第22話 魔術学院での取材(上) 


「こ、これがアーケナン魔術学院?」


 シロー君に紹介状を書いてもらった私たちは、取材のためアリスト城下にある魔術学院に来ている。  

 門の前に立つと、その建物は圧倒的だった。

 紫色のレンガらしきもので建てられた重厚な三階建ては、その両端がはるか彼方にあった。


「こ、ここ、本当に学校ですか?」


 後藤が驚くのも無理はない。


「そうらしいよ。

 アリスト王国は魔術技術が発達してるそうだから、国としてこの学校に力を入れてるんでしょうね」


「さっき前を通った巨大な建物も、魔術関係なんでしょ?」


「そうらしいわね。

 あちらは、ここより少し小さいけど最先端の魔術研究がされてるらしいよ」


「社長、よくご存じですね」


「シロー君からの情報よ。

 あそこ建てたの、彼なんだって」


「……相変わらず、想像の上を行きますね、リーダーは」


 学園の入り口を教えてもらっていないことに気づいたが、幸い朝の通学時間帯で、中学生から高校生くらいに見える、黒いローブを着た少年少女たちが左手へ歩いていく。

 それの流れに乗ってしばらく歩くと、建物と同じ紫色のレンガを積んだ、大きなアーチ形の門が見えてきた。

 門の前には、白髪白ヒゲの小柄な老人と、三十くらいの知的な顔立ちの女性が立っていた。

 老人は黒いローブ、女性は茶色いローブを羽織っている。女性の頭には、黒いつば広の三角帽が載っていた。

 少年少女と挨拶を交わす二人の所へ近づくと、老人がこちらに気づいた。

 細身の体を意外なほど素早く動かし、あっという間に私たちの前に立つ。


「これはこれは。

 ヤナイさんですかな?

 遠路はるばる、ようこそおいでくださった。

 アーケナン魔術学院、学院長のルーミスですじゃ」


 老人がさっそく頭を下げる。

 な、なんて腰が低いの!


「わ、私、リーダーいえ、シローから紹介を受けた『異世界通信社』の柳井です。

 こちらが、部下の後藤と遠藤です。

 今日は取材を許可していただき、誠にありがとうございます」


 三人並び、学院長以上に頭を下げる。

 

「ふぉふぉふぉ、頭をお上げくだされ。

 あなた方は、大恩ある英雄の関係者。

 大歓迎ですじゃ」


 英雄って、やっぱりシロー君のことだよね。


「こんにちは、学院をご案内させていただくマチルダです。

 よろしくお願いいたします」


 あっ、この先生、今、日本語しゃべったね。口の動きからして間違いない。


「よろしくお願いします」


 こちらも、アリストでつかわれている言語で挨拶を返した。

 マチルダさんの顔がほころぶ。喜んでもらえたようだ。


「では、どうぞこちらへ」


 彼女の後をつき学院の中へ入る。

 建物までの周辺には、灌木の植えこみや花壇が並んでおり、少し離れた所に巨木が立っていた。


「ええと、あれは神樹様ですか?」


「はい、陛下から種を一つ分けて頂きました。

 ありがたいことです」


 女性の言葉には、自然なうやうやしさが聞きとれた。

 畑山さんは、ここでも尊敬されているようだ。

  

 校舎に入ると、学院長室らしき場所でお茶をふるまわれ、それからマチルダ先生が教室へ案内してくれた。

 

「ここは、私が教える二回生のクラスとなります」


 彼女が扉を開けると、日本の学校より少し広い教室に、二十ほどの机がゆったり並べられていた。

 様々な髪色の少年少女が興味深々といったふうにこちらを見ていた。

 日本と違い、年齢にはかなりばらつきがあるようだ。口ヒゲを生やした、もう大人といっていい生徒もいる。

 

「昨日お話ししたように、今日は『地球世界』からのお客様がいらっしゃています。

 なんでも、みなさんからお話を聞きたいそうですよ。

 英雄シロー様からのご紹介です。

 くれぐれも粗相のないように」

 

「「「わー!」」」


 なぜか、生徒から歓声が上がる。

 歓迎されてるのかしら?


「では、ヤナイさん」


 いきなり振られ、少し戸惑う。


「え、ええ、あの、私、柳井といいます。

 シローさんの会社『異世界通信社』で社長を任されています。

 今日は魔術のことなど教えてください。

 よろしくお願いします」


「「「うわー!」」」


 なぜか、さらに盛りあがる教室。


「後藤です。

 同じく『異世界通信社』で働いています。

 今は、シローさんのところへ滞在中です」


「「「……」」」


 急に生徒たちが静かになったわ。なぜだろう?


「ええと、遠藤です。

 会社では何でも屋をやっています。

 今日はよろしくお願いします」


 遠藤、堂々としてるなあ。

 

「ええと、ゴトーさんだっけ?

 英雄の家に泊ってるって本当かい?」


 教室の一番後ろに座っている口ヒゲの青年が、ガタリと立ちあがって発言した。


「ええ、泊ってますよ。

 母屋ではなく離れにですけど」


「「「おおー!」」」


「え、英雄シローと話したんですか?」


 これは学生というにはやけにグラマラスな女性からの質問だ。


「もちろん。

 彼は私たちの会社のオーナーですから」


「オーナー?」


「ええ、『異世界通信社』は、『ポンポコ商会』と並んでシローさんが作った会社です」


「えー!」

「ポンポコだ!」

「ポンポコね!」

「すげー!」


 なぜか、生徒に受けている!?


「では、これから『魔術概論Ⅱ』の授業が始まりますから、どうぞ教室の後ろでご覧ください。

 分からないことがあれば、休憩時間に生徒の誰かにご質問を。

 このクラスには、プリンスもいらっしゃいますから、きっとおちからになってくれますわ」


 マチルダ先生に言われ、教室を見まわすと、奥から二番目、最前列に翔太君が座っている。

 その彼がこちらに手を振った。


「キャー、プリンスが手を振ってる!」

「ショータ様、私にも手を振ってー!」

「プリンス素敵ー!」


 どうやら、翔太君の人気は異世界でも変わらないようだ。

 私たちは、ざわつく生徒たちの間を通り、広い教室の後ろに並べられていた机に着いた。 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る