第62話 仲間の活躍(下)
ヒュパリオン帝国の王ガーベルは、彼自身が『竜砲(ドラゴンキャノン)』と名付けた大きな魔道武器の後ろにいた。
戦闘が始まってすぐ、打ちだした砲弾で『巨人の里』に張られた結界を壊した大型魔道兵器だ。
彼はそれが自爆するよう設定しているところだ。
ここはさえぎるものの無い草原だ。これが爆発すれば、敵に大打撃を与えられるだろう。彼はすでに正気を失いかけていた。なぜなら、こんな兵器が爆発すれば、敵はもちろん味方の兵士も巻きまれるのだから。
「ははははは、全て消しとべ!」
狂ったように笑う彼の顔が凍りついた。
目の前にあった巨大な魔道兵器が
「ど、どういうことだ、一体!?」
「ああ、さっきの兵器ね。
あれ、あんたのお城で爆発したよ」
いつの間にか側に立っていた、茶色の布を頭に巻いた青年が、わざわざ説明する。
「ば、ばかなっ!」
青年は懐からパレットを出し、そこに映った帝国王城の映像を見せてやった。
大型魔道兵器は遥か離れた帝国王城にある玉座の間で爆発を起こした。そのため、城の上部が完全に吹きとんでいる。
「こりゃひどいな。
建てなおさなくちゃいけないんじゃないのか?
でも、あんたが心配することじゃないかな。
もう、王様じゃなくなるから」
ガーベルの壊れかけた心が、その言葉に激しく反応した。
「うるさいっ!
王は私だけだっ!
誰か、こやつを討ちとれ!」
「あー、あんたが言ってるのは、そいつらの事かな?」
ガーベルが見回すと、十人程の近衛兵が口から泡を吐き、草原に倒れていた。
「キ、キサマっ!
し、死ねー!」
腰から抜いた宝剣で、青年に切りかかったガーベルは、いつのまにかその剣が消えているのに気づいた。
「剣、私の剣……」
パチリ
そんな音がしたかとおもうと、ガーベルは自分の首に何かが巻きつくのを感じた。
「それは奴隷の首輪だ。
ただ、お前らが使っていたのとは一味違うぞ。
他人に害意を持ったり、差別意識を持った時に電気が流れるようにしてある。
電撃の強さは、お前らが竜人や人族の奴隷につけたものと全く同じにしておいた」
さっきまで茫洋としていた少年の顔は、信じられないほど美しいものに変わっていた。
しかし、ガーベルはそれに驚くことすらできなかった。
「な、なにを……ぎゃぎゃぎゃ」
「ほうら、さっそく電撃を受けたな。
まあ、お前は特別な牢に繋がれると思うが、がんばって『いい子』になれよ」
ガーベルは、それに言いかえすこともできない。
電撃の痛みと痺れで、口が動かないのだ。
「世界群を崩壊の危機に
十分反省してくれ」
「ぎゃぴっ」
再び電撃を食らったガーベルは意識を失った。
◇
女王ソラルの前には、皇女シリルが立っていた。
ソラルの周囲は彼女を守る十数人の近衛兵が囲んでおり、シリルの側には、ローリィと三人の竜闘士、そして巨人族のチビが立っていた。
「姉さま、どうしてこんなことを?
『大きなる者の里』にある神樹様を伐採すれば、世界群が崩壊していたのですよ」
シリルがしっかりした声でそう言った。
それは彼女が様々な試練を乗りこえ、一回りも二回りも大きくなったことを感じさせた。
「あなたまで巨人族の言葉を信じているの?
あんなの嘘に決まっているじゃない」
その時、どこからともなく現れた白猫が、ソラルの肩にひょいと乗った。
彼女は子猫を手で払いおとそうとしたが、それより早く、白猫の前足が彼女の額に触れた。
ソラルは、いつの間にかドワーフ皇国の王城、玉座の間にいた。
なぜか周囲には誰も人がいない。
宰相や侍従の名を大声で呼ぶが、誰も答えない。
そのとき、足元から異様な振動が伝わってきた。
地震なら何度か経験したことがあるソラルだが、その振動は明らかにそれとは違うものだった。
窓に駆けより外を見る。
そこには、異様な光景が広がっていた。
空が無いのだ。
建物はいびつに歪み、ぐにゃぐにゃと形を変え消えていく。
空があるべき場所には様々な色が絵の具をごちゃまぜにしたように重なり、渦巻いていた。
そして、それらを呑みこむ絶対の虚無。
その虚無が王城に近づいてくる。
ソラルはそれから一歩でも遠ざかろうと、窓際から部屋の奥へと後ずさった。
しかし、虚無は城壁を消し、部屋の中へと入ってくる。
彼女は自分の手や足が、その先から砂のように消えていくのを体感した。
「ぎゃーっ!」
自分の絶叫が辺りに広がる。
気がつくと、ソラルは元の草原に立っていた。
「い、今のは……」
震える体から、なんとか声を絞りだす。
『神樹様を伐採すれば、全ての世界がそうなっていたのですよ』
頭の中にそんな声が聞こえた。
ソラルが地面に膝を着く。
「な、なぜ、こんなことに……」
ソラルに近づこうとしたシリルを攻撃しようと、近衛兵が動きだす。
そして瞬く間に三人の竜闘士とチビに叩きのめされた。
「お姉さま、私は今でもあなたの妹です」
シリルはそう言うと、手と膝を地面に着けた姉の隣に立ち、その背中を優しく撫でた。
夕日に染まる草原に、ソラルの
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