第35話 地球世界の神樹2 - ヨーロッパ -


 俺たちが乗った点ちゃん1号は、ヨーロッパ中の上空をあちこち飛びまわったが、神樹様の反応はなかった。


 ヨーロッパには、神樹様がいないのかもしれない。

 俺たちは、最後にドイツの『黒い森』へ向かった。


 森の上空に来ると、エミリーが目を見開く。


「大変! 

 シローさん、急いで」


 俺は、彼女が指さした方向に点ちゃん1号を進める。


「あ、ここ! 

 この下です!」


 四人用ボードを出し、すぐに降下する。


 木々の上端は、火事があったように黒ずみ、枝が無かった。

 俺はそれが酸性の雨や霧の影響だと知っていた。


 エミリーの指示で向かった先にあったのは、そういう木の一本だった。


 俺が『光る木』の『枯れクズ』を出すと、すぐに翔太が穴を掘る。

 エミリーが、急いでその穴に『枯れクズ』を投げこんだ。


 エミリーの手が木にかざされると、それはぼんやりと光り始めた。

 しかし、その光は弱々しく点滅していた。


 点ちゃんに念話のネットワークを構築してもらう。


『誰じゃ、このような事をしおって。

 もう、安らかに眠らせてくれ』


『ピーター、しかりして!』


『お前は誰じゃ。

 なぜその名を知っておる』


『森に迷い込んだ男の子がつけた名前よね。

 あなたの記憶を読んだの』


 エミリーの新しい能力が開花する。


『……お主、一体何者じゃ』


『私は、エミリー。

「聖樹の巫女」よ』


『なんと、聖樹の巫女様か。

 元気だった頃、聖樹様から話だけは聞いておるよ』


『あなた、酷く傷ついてるわね』


『おっしゃるとおりじゃよ。

 傷口が痛くて我慢ができない』


 エミリーが俺にボードを出すように言う。

 俺は、エミリーが指示する通り、神樹様の先端辺りにボードを上昇させた。

 エミリーの手が、黒く炭化したような幹にかざされる。


 神樹様の先端が輝くと、白い木肌が現れた。

 エミリーは、肩で息をついている。

 これは今までになかったことだ。


 俺たちが地上に降りると、再び神樹様からの念話があった。


『痛みが消えた! 

 巫女様、ありがとうございます』


『もう、こんなことは無いはずよ。

 あなたは、聖樹様との繋がりも取りもどしたから』


 神樹ピーターは、しばらく黙りこんでいた。


『聖樹様と繋がったぞ! 

 巫女様、感謝いたします』


『よかったわね。

 危ないところだった』


『はい、ワシはもう意識を手放しかけておりました』


『何かあれば、神樹のネットワークを使って私に連絡してね。

 いつでも助けにくるから』


『もったいないことじゃ。

 しかし、巫女様が現れたということは、世界が危機に陥っているということじゃな』


 これには俺が答える。


『神樹様、シローといいます。

 おっしゃる通りです』


『おお、やはり、お主がシローか。

 聖樹様、兄弟姉妹が世話になっておる。

 ありがとう』


『いえ、俺が好きでやってることなんで。

 それより、世界の危機について、何かご存じありませんか』


『詳しいことは分からぬが、恐らく我らで繋がった世界が崩壊するということであろう』


 神樹ピーター様の予想は俺と同じものだった。

 エミリーと翔太が青くなっている。

 彼らには今まで、はっきりとはそれを知らせていなかったからね。

 しかし、お役目柄、ずっと知らない訳にもいくまい。


『神樹様、私はエミリーの父でございます。

 エミリーの役割はどんなものでしょうか』


『そうじゃな。

 世界を崩壊から救う、唯一の存在じゃ』


『やはり、そうですか』


『お主は心配しておるