第10部 決戦へ

第50話 聖女と女王


「陛下、どうか、お考えなおしください!」

「そうですぞ!

 シロー殿に任せておけばよいではありませんか!」


 アリスト王城では、旅支度を始めた女王陛下を止めようと、騎士レダーマンと宮廷魔術師ハートンが必死になっていた。


「あなたたち、よくお聞きなさい。

 今日、ギルドからの報告で、かの地には多数の神樹様がいらっしゃることが分かりました。

 その場所が、危機に瀕していることも。

 ポータルズ世界群が脆弱な状態にある今、多数の神樹様が失われてごらんなさい。

 何が起こると思いますか?」


「そ、それはっ」

「ぐっ」


 レダーマン、ハートンとも、女王陛下から言われて初めて、そのことに気づいたようだ。


「よいか、私は私情から行動するのではない。

 この国の民を守りたいのだ」


「「……」」


 レダーマンとハートンが、顔を見合わせる。

 二人は、頷きあった。 

 

「陛下、このことは、国として対処されてはいかがかと」


 ハートンの言葉に、黒髪の美少女が動きを停める。


「どういうことじゃ?」


「神樹様をお守りするとなると、聖女エミリー様、プリンス翔太様も、ご同行されることになるでしょう。

 そうなれば、国としても、全力でお助けする必要があるかと」


 ハートンは、覚悟を決めたようだ。


「それから、マスケドニアにも、ぜひご連絡を。

 の王なら、力を貸してくれるに違いありません」


「……そのほうら、よう言うた!

 では、そのように動くぞ。

 時間を無駄にするでない!」


「「はっ!」」


 畑山は自分一人でもスレッジに向かうつもりだったが、重臣二人の同意を得た今、とても心強く思うのだった。


 ◇


 その日、魔術学園から帰ってきた翔太は、エミリーと共に女王の私室に呼ばれた。


「お姉ちゃん、本当?」


「ええ、ぜひ、あなたたちも来てちょうだい」


「わーい!

 シローさんに会えるんだね?」


「翔太、恐らくスレッジでは、戦闘が予想されるの。

 ピクニック気分じゃ駄目よ。

 あなたは、エミリーの『守り手』だということを忘れないで」


「うん!

 分かってる」


「陛下、私は何をすれば……」


「エミリー、スレッジ世界に神樹様の群生地が見つかったそうなの。

 私たちが今回そこへ向かうのも、神樹様を守るためよ」


「はい!

 私、がんばります!」


「頼りにしているわ」


 まだ年端のいかない、弟とエミリーを危険な場所に連れていくのに、不安が無いわけではなかったが、もし神樹の群生地が破壊されたなら、恐らくポータルズ世界群に破滅が訪れるということを考えると、ここで迷ってなどいられないと、女王畑山は腹をくくるのだった。


 ◇


「聖女様、スレッジに向かわれるので?」


「はい、すぐに」


 獣人世界グレイルにある犬人の街ケーナイでは、聖女舞子とピエロッティが、そんな会話を交わしていた。


「留守の間、治療活動はイリーナとターニャに任せます。

 お二人とも、頼みましたよ」


「はい、大聖女様!」


 イリーナが膝を折って礼をする。

 聖女が二人になったため、舞子は『大聖女』、イリーナは『小聖女』と呼ばれていた。


「こちらはお任せを。

 心置きなくお発ちください」


 イリーナの介添え役ターニャが、舞子に対し恭しく礼をする。

 その時、ノックの音がすると、ケーナイギルドのギルマス、犬人アンデが現れた。


「大聖女様、準備が整いました」


 彼は膝を着き、そう報告した。


「では、行きましょう」


 大聖女の一言で、皆が一斉に礼をした。

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