第6話 支店訪問

 

「おお! 

 シロー殿、お久しぶりじゃ!」


 俺の姿を見た天竜が連絡したのだろう、白髭の老人に変身した天竜のおさがすぐに駆けつけた。

 

「長、お久しぶりです。

 たった今、真竜廟に寄ってきました。

 子竜たちのお世話、ご苦労様です」


「めっそうもない!

 真竜様にお仕えするのは、我らの喜びですじゃ」


「ところで、『枯れクズ』の除去は順調ですか?」


「おかげ様で、大きな不都合は起きておりませぬ。

 以前、シロー殿がおっしゃったとおり、『光の森』は、そしてこの世界は、これで安泰ですじゃ」


「良かったです」


「献上蜂蜜も、定期的に入ってきております」


「ああ、そうそう。

 今回は、この三人に加護をいただきたいのです」


「このお三方は?」


「私の本当に近しい友人で、それぞれ聖騎士、聖女、勇者です」


「ほう!

 人族にはそのような者がいると、何かで読んだ覚えがあります」


「お願いできますか?」


「竜王様のご友人、そして、大恩あるシロー殿のためですじゃ。

 喜んで加護をつけさせていただきまする」


「ありがとう」


 天竜たちがキビキビ動き、部屋を整えた。

 加藤たち三人を部屋中央の敷物に座らせ、俺はその後ろに控える。


 天竜の長が呪文を詠唱すると、舞子、畑山さん、加藤の体が薄青く光る。


「長、ありがとう。

 竜人国に寄りますから、俺の魔法で追加の蜂蜜を送っておきます。

 そうですね、ここを空けておいてください」


 俺は、大部屋の隅に不要な布を広げた。


「なんと、そのようなことまでしていただけるか。

 有難い」


 長は俺の手を取り、拝む格好をした。

 いや、本当はこちらの方が拝まないといけないんだけどね。 


 肩にブランを乗せた俺は、『初めの四人』で、竜人国の『ポンポコ商会』前に跳んだ。


 ◇


「ボー、ちょっと目まぐるしくて、わけ分からなくなってるんだけど、さっきのは何だったの?

 それからここはどこ?」


「ああ、畑山さん、説明が遅れてごめんね。

 さっきの洞窟で、三人の体が光ったでしょ。

 あれは、天竜から加護をもらったからなんだ。

 物理攻撃を受けた時、大幅にそれを軽減してくれる加護だね」


「えっ!?

 それって凄いじゃない!

 で、ここは?」


「ああ、その店があるでしょ。

 ここ、竜人の国なんだけど、あれが『ポンポコ商会』の支店なんだ」


「……店構えがとりわけ大きいあれが?」


「ああ、そうだよ」


「はあ、もう呆れるだけだわ。

 とにかく、次から瞬間移動する前に、どこに行って何をするか教えなさいよね」


「うん、ごめんごめん」


 つい自分のペースで瞬間移動しちゃうからね。

 次から気をつけよう。


「おや、シローさん、それにカトー君も。

 帰ったのかい」


 向かいで店を開いている女将さんが声を掛けてくれる。


「ええ、お土産配りますから、後でウチに寄ってくださいよ」


「ああ、みんなにも声かけとくよ。

 それより、前にもらった『ケーサンキ』だっけ、あれ、もう一つ売ってもらえないかい?

 あんたんとこで売ってるときに買っておくんだったよ。

 すぐに売りきれちゃってね」


 確か竜金貨何枚かの値段をつけたはずだが、すぐ売れちゃったか。


「分かりました。

 お土産にそれも入れときます」


「あんな高いもん、いいのかい?」


「ええ、みなさんには、ウチの店がお世話になってますから」


「逆だよ!

 あんたんとこができてから、ウチの店は売りあげが倍以上になってるんだ。

 また、ナルちゃんやメルちゃんと遊びにおいで。

 うちなら全部無料で食べ放題だよ」


「ありがとう」


 ◇


「こんにちは」


 ポンポコ商会の引き戸を開け、店舗の中に入る。


「あっ!

 社長、シローさんですよー!」


 俺に気づいた副社長が、店の奥に叫ぶ。

 すぐに、ネアさんとイオが出てきた。


「お兄ちゃん!」


 イオが俺の首に手を回す。


「し、史郎君、この子は誰っ!」


 舞子が目くじらたてているが、さすがにイオは年齢が低すぎるだろう。


「今日は俺の友人を連れてきたよ。

 加藤とは、前に会ってるよね。

 こちらが舞子、こちらが畑山さん」


「初めまして、ネアです。

『ポンポコ商会ドラゴニア支店』を任せてもらっています」


「初めまして、舞子です」

「こんにちは、畑山です」

「……」


「シローさん、加藤さんはどうしたんですか?」


 加藤は、竜王様と念話したショックからまだ立ちなおれていない。

 

「後で詳しく話すよ。

 それより、計算機やノート、ボールペンはどう?」


「もの凄く使いやすいですよ。

 今までの苦労が嘘のようです。

 特に計算機には助かっています」


「そう思って、大量に買ってきたからね。

 一つずつ近所のお店に渡した後は、自由に使ってね」


「お店で使うのは、もう十分な数がありますから、残りは売りましょう」


「以前、値段はいくらにしたっけ?」


「ケーサンキの値段は、竜金貨二枚です」


 約百万円か。


「そうだね、金貨三枚にしよう」


「分かりました」


「ボー、この国の金貨って価値はどのくらい?」


 聞いていた畑山さんが話に割りこむ。


「ああ、竜金貨は、アリストで使っている金貨から見て、およそ半分の価値だね」


「計算機一つが……げっ、百五十万円じゃない!」


「そうだよ」


「そ、それって、百円ショップで買ったやつだよね」


「うん、そう」


 畑山さんが、恐ろしものでも見たような目を俺に向ける。


「はあ~、あんたの会社がどんどん増えていくから、なぜだろうって思ってたけど、やっと理由が分かったわ」


「そう?」


「そんな、しれっとした顔して……あんた悪人ねえ」


「そうだぞ、ボー、お前、ひどいぞ」


 お、加藤がやっと復活したようだ。


「竜王様って、俺が首を落とした竜のお父さんじゃねえか。

 お前、前もって教えとけよ。

 今まで生きてて、二番目に怖かったぞ」


「ああ、だが、竜王様は、お前に何もしなかったろう?」


「あ、ああ、どうしてだろう?」


「あの竜の命を奪ったのは、俺と点ちゃんだからだ」


「げっ!」


 加藤が、一歩引くほど驚く。


「も、もしかして、お前、何とかって称号、持ってないか?」


 加藤は驚いた顔のまま尋ねた。 

    

「ああ、ドラゴンスレイヤーだろ。

 その称号なら持ってるぞ」


「……」


 加藤は、呆れた顔で黙りこんでしまった。

 畑山さんと舞子は、お店の焼きたてクッキーとチュロスを出され、ネアさんと談笑している。

 そちらとこちらで、温度差が激しい。


「おい、ボー、ちょっと待てよ。

 お前、以前、竜のダンジョンで、骨の竜と戦ったって言ってなかったか?」


「ああ、そうだよ」


「まさかと思うが、その相手は……」


「お前が念話した竜王様だな」


 石のように固まった加藤は放っておき、俺は談笑の輪に加わった。

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