第45話 イネちゃんと内なる自分

「まだ息があるんだねぇ、私は同じ空気吸いたくないから早くその呼吸止めて?」

 まだ息のあったゴブリンを足蹴にして、スパスの銃口を頭に押し付けながら引き金を引いて止めを刺す。

 他のゴブリンも、戦っていた冒険者さんの人たちがしっかりと止めを刺しているのを見て、少し残念と思いつつもまだ植え込みに隠れているリリアさんを呼ぶ。

 近づいてくるリリアさんはうぇって感じの表情……というか実際に吐きそうになりながらも私のところに来た。

「大丈夫……なのは見てたしわかるけど、ちょっと広場が嫌な状態になったねぇ」

「まぁ、掃除が大変そうだよね。火にかけるにも大変だし……ところで他にゴブリンの気配とか無いかな」

「いや、広場周辺には無いかな。地下にもそれっぽいのは無い……というか人が今真下にいるっぽい。丁度下水が通っているから、そこの調査隊だろうけど」

 そういえば地下にもいないか捜索してたんだったね。

「その探知能力って、町全体は無理かな」

 私がそう聞くとリリアさんはバツの悪そうな顔をして。

「ごめん、魔力的にはできる……らしいけど、同時に催淫っぽいのもばら撒いちゃうらしいから母さんから禁止されてるんだ」

「そういえばサキュバスの魔力が元だったんだっけ」

 リリアさんは首を縦に振る。

 探知と同時に催淫して云々っていうのが、リリアさんのおばあちゃんの時代にはあったのかもね。だからそんな感じの魔法に仕上がってるんだろう。

 でもそうだとしたらササヤさんやケイティお姉さんの言ったとおりに、私たちはこの広場で待機するのが最善かなぁ。

 まぁリリアさんの魔法の性質を理解している2人の意見なのだから、こうなるのは当然か、私としてはもっとゴブリンの滅却に協力したいんだけど仕方ないね。

「ねぇ、イネさんって多重人格だったり……する?」

 待機を決めて、スパスにバックショットを装填している時、リリアさんがそんなことを聞いてきた。

「多重人格……とは私は考えないかな」

「居ないとは言わないってことは、自覚があるんだね」

 イネちゃんとイーア、私は同一人物であると中で定義してるんだけど、傍から見ればリリアさんの捉え方は最もである。

「そっか、でも私としてはもっとどっちの意見も外に出していいんじゃないかと思うよ。イネさんのそれって、悪い感じはしないから……まぁゴブリン相手の時はちょっと怖いくらいだったけどさ」

「そうかな、そんなに怖かった?」

 私としてはこれでも足りないかなってくらいだったんだけど。

「それがゴブリンにだけ向くのなら、この世界の人間なら文句は無いと思うけどね。ヌーリエ教会が害獣認定するほどの存在は私としても遠慮願いたいし」

 博愛や共感、許容を謳うヌーリエ教会が害獣認定するっていうのは、それだけの理由がありそうだね。私はそのへん関係なく駆逐するけど。

「とりあえず、広場の確保は完了……でいいのかな。町の中心部でギルドと教会の中間地点だから、ここを本拠地にするんだろうか」

 リリアさんはそう言うけど……。

「単純に補給線の確保じゃないかな、こういう場合一番まずいのって連絡が取り合えないことだし、医薬品や武器弾薬が届かないのって士気に直結しちゃうし」

 無線ないし、伝達魔法があればいいんだけど、ギルドと教会にくらいしか無いっぽいから、伝令役の移動経路を確保しなきゃいけないしね。

「そういうもの?」

「そういうものだよ、奇襲、乱戦って感じになってる時は指揮系統の確保が大事だしね、できないと各個撃破される可能性が高いから」

「でもそれって組織的な相手の話しなんじゃ……」

「案外そうでもないよ、害獣の駆除とか、そういうのでも重要でしょ?」

「あぁそういう……って教会の方から何か来る!」

「人やヌーカベってことは?」

「多分違う!」

 リリアさんの叫びで、事後処理をしていた冒険者さんの人も各々の武器を構えて教会のほうを向いた。私はスパスをマントに収めながら、P90を抜いて構える。

 M24とかはヨシュアさんに預けたっきりできちゃったから、遠距離武器が無いのがこういう時辛いなぁ、陣地確保するならやっぱ遠距離対応武器が欲しくなるね。

「来るぞ!」

 冒険者さんの誰かが叫ぶと、畑の中からゴブリンが跨っている狼さんが飛び出てきた。口輪がついている辺りこのゴブリンは結構知恵をつけているみたいだね。

「がっ!」

 来るぞと叫んだ冒険者さんが、ノルマと言わんばかりに速攻で狼さんにのしかかられて倒れて、ゴブリンの追撃を受けた。ゴブリンが持っているのは棍棒っぽいので死んではいないとは思う、しばらくは動けないだろうけど。

