第28話 水着と盗賊団(上)


「ご、ごめんなさい!」

「ご、ごめん、コルナ!」


 エルフ国がある『東の島』へ向け疾走する、クルーザー型点ちゃん3号の船室で正座させられているのは、聖女舞子と俺の二人だ。

 俺たちの前には、足を組みソファーに腰かけたミミとコルナがいる。

 ナルとメルには、この場面を見せられないということで、二人はルルに連れられ海中が見える下の船室に降りている。

 正座する二人を見て、他の家族と仲間も下に降りた。 


「あなた、これは地球世界で大人っぽい女性が着る水着だって言ったわよね、舞子」

    

 紺色のスクール水着を手にしたコルナの静かな声が、その怒りの大きさを示していた。


「ご、ごめんなさい、つい出来心で――」


「あんた大聖女でしょ!

 何てことしてくれるのよ!」


 コルナの大声は鼓膜が破れそうだ。

 こんなに怒っているコルナは、初めて見た。


「それからお兄ちゃん」


 なんそこで声を低めるかな。怖すぎるよ。


「ひ、ひゃい!」


「シローは、あの水着が子供用だと知っていたね?」


 ひい! コルナが本気だ! 名前呼びになってるよ! どうしよう!


「すまないっ!」


「ところで、どうしてミミと私に黙って、この写真を彼らに渡したのかな?」


 船員たちから没収した点写真を束ねたもので、コルナが俺の頭をぽんぽんと叩く。 


「本当にごめん!

 コルナ、この通り!

 俺が悪かった!」


 俺はおでこを床に着けた。

 これ以上ない土下座だね。


「ミミ、あんたも何か言ってやりなさいよ!」


「い、いや、私は船員クルーが喜んでくれるなら、少しくらい――」


「馬鹿っ!

 あんたがそんなんだから、シローがやらかしたんでしょ!

 ここでしっかり反省させないと、またやるよ、この人は!」


 バシッ!


 下げた俺の頭を、点写真の束が激しく叩く。


「「ご、ごめんなさい!」」


 俺と舞子の声が揃う。


「ふう、このままじゃ、一生許せそうにないから、エルフ国にいる間に反省してもらいましょう」


 俺はこの後、コルナの本気を知ることになる。


 ◇


 白銀のクルーザー、点ちゃん3号が『東の島』大陸西端にある、港町ポーラに着くと、多くの民衆が詰めかけた。

 前にもこのクルーザーでここに来たことがあるからね。


「黒鉄シローが来てるんだって!?」

「モリーネ姫も一緒かしら?」

「一度でいいから、伝説の冒険者、雷神リーヴァスをこの目で見たいもんだ!」


 俺の家族と仲間が甲板に出ると、桟橋や埠頭に詰めかけたエルフたちから拍手と歓声が上がった。

 しかし、それも最後に俺と舞子が姿を現すまでだった。


「「「なんだ、ありゃ?」」」


 民衆が呆れるのも当然だ。

 俺は競泳用のやけに小さな黒いピチピチ水着だけを腰に着け、舞子は紺色のスクール水着を着ているのだ。その胸の所には、白い布が縫いつけられており『まいこ ちゃん』と、平仮名で書かれている。『ちゃん』だけ小さな文字でかかれているところまで、コルナの水着と同じだ。

 ちなみに俺の水着は、恥ずかしい位置に、やはり『しろー くん』と書かれた白い布が貼りつけられている。


 恥ずかしさの余り、舞子が顔を手で隠そうとする。


「マイコ」


 コルナの静かな声で、舞子は顔から手を離した。


「お、おい、ありゃ新しい冒険服か?」

「なわけないでしょ!

 黒鉄シローは一体、なんであんな格好を? 

 それに隣で変な格好をしてる女の子は誰なんだい?」

「来る途中、海で泳いだ後、着替えてないんじゃないか?」


 民衆の声が一々聞こえてくる。

 恥ずかしさの余り、舞子は俺の肩に顔を押しつけてくる。


 クルーザーを消した俺が、みんなを瞬間移動させようしたとき、リーヴァスさんから待ったがかかった。


「シロー、王都までは、2号でお願いできますかな?」


 2号はバス型でかなりのスピードが出るが、瞬間移動にくらべると、やはり時間が掛かる。


「ど、どうしてですか?」


 一刻も早くエルフ王城へ着きたい俺は、そう尋ねた。


「ギルド本部からの依頼ですよ。

 モロー街道で大規模な盗賊団が出没しているから、討伐して欲しいとのことでしてな」

 

「わ、分かりました……」


 恥ずかしいが、仕事ならしょうがない。

 俺が埠頭に出した点ちゃん2号にみんなが乗りこむ。


 水着ペア、俺と舞子は一番前に並んで座らされる。

 俺の腕に舞子がすがりついた形だ。


 点ちゃん、この状態から抜けだす、いいアイデアは無いの?


『(・ω・)ノ▼✨ いいえ、ありません!』

 

 なんでそんなにきっぱりと。それに、そ、その黒い逆三角形は!?


『(・ω・)ノ貝✨ この方がいいですか?』


 いえ、もういいです。点ちゃんに助けを求めた俺が馬鹿でした。

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