第12話 奴隷と闘士(3)

    

 武闘場のまん中で、俺は長剣を手にした大柄な人族の男と向きあっていた。


 こちらが素手だからか、男は侮蔑したような目で俺を見ている。 

 そして、いきなり切りかかってきた。


 それは異様なほど遅かった。

 俺は難なく身体を開いてそれをかわす。


 対戦相手は、一瞬「おや?」という顔をしたが、手をとめず、さらに切りかかってくる。

 俺はそれをかわしながら、違和感を感じていた。


 いくら強くない相手とはいえ、その動きが見えすぎる。

 繰りかえし振られる剣を避けながら、久しぶりに加護を確認しなければと考えていた。


 度重なる空振りに、相手がヘロヘロになってきた。

 俺は大ぶりな攻撃をかわすと、大外刈りの要領で男を投げる。

 すでに立っているのもやっとだった男は、ドタリと地面に転がった。

 ヤツが手から放した剣をゆっくり拾う。

 

「殺せー!」

「ぶっ殺せー!」

「首を切ってやれー!」


 首をうんぬんは、女性の声だ。まったくひどい文化だな、これは。

 俺は手を伸ばし、剣で空を指す。


 じゃ、点ちゃん、派手にいこうか。


『p(≧▽≦)q わーい、やっちゃうぞー!』 

 

 久しぶりの出番で、気合が入ってるな。


 ドシュッ


 そんな音を立て、空に上がった長剣は、上空で大輪の花火となった。


 ドーン!


 たまやー!


『(*'▽')* たまやー!』 


 呆然としている係員と観客に背を向け、俺は控室に戻った。


 ◇


「おう、早かったな」


 加藤が俺の姿を見て、ほっとした顔をする。

 一応、心配はしてくれたらしい。


 彼の言葉に頷くと、武器の種類や戦いの形式について話しておく。

 勇者である加藤がおくれをとることなどないだろうが、念のためだ。


 ちょうど説明を終えた頃、係員が慌てて入ってきた。

 

「次の試合は、カトーとバジェスだ。

 それから、シロー、お前も一緒に来てくれ」


 係員は、なぜか俺も連れ、武闘場に向かった。

 加藤とベテランっぽい傷だらけの人族が武器を選ぶと、そのまま武闘場に出る。


 俺たち三人が戸口から出たとたん、すごい歓声が観客席から上がる。

 

「シロー、右手を挙げろ」


 係員に言われ手を挙げると、歓声がさらに大きくなった。


「おい、ボー、お前いったい何したんだ?」


「場を温めるために、ちょっとパフォーマンスしただけだが」


「まあ、いつものことだな」


 加藤は、なぜかいい笑顔を見せる。

 これだけ落ちついていれば、心配ないだろう。


 係員が俺の手を引き、客席へ上がる扉を開く。

 別の係員が、俺を上流階級が座っている区画に案内する。

 最前列に、空席が並んでいるところがあり、今は一人だけ左手に包帯を巻いた男が座っていた。彼は俺の一つ前に試合をした闘士のようだ。

 どうやら、勝者は、ここに座り観戦するらしい。


 武闘場では、加藤と対戦者の戦いが始まるところだった。

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