第32話 ちぐはぐな世界(上)
用意された部屋に帰り、ベッドに横たわると、食事の席でヴァルム大尉が話したことを考えていた。
ウエスタニアは女性だけが住む国、イスタニアは男性だけが住む国、そしてこの二つの国が争っている。
地球にも女性だけの国の伝説が確かあったよね。アマゾネスだったかな。
だけど、これは明らかにおかしい。
でしょ、点ちゃん。
『d(u ω u) その通りです。建築物の様子から考えてもこの国には――』
それなりの歴史があるはず。
しかし、そうなると、どうやって子孫を繋いできたかが問題になる。
まさか、両性具有とかじゃないよね。
『(Pω・) 大尉の身体を調べたけど、そんなことはありませんでしたよ』
となると、どうやって子供を作っているんだろう?
ところで点ちゃん、さっき食事した部屋にも、やっぱり例の「ハエ」がいたね。
『(・ω・)ノ 最初に壊しておきましたけどね』
ご苦労様。
どうやら、一度、この世界のあらましを探っておいた方がいいね。
『(^▽^)/ ワーイ! いっぱい遊べそう』
「ミー!」(遊ぼー!)
点ちゃんもブランもやる気満々だね。
じゃ、ちょっとやってみるかな。
俺は自分に透明化の闇魔術を掛けると、この建物に来る途中で撒いておいた『・』の一つに瞬間移動した。
◇
俺が現われたのは、街をとり囲む壁の外、草だけがまばらに生える荒れ地だった。
透明化を施した点ちゃん1号を出し、それに乗りこむ。
一気に上昇して、下を見ると、先ほどいた街に光の点が集まっている。
西の方向にも光の点があるので、高度を下げず、そちらへ向かう。
暗くて街の様子は分からないが、光点の数から考えると、だいたいイスタニアの街と同じくらいの規模だろう。
これがきっとウエスタニアだろう。
情報収集のため、『・』をばら撒いておく。
月が無いのでまっ暗な中を、速度を上げ、さらに西に向かう。
水平線の向こうに太陽が出てくる。点ちゃん1号は、大海原の上を飛んでいた。
しばらくすると進行方向に、大陸が見えてくる。
その大陸は豊かな緑に覆われていたが、その中に高層建築が立ちならぶ巨大な都市があった。
当然、その上空からも『・』をばら撒いておいた。
◇
時間は少しさかのぼる。
白一色の部屋で、何も映っていないディスプレイを前に男が頭を抱えていた。
彼はメタリックな白色の服を着ており、卵を縦に割ったような椅子に腰かけていた。
「これは……どういうことだ?
立てつづけに二台もモニター用の『ハエ』が壊れるなんて」
奇しくも、彼らが観察装置につけた名前も『ハエ』だった。
男の隣に座っている女性が、声を掛ける。
「テッド、運が悪いわね。
原因は分からないの?」
「ああ、全く分からないよ、ジニー」
「次の輸送はいつかしら?」
「五日後だ」
「それじゃあ、その時に替えの『ハエ』を送ったらいいじゃない」
「それはそうなんだが、報告書の事を考えると頭が痛くてね」
「それはそうね。
でも、『ハエ』の自動消去システムは働いたんでしょ?」
「それがはっきりしないから、頭を抱えているところだ」
「ええっ!?
どういうこと?」
「自動消去システムが働くと、信号が届くのは知っているだろう?
今回は、二度とも信号が届いていないんだよ」
「……ちょっと、それってまずいんじゃない?」
「ああ、
「下手したら、都市ごと消去することになるわよ」
「最悪そうなるね」
「とにかく一刻も早く報告しておきなさいよ」
「ああ、そうだな……」
イスタニアをモニターするという仕事に就いたのを、男は心の底から後悔しはじめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます