第82話 ドラゴンへの感謝



 コルナ、ナル、メルを連れ、アリストに帰ってきた俺は、家族全員を連れ天竜国へ来ている。

 竜王様に『神樹戦役』の顛末をお話しする必要があるからね。


 俺が竜王様と話している間、ナルとメルは真竜の姿に戻り、他の子竜たちと遊んでいた。

 ルル、コルナ、コリーダは、彼女たちが育てた子竜を甘やかせている。


 竜王様とのお話が終わり、俺が子竜たちの方へ向かうと、三匹の子竜がちょこちょこ走ってきた。

 二体はナルとメルだが、あと一体がよく分からない。

 強いて言えば、真竜であるナルとメルの特徴を半分ずつ持った姿だ。

 こんな子竜いたっけ?


 子竜がちょこちょこコリーダの所に近づいていく。

 彼女の足元で姿が変わり、猪っ子コリンとなった。

 そういえば、コリンは覚醒して『変化者』になってたっけ。

 どうやら、『変化者』の能力でコリンは、思うような形になれるみたいだね。


 ウリ坊の姿に戻ったコリンは子竜たちの人気者で、みんなから翼で撫でられ、目を細めていた。


 ◇


 竜王様、天竜の長に、神樹の種を渡した俺は、ナル、メル、リーヴァスさん、そしてあと「一人」を連れ、竜人国に降りた。

 青竜族の都にある、『ポンポコ商会』を訪れるためだ。

 

 店の前に現れた俺の姿を見て、近所の店主たちが飛びだしてきた。


「シローさん、シローさん、あんた世界群を救ってくれたんだって。

 ホント、ありがとうねえ」

「さすが、ナルちゃんメルちゃんのお父さんだぜ!」

「やっぱり、竜王様に認められる方はどこか違うと思ってたんだよ」


 以前は、俺を畏(おそ)れてぎこちなかった店主たちがみな親しく挨拶してくれる。

 どういうことだろう。

 とにかく、挨拶を返して『ポンポコ商会』の店舗に入る。


「リーダー!

 よくご無事で!」

「お帰りなさい!」

「ナルちゃん、メルちゃん、お帰りー!」


 店員が騒いでいるのを聞きつけ、奥からネアさんとイオが出てくる。


「お兄ちゃん、お帰りーっ!」


 イオはすぐに俺の首に手を回し、抱きついた。 


「リ、リーヴァス様、ご無事で何よりです」


 ネアさんは、リーヴァスさんの前でモジモジしている。


「みなさん、お変わりないようですな」


「はい、元気です……」


 ネアさんは、赤くなって黙ってしまった。


「リーヴァスさん、店の奥で、ネアさんに『神樹戦役』のお話をしてもらえますか?」


 そう言っておく。

  

「いいですぞ。

 ささ、ネアさん、ご案内くだされ」


「はいっ!」


 これで二人きりのセッティング完了と。


『( ̄ー ̄) 最近、どうもご主人様が黒いですね』 


「ミミミ」(全くです)


 点ちゃんとブランの会話は相変わらずだな。

 表扉に臨時休業の札を掛け、みんなでおしゃべりしていると、ガラリと引き戸を開け、白竜族のジェラードが入ってきた。その後ろには、黒竜族の女性リニアと赤竜族の族長ラズローもいる。 


