第11部 神樹戦役
第５５話 決戦（１）
ドワーフ皇国とヒュパリオン帝国の同盟軍は、『巨人の里』がある山岳地帯が見える所まで来ていた。
近衛騎士に囲まれた女王ソラルは、騎乗していた馬から草原に降り立った。
すでに日が落ちかけているから、今夜はここで天幕、テントを張ることになる。
明日が決戦と分かり、兵士たちの士気は高い。圧倒的な数の優位が、巨人に対する恐怖心を消している。
ただし、彼らは自分たちがなぜ『巨人の里』を攻めるのか、その理由は聞かされていなかった。もし、それを知ったなら、彼らの士気は下がる所まで下がったはずだ。なぜなら、異世界を侵略するという事は、終わりのない戦いを意味するからだ。
異世界の地で死ぬかもしれないと分かれば、脱落する兵士が続出するだろう。
ソラルは遠く北に見える山岳地帯を眺めながら、明日の決戦を頭に描いていた。
◇
決戦の日、朝日が昇った。
山岳地帯を前に、ドワーフと人族からなる百万の軍が草原を埋めつくした。
山岳地帯南端を囲うように展開した陣の中央付近から、大きな台車が二台、兵士たちに押され前に出てくる。
その間には、騎士に囲まれたソラル、ガーベルの姿があった。
ソラルが拡声の魔道具であるクリスタルを口に当てる。
「聴け、『大きなるものの国』の民よ。
我は、ドワーフ皇国女王ソラルだ。
もう分かっておるだろうが、お前たちに勝ち目はない。
神樹とドラゴナイトを黙って差しだせば、悪いようにはせぬ。
結界を開き、我らを中へ入れよ」
これには山岳側からすぐに答えがあった。
それを予想していなかったソラルは、驚いて騎乗した馬から落ちそうになった。
「ワシは、里長のバルクじゃ。
お主らは、偉大なる我らの祖がなぜ約定を作ったか、その意味が分かっておらぬようじゃな」
山の麓に姿を現した巨人バルク老が、大音量で話しかける。
「神樹様は、世界の均衡を支えておられる。
お主らは、それを伐採するつもりじゃろう。
さすれば、この世界はおろか、ポータルズ世界群全ての崩壊を招くぞ」
巨人の言葉を聞いた前線の兵に、どよめきが起こる。
それは、波のように連合軍全体に広がった。
「誰がそんなたわ言に耳を貸すか！
最後の悪あがきにしては、全くつまらぬな。
お主自身の目で、『巨人の里』の最期をとくと見よ！」
拡声クリスタルを左手に持つガーベルは、そう叫ぶと馬上で右の拳を天に突きあげた。
彼らの左右にある台車の周囲にいる兵士が、慌ただしく動きだす。
ガーベルが右手を振りおろすと、台車に載った二門の大砲から、何かが発射された。
それは空中でバラバラになると、里の結界に降りそそいだ。
ガラスが割れるような音を立て、結界が壊れる。
砲弾の中には、細かく砕いたドラゴナイトが入っていた。今の砲撃は、結界を破るだけではなく、巨人の力を削ぐためのものだ、
今はここにいない学園都市の研究者が造った魔道具が上手く働いたことで、ガーベルが満面の笑顔となる。
これで勝負は着いた。
後は軍を前に進めるだけだ。
◇
「長、どうしました？」
結界が壊れたことより、里長の様子が急に変わったことを俺は心配していた。
「ううう、シロー殿、この感じは採掘場に行った時と同じじゃ」
苦しそうな息の下、膝を着いた長が言葉を漏らす。
ドラゴナイトか！
俺は里長と同じく、体調を崩している巨人たちを、里の広場まで瞬間移動させる。
これは、やはり敵軍の大部分を消す必要があるかもしれない。
そう覚悟を決めたとき、点ちゃんから報告が入った。
『(Ｐω・) 別の軍隊が近づいてくるよー！』
敵の増援を予想していなかった俺は、少し慌ててしまった。
『(＾ω＾) 女王様や聖女さん、マスケドニアの王様がいますよー』
味方か！
点ちゃん、数はどのくらい？
『(Ｐω・) うーんとね、一万くらいだと思う』
百万という敵の数を考えると、一見意味が無いように思える援軍だが、心強いこと限りなかった。
どうせ数では勝てない相手だからね。
西側から砂煙を上げ近づく軍勢に、同盟軍に動揺が走った。
しかし、彼らが本当に驚くのはここからだった。
その軍勢が山岳地帯西の
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