1-B オークの待つ場所へ

ワタル一行は受付を済ませ、いざオークを狩ろうとキヤスルの外へと踏み出していた。


「で、オークはどこにいたんだって?」


短剣を片手に草原を散策しながら、ワタルが問う。

ハシンスがクエストの資料を見ながら答えた。


「北の洞窟に居るんだって。とりあえずそっちに向かおう」

「オッケー、北だな」


この世界のオークは基本的に単独で生息しており、その身長は人間と比べて倍以上にもなる。

彼らにとって人間は捕食対象ではないものの、敵とみなして攻撃することから、やはり人間の命を脅かす危険な生物であった。


ワタル一行はそんなオークが居るという北へと進み、洞窟のある岩山へと向かう。


道中、弱いモンスターであるスライムを何匹か見かけたが、


「お、スライム居るじゃん!」

「ワタル、アレを倒しても得るものは少ないし……無視してもいいんじゃないか?」


とハシンスに引き止められてしまった。


たしかに無駄に怪我でもして回復魔法を使うなんて真似はしたくない。

そうでなくとも先程の無駄使いがあるのだから、これ以上余計な労力は避けたかった。


「ちぇ。じゃあ行くか……」


しかし、


「うわぁっ!?」


無視しようというワタル達の意思とは関係なしに、スライムが自ら襲いかかってきた。


スライムが攻撃した相手はいぬっぴ。

飛びつかれたいぬっぴは、すかさず装備していた盾で防御をする。


「うぉっ……あいたっ!」


体当たりを防ぐことはできたが、スライムに押された勢いのまま尻餅をついてしまった。


「いぬっぴ!」


スライムが再びいぬっぴへ飛びかかる。

いくら相手が弱いモンスターとはいえ、隙を突かれてはひとたまりもない。


「わっ……!」

「せいっ!」


ワタルはすかさず駆け寄り、スライムを勢いよく切りつけた。突然の事でハシンスやラフラスは動くことすらままならなかったが、ワタルだけはなんとか危害が及ぶ前に対処することが出来た。


「ミ゛……!」


斬撃で真っ二つに割れたスライムは水のようにはじけ飛び、一瞬で跡形もなく蒸発。

ハシンス、ラフラスは唖然とした顔でその光景を眺めていた。


敵が消えたことを確認すると、いぬっぴがゆっくりと立ち上がる。


「!……あ……」

「いぬっぴ、大丈夫か?」


ワタルが振り向き、いぬっぴに声をかける。しかしワタルのその表情は、『心配する』というよりかは『もっとしっかりしろ』と言わんばかりの目。


いぬっぴはその視線に気が付いたのか、ムッとして言葉を返す。そして、


「だ、大丈夫だよ!……でも……」

「でも?」


「……ありがとう」


と、顔を少し赤くしながらワタルを褒めた。

恥ずかしさからか、目線を下に反らしている。


「……。」


ワタルはその言葉に何も返さなかった。


「ふたりとも!大丈夫でしたか!?」

「回復は……必要なさそうかな?」


我に返ったラフラスとハシンスが慌てて心配を始める。


「ああ、全然大丈夫。なあいぬっぴ?」

「え?う、うん!」


二人を見たワタルは鼻で笑いながら歩き出す。

スライム一匹でモタモタしている場合ではないのだ。


時間がないわけではないが、ワタルはさっさとオークを倒して報酬をもらいたがっていた。


なんといってもこのクエストは報酬金が多い。

クリアさえしてしまえば、そこそこ良い装備が買える程度には謝礼がもらえるのだ。


「大丈夫ならいいんですけど……」

「うーん、なかなかドライ。ワタルらしいね」


ラフラス達の心配をよそに、ワタルは金のために進むのであった。


……


一行はしばらく歩き、いつのまにか洞窟の前までやってきていた。

この洞窟こそが、オークの巣窟なのだ。


「意外とでかい……」


ワタルは4mは軽く超えるであろう大きな入り口に言葉を漏らす。


今、ワタル一行は北の洞窟の前に立っていた。


この中にオークが住んでいる……。

一行の脳裏では期待と緊張が交差していた。


「いよいよ……だね」


「今になって怖くなってきましたよ……一旦帰りませんか?」

「バカ野郎、目前に金になる怪物が居るってのに帰れるかよ」

「例えがゲスい……」


洞窟の前でまごまごとしている一行。

ワタルは今にも入りたそうにしていたが、3人の足がすくんでいる。


「ごちゃごちゃ言ってても仕方がないから行くぞ」

「でもぉ」

「今更何言ってんだ!この先でアイツが待ってんだぞ!」

「例えがゲスい!」

「ワタルってだいぶがめついよね」


ワタルは渋る3人を置いてズカズカと進む。


「あぁっ……もう!わかったよ!行くよ!」

「まあ私は彼のああいう所、すごいと思うけどね」

「褒めてるんですかそれ?」


3人も、ワタルが行くなら仕方ないと言わんばかりにすごすごと付いて行ったのであった。


……


ヒュキア輝け!」


ラフラスの杖が綺麗な光を全面に放つ。


光で照らされた薄暗い洞窟の中、4人の足音と声が響く。


「それって元々なんの魔法だっけ?」

「目くらましに使うものですよ。ただ、レベルが低い魔法なので明かりに使える程度ですけどね」

「あれ、じゃあいつも使ってるのは?」

「いつも目くらましに使ってるのってヒュルケオ光を放てだもんね」

「いつものは上位魔法です」

「そうだったんか。魔法語ってわかりにくいなァ」

「ワタルって魔法語苦手だよねー。こないだも防御魔法覚えるとか言って『ガクロ頑丈に』を勉強してたのに、なぜか覚えたのは『カグロ岩状に』だったもんね! 何その魔法!」

「しょーがねーじゃねーかよ! 名前似てんだからさ! 俺だって参考書に書いてあるのがまさか防御魔法の失敗作だったなんて思わなかったぞ!」


ワタル達は魔法談義に華を咲かせながら歩き続けた。

その様子から、旅の暇つぶしには随分と慣れているようだった。


「その辺にしておこうか、そろそろ何かしら襲ってきてもおかしくなさそうだぞ」


気がつけば、辺りからは魔物が出そうな雰囲気が強ハシンスあく漂っている。


ワタル達がキョロキョロと周囲を見渡すと、


「ワタル!あそこ!」


とハシンスが声を上げた。


振り向くと、トンネルが続いている。

その暗いトンネルの向こうに、確かに何かが居る。

雰囲気がするのだ。


「ん!……来るぞ!」


ワタルが影に向かって短剣を構える。


いぬっぴ達も合わせるように武器を構えた。


すると奥からは、ズシン、ズシンと足音を立てる音が聞こえてきた。


やがて音は大きくなり、ワタル達へと迫ってくる。

遂にはうっすらと影を出し、緑色の体が見えた。


そして、


「っ!ワタル……!」


「ああ、ついに見つけた……!」



3m近い巨体、野性味あふれるゴツゴツとした肌、豚のような鼻……。


オークが、ワタルの目の前に現れたのだ。




「……うん……?」


しかし、何か異様な空気を感じる。


ワタルは不思議な違和感を覚えたが、その正体はすぐに判明した。


「!!……」

「え……!?」


オークの背後から、新たな影が見える。


オークの背後から、


オークが現れた。


影から1匹……そして2匹……


目の前には計3匹のオークが立ち塞がっていた。


「なん……!?」

「数は……聞いてなかったな……」


いぬっぴは絶句し、ワタルは顔をしかめて呟く。

ハシンスとラフラスに至っては、目を見開いたまま動かなかった。

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