第43話 大きなるものの国(6)


 採掘場に蓋をしていた大きな二枚の金属板には、かなり強い封印魔術が掛かっており、それを解除するのにしばらく時間がかかった。

 扉自体を消してしまえば簡単なのだが、そうすると何かで蓋をしなくちゃならないからね。


 扉を開け中に入ると、人が立って歩けるだけの通路が奥へ伸びている。

 床にホコリが積もっているものの、壁や天井は、昨日まで使われていたようにきれいだった。

 俺は『枯れクズ』を出し、それで通路を照らしながら奥へと進んだ。

 通路はやがて、壁、天井、床ともに掘削の痕が残るものとなった。

 分厚い岩盤を通っているようだ。

 

 そして、通路はいきなり終わった。


 ◇


 灯りの魔術を唱えた俺の前に広がったのは、巨大なドーム状の空間で、地面からはタケノコのような形の鍾乳石が生えていた。それはどれも大きく、人の背丈ほどもあった。


 一人用ボードを出し、鍾乳石をかわしながら進んでいく。

 ドームの中央辺りに、取りたてて大きな鍾乳石が、一か所に集まって生えているところがあり、そのいくつかの根元に削られた跡があった。

 中には、石柱ごと消えているものもある。


 そして、俺はとうとう、ドラゴナイトだろうものを見つけた。

 なぜ、点ちゃんに尋ねなくても、それがドラゴナイトだと分かったか。


 白い鍾乳石の中に、明らかに規則的に並んだ灰色の部分があり、その灰色は、紛れもなくドラゴンの骨格を成していた。


 ◇


『(Pω・) やっぱり、ドラゴンの形だよー!』


 点ちゃんも、同じ意見か。まあ、竜王様の骨格を見慣れている俺が、間違えるはずもないのだが。


 点ちゃん、鍾乳石の中を調べてくれる?


『ぐ(・ω・) 了解でーす』 

 

 調査の結果、鍾乳石の中には、ドラゴンの骨が多数眠っていることが確認された。

 そして、その骨が全て、ドラゴナイトであると判明した。

 竜人たちやチビが着けられていた首輪、そしてポポに載せてあった鞍、それらに入っていた石は、点ちゃん収納にしまってあるからね。

 それと同じ鉱石だと分かったってこと。


 この場所は、太古、竜の墓場だったのだろう。

 そして、その骨が、この地にある鍾乳石を形成する成分と反応し、ドラゴナイトとなったに違いない。


 俺は、巨大な鍾乳洞に仕掛けを施すと、そこを後にした。


 ◇


 ドラゴナイト採掘場、いや、ドラゴンの墓場から巨人の里に帰った俺は、里長の家にある巨大な囲炉裏の周りに座った仲間たちに、先ほど見たことを話した。


「なんと! 

 あの邪悪な『悪魔の石』が、聖なる生き物の骨ですと!」


 そう言った長が、巨大な口をあんぐり開けている。


「聖なる生き物とは、どういうことです?」


「……かつてドラゴンが、聖なる存在としてこの地を守っていた、という言い伝えがありますのじゃ」


 恐らく、その時代には、ドラゴンが『鎮守の杜』の神樹たちを守っていたのだろう。 

 なにかがあって、ドラゴンたちは、この地を去ったのかもしれない。そして、それが、現在ドラゴニアに生きているドラゴンたちの祖先なのだろう。


 俺は、ドラゴニア四竜社地下にあるポータル部屋のことを思いだしていた。あそこには、封印されたドラゴニア=スレッジ間のポータルがあった。


 聞いている仲間たちは、悠久の時に隠されたドラマを思い、言葉を失っている。

 自分たちを苦しめていたドラゴナイトの正体が、敬うべき竜そのものと知った竜人たちのショックは、特に大きかった。


 三人の竜闘士たちは、動けなくなってしまった。

 ローリィだけは、その白い顔を青くしていたが、なんとか正気を保っていた。

 ここぞというときは、男性より女性の方が強いんだよね。


 さて、次の一手はどうするかな?

 ドワーフ、人族、両方の国にいる為政者周辺から送られてくる情報を元に、俺は次の計画を練るのだった。

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