「シロー殿、この度のお力添え、感謝いたします」


 ラズローの声に合わせ、彼を含む三人の竜人が頭を下げる。


「ははは、お気にせず。

 それより、これからギルドの方へ行こうと思うのですが」


「そう思い、急ぎ参りました。

 今、ギルドは建設中でして。

 シローさんがおっしゃっていたように、『デジマ』という区画を造り、そちらに建てることにしました」


 ラズローを含め三人は片膝を着いたままだ。


「みなさん、俺が堅苦しいのが苦手だってご存じでしょう。

 どうか、以前のようにしてください」


「では、そのようにいたします」


 三人は、店員が出してくれた椅子に座った。


「シロー様、スレッジ世界では、仲間の救出、治療にお力を貸してくださってありがとう」


 スレッジ世界で地下牢に閉じこめられ、すごく痩せていたリニアは、まだ少し痩せているものの、元気そうだった。


「リニア、まだ堅苦しいな。

 友達口調でお願いするよ」


「は、はい、でも……」


「ジェラードよ、どうしたのだ?」


 ラズローが話しかけても、ジェラードは動かない。じっとある人物を見つめている。

 それはコリーダだった。


 整った白い顔を赤く染めたジェラードが、椅子から立ちあがる。

 彼はコリーダの前にひざまずくと、大胆にも彼女の手を取り、それに口づけした。


 何で俺が黙って見てるかって?


 コリーダは、口づけを受けた手をさも嫌そうに振ると、その手でジェラードの額をドンと押した。


「うへっ!?」


 ジェラードが後ろに倒れる。


「コリン、おいで」


 俺の声で、コリーダに変身していた猪っ子コリンが元の姿になり飛びついてきた。

 鼻面を俺の手に押しあて、フゴフゴ言っている。

 彼の好物であるイモに似た植物を出してやる。

 コリンは目を細め、それを食べている。


「コリーダ様が、コロンに!?」


 ジェラードが倒れたまま、呆然とした顔をしている。

 コロンと言うのは、この世界にいる猪に似た魔獣のことだろう。

 

「では、そこのマヌケは放っておいて、『神樹戦役』のことをお話ししますよ。

 大方は、リニアから聞いていると思いますが……」


 俺が話しおえると、ラズローはため息をついた。


「世界群は、本当に危いところだったのですね」


「そうなんです。

 聖樹様によると、一応、危機は脱しました」


「しかし、神樹様を伐採するような不届き者がまた現われたら……」


「そうです。

 再び世界群に危機が訪れるでしょう」


「シロー殿、ギルドへの指名依頼ですが……」


「ああ、ラズローさん、分かっていますよ。

 この世界における神樹の調査ですね。

 それは、ある人物がいた方がいいので、また日を改めて行います。

 ギルドの建物ができたら、すぐに期限なしの指名依頼を出しておいてください」


「パーティ・ポンポコリン宛てですな?」


「ええ、それでお願いします。

 それから、聖樹様から、ご褒美として神樹の種を頂いておりますから、適当な場所に植えてください」


 点収納から神樹の種を五つ取りだすと、それをラズローに手渡した。


「こ、このように貴重なものを……」


 神樹の種を載せたラズローの手が震えている。

 しっかり者のリニアがさっとそれを受けとり、袋に入れた。

  

「しかし、シロー殿。

 我ら竜人は、あなた方にあれだけ酷い事をしたのに、どうして行く先の分からぬポータルを渡ってまで、囚われた竜人をお救いくださったのですか?」


 彼が言う「酷い事」とは、黒竜族が俺たちに散々悪さをしたことだろう。

 ラズローが真剣な目で俺を見ている。


「俺たちの仲間であるリニアとエンデもさらわれましたから。

 まあ、彼女たちがいなくても同じことをしたと思いますが」


「どうしてそこまで竜人のために?」


「いや、俺はなんとなくやりたいからやってるだけですから。 

 それに、救いに行かないと加藤が許さないでしょう」


「英雄と勇者。

 まさしく、その名にふさわしいですな」


「ちょ、ちょっと待ってください!

 英雄という言葉だけは使わないように。

 これだけはくれぐれも頼みますよ」


「しかし、スレッジ世界から帰還した者たちが、皆その話をしていますから、もうすでにその名が広まっていますよ」


 えっ!?

 なんでそんなことに?


 俺と目を合わせたリニアが、いまだに床に腰を着き、アワアワ言っているジェラードの方を見る。

 また、ヤツか!

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