第65話 温泉風呂計画
俺たちが転移したのは、かつて互いに争っていた、男性国家イスタリア、女性国家ウエスタリア、両国の中間地点に建っている『結びの家』の前だ。
この家は、『結び世界』における俺の拠点でもある。
到着したのが、あいにく夜中だったので、『結びの家』は閉まっていた。
カギは簡単に開けられるから、中に入ってもいいのだが、朝までキャンプすることにする。
ミミとポルに渡した試作テントを元に、改良型のポチボンテントを三つ作り、それをリーヴァスさん、ルル、翔太に渡す。
それぞれが、青い玉を地面に投げ、一瞬でテントを設営する。
リーヴァスさんのテントには、ハーディ卿、軍師ショーカ。
ルルのテントには、コルナ、コリーダ、舞子、黒騎士。
翔太のテントは子供専用で、ナル、メル、エミリー。
子供用のテントだけ、扉の開け閉めは俺がする。
ミミとポルは、使いなれた旧型のテントを二人で使う。
俺は「仕事」があるから、一人だけ別のテントだ。
お風呂つきのテントは好評で、特に星空が見える透明キャノピーにみんなが喜んだ。
大人向けのテントには、お酒もあるから、いまごろ酒盛りをしているかもしれない。
◇
『(?ω?) ご主人様ー、このテントだけ変だね』
点ちゃん、どうしてそう思うの?
『(・ω・)つ(♨) だって、このテントだけお風呂しかないよ』
そう、俺のテントは、中央に大きな浴槽が一つデンと据えてある。
部屋の隅にはトイレの区画もあるのだが、八畳ほどの床ほとんどは浴槽が占めている。
しかもその浴槽、俺の体に合わせた形をしていて、人型の窪みに体を合わせると、体を伸ばした姿勢で斜めにお風呂に入れる。
背中と脇からジャグジーの泡が湧くようにできている。
頭が当たる部分には、キューの毛で作ったクッションが置いてある。
うおーっ!
なんだこりゃ!
最高に気持ちいいぞ!
実は、他のテントでは、給湯にお湯の魔道具を使っているのだが、このテントだけ温泉水のアーティストが備えつけてある。
星空を眺めながらジャグジーバスを楽しむのは、もう最高だなー!
「「「クスッ」」」
えっ?
声がした方を見ると、テントの入り口に顔が縦に四つ並んでいる。
怖い。
「シロー、今日はお仕事があるとかで、一人用のテントにしたんですよね?」
一番上の顔からルルの声がする。
「お兄ちゃん、お仕事大変だね~?」
二番目の顔はコルナ、お前か!
「シローのハ・ダ・カ、ウフフ」
三番目の顔はコリーダ、やめてくれ!
「し、史郎君……」
一番下の顔は舞子か! 聖女までが、なぜ覗きを!?
その後、どうなったかって?
浴槽の形を変えて、女性四人が入れるようにしましたよ。
俺? 水着で入浴する彼女たちに背を向けて、部屋の隅っこに置いたちゃぶ台で反省文を書かされてましたが、なにか?
だけど、なんで俺が特別製のお風呂に入るって、彼女たちに分かったのかな?
だいたい、このテント、俺と点ちゃんしか扉を開けない……ああっ!
点ちゃんか!
『( ̄▽ ̄) ブランちゃんも活躍したよねー!』
「ミュー!」(活躍ー!)
あーっ、頭の中にあった温泉風呂計画、ブランが読んだな!
こうして『結び世界』最初の夜は、俺にとってなんだか悲しいものになってしまった。
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