも斧以外で戦えるのかなぁ、体格は間違いなく優れているから多少の出来事には対応できる……というかイネちゃんよりも役に立ちそうだけど。
「ま、そういうことなんで明日はショッピングでもしようかねぇ」
イネちゃんの思いとは別に、明日の予定が次々と決まっていくのであった。
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