第56話 天竜と特製蜂蜜水



 ドラゴニアギルドのオープンを見届けた後、ドラゴニアの上空にある浮遊大陸『天竜国』にやって来た。

 ナル、メルとも誘ったのだが、二人とも『希望の家』のプールで遊びたいと言ったので置いてきた。

 そのかわり、イオが同行を希望した。

 彼女は、例の蜂蜜が天竜に渡されるのを見届けたかったそうだ。


 天竜の住居である、崖に開いた穴へ入っていくと、数体いた天竜のうち三体が人化し、俺の前で膝を着いた。

 三人とも若い男性の姿だ。


「シロー様、お久しぶりです」


「ああ、久しぶりだね。

 とにかく、みんな立ってくれるかな?

 おさは、いるかい?」


「ええ、すぐに呼んでまいります」


「そう?

 いつもの部屋で待たせてもらうよ」


 そう告げておき、イオと二人、洞窟奥の広間へと向かう。

 広間に入ると、人化した天竜の女性が、慌て部屋を整えているところだった。

 

 中央に用意された敷物の上に座り待っていると、間もなく白髪白髭の老人に化けた天竜の長が現われた。

 俺たちの前、少し離れた所に平伏する。

       

「シロー殿、イオ殿、お久しぶりです。

 この度は我が国へお越しいただき、嬉しゅうございます。

 ぜひ、ごゆるりとなされよ」


「ははは、長、堅苦しいのは無しにして、普段通りでいきましょう」


「そうか?

 竜王様のご友人にそうすべきではないのだが、お言葉に甘えよう」


「それより、『枯れクズ』の回収は上手くいってますか?」


「うむ、我々も、手伝いの竜人たちも、仕事に慣れてきておるから、はかどっておるよ。

 今では、竜人を二十人に減らしておる」


 天竜国には、『光る木』の大森林があるのだが、木が枯れる時できる『枯れクズ』が障害になっていた。

 森を守るため、それを集める仕事を立ちあげた。

 最初は竜人百人で手伝っていたから、『枯れクズ』回収はうまくいっているようだ。


「後で現場も見にいきますよ。

 それより、今回は面白いものを持ってきました」


「面白いものとはなんじゃろう?」


「イオ」


 声を掛けると、イオが下げていたマジックバッグから、親指サイズの瓶を四本出した。


「それは?

 蜂蜜のように見えるが、色が濃いようじゃの」


「ええ、これは特別な蜂蜜ですよ。

 色が黒いので、『黒蜂蜜』と名づけました」


 実のところ名づけたのは、イオなんだけどね。

 

『(*'▽') 名づけたのがご主人様でなくてよかったね、ブランちゃん』

「みゅー!」(ホント!)


 くっ、どうして『ドデカ蜂蜜』がダメだったんだろう?


「お兄ちゃん、聞いてる?」


 点ちゃんとブランに念話してたら、長の言葉を聞きのがしたらしい。


「長が『黒蜂蜜』で蜂蜜水を作ってほしいんだって」


 イオが目を輝かせている。きっと、自分でも飲んでみたいんだな。


 こうして、巨大な蜂からもらった『黒蜂蜜』で作った蜂蜜水を、天竜にふるまうことになった。


 ◇


 点魔法で大きな樽を作り、それをボードに載せ、洞窟内にある泉の水を溜める。

 火魔術を付与した『・』をその中に入れ、水を温める。

 ここで『黒蜂蜜』を投入、しっかり混ぜてお湯に溶かす。  

 蜂蜜の分量は、一瓶だけに留めておいた。

 こうしてできたものを水魔術で冷やすと蜂蜜水の完成だ。


 香りづけの果物を浮かべたりすることもあるが、今回は『黒蜂蜜』だけの味を確認するためもあって、他のものは混ぜなかった。

 でき上った蜂蜜水をヒシャクですくい、透明なグラスに移す。

 蜂蜜水は、淡い黄金色をしていた。


「長、どうぞ」


 待ちかねていた長が、グラスに手を伸ばす。

 彼は蜂蜜水を口に含んだとたん、目を大きく開いた。


「けほっ、けほっ。

 なっ、この味は!」


 イオにも蜂蜜水を満たしたグラスを渡す。


「うわっ!

 なにこれっ!」


 試しに俺も飲んでみる。


「あれ、普通の蜂蜜水だけど。

 ちょっと味が薄いかな」


「お兄ちゃん、なに言ってるの?

 むしろ濃いくらいだよ、味は!」


「その通りですじゃ!

 しかし、この味、まさに甘露ですなあ!」


 長の声で、人化した竜人たちが集まってくる。

 全員に特製蜂蜜水をふるまう。


「うわっ!」

「これはっ!」

「なんだ、これ!?」


 いや、誰も味の感想を言わないから、どんな味か分からないんだけど。

 しかし、飲みほしたグラスを手にした竜人たちが、蜂蜜水の樽を見るその目は……怖い。

 なんだ、これ?

 

「もう一杯飲みますか?」


 そう言ったとたん、グラスを持った全員の手が、ばっと俺に突きだされる。

 イオ、グラスで俺の顔をゴリゴリ押すのやめなさい。

 

 こうして、大樽はあっというまに空になった。

 

「ひいっく、うんめえなあ、こにょ蜂蜜水はちみちゅしゅい!」

「こんにゃにうめえもん、にょんだことねえ!」

かららがふわふわする~!」


 あー、あれですね、完全に酔っちゃってますね。


「お兄ちゃん、まらまらちょうらい~!」


 イオ、お前もか!

 どうやら、この蜂蜜水、天竜と竜人にとってもの凄く旨いものらしい。そして、飲むと酔うようだ。

 薄目に作っておいて良かったね。濃い蜂蜜水なら大変な事になってたかも。

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