 ともかく私はP90を構えて、フレンドリーファイアしないようにしつつ発砲をする。するんだけれども、私の攻撃のタイミングでゴブリンが手綱を緩めて狼さんに好きに動かせてるらしく、フレンドリーファイアしないように狭い範囲に、指切りをしながらの射撃は回避されてしまう。

 こいつら、位置取りを学んでる感じがする。もしかしたら別の場所であっちの世界から来た人の中に、ゴブリンの滅却を失敗した人が居るのかもしれない。

「リリアさん、狼さんのほうに精神魔法とかできないかな」

 こういう時は足を奪うのが一番なので、確実にできそうなリリアさんに聞いては見るけど。

「や、やってみる!」

 リリアさんが意気込むと同時に、数匹の狼さんが暴れだしてゴブリンを振り落とし……うわ、のしかかって腰をカクカクさせてる。ま、まぁサキュバスの魔力が元だってことだし仕方ないのかな。

 と少し驚きはしたけど、あの様子なら狼さんがのしかかったゴブリンは後回しにできるので、少し混乱気味になったゴブリンを蜂の巣にすべく私はP90をフルオート射撃できる位置に移動しつつ、発砲をする。

「あ、あんた異世界の人か!じゃあ雷撃の杖でなんとかしてくれよ!」

 移動したところに丁度ほかの冒険者さんがいたのか、そんな呼びかけをしてくる。雷撃の杖って銃の認識が魔法なんだね……。

 ともあれ返事をする間も惜しんで、今まで発砲して残弾が減ったマガジンを交換してから立ち尽くしているゴブリンに対してフルオートで発射をする。……したのだけれども。

「ぐぇ……」

「イネさん!」

 ゴブリンが3匹ほどタコダンスを踊ったと思ったら、真横で呻き声が聞こえ、リリアさんの叫び声も聞こえてきた。

 P90の引き金から指を外しつつ、目線で洋平さんが居たところを確認すると下品で臭い息を吐いているのがわかるほどの距離でゴブリンが冒険者さんを足蹴にして、私に向かって棍棒をふり下ろそうとしていた。

(あ、これは……)

 ダメかな。と思ったと同時に左手で胸の位置にホールドしていたナイフを無意識に抜いて、ゴブリンの棍棒を持つ手首を狙ってナイフを突き立てた。

『大丈夫、イーアとイネならやれる。お父さんたちから教わったことを思い出して』

 そう頭の中に声が響くとは右手のP90をゴブリンの頭に押し付けて、発砲した。

「……いやまぁそれっぽいことは言ってたけど、いざ私の声でこう、頭の中で声が響くとアレだね」

 ナイフを抜き、ゴブリンの頭に追撃で数発撃ち込みながら独り言として呟く。

『まだあいつらを駆逐滅却していないのにって思ったら、叫べるようになってた』

「リリアさんにはもっと出してもいいみたいに言われたけど、これはお父さんやヨシュアさんたちにもっと心配されそうな気がする……けど!」

 独り言をしている私に対して隙だと思ったのか、狼さんで飛びかかってきたゴブリンに対して、狼さんの口にナイフを逆手に持った左手を突っ込みながら、狼さんのお腹からゴブリンに向けてP90を発射する。

 カチっと撃ちきった音がしてから、狼さんとゴブリンが崩れおちるのを見つつ、P90をリロードしながら改めて今の状況を整理する。

「これはあれかな、二重人格とは違うのはわかるんだけどなんだろう」

『イーアはイネ、イネはイーア……コーイチお父さんの持ってるアニメにそれっぽいのが一杯あったよね』

 正直、イネちゃんとイーアがこうして会話していることには自分でも違和感がある。でもできていて、お互いが今のイーアの声のような感覚で、イネちゃんも同じことを思っていた辺り変なことにはならないとは思う。むしろ頭がスッキリしている感じ。

「あれだ、多分一番近いのは……思考と反射のゆうご……」

『イネ、ゴブリン!』

 イーアの声に反応してP90を撃って、飛びかかろうとしていたゴブリンを目で確認することなく蜂の巣にする。私、今なんだかとても主人公している気がする。

 そしてそれを感じつつも、それ以上にP90の跳ね返りを、片手で撃ったにも関わらず、完全に制御出来ていたということに関して驚いている。

「これは、ゾーンとかバレットタイムとか、漫画とかによくあるアレなんだろうか」

 そんな独り言を漏らしつつ、目の前に結構いる獲物に対して舌なめずりをして飛びかかろうとしたとき、それは降ってきた。

「まったく、これ以上ハイになって広場をザクロまみれにしないで頂戴」

 と降ってきたものはそんなことを言って、一回転をするとゴブリンだけが吹き飛んで建物の壁に叩きつけられた。

「か、母さんもそれ、ザクロにしてない?」

「失礼ね、私はそんなミスはしないわよ」

 降りて来て一瞬のうちにゴブリンを終わらしたのはササヤさんだった。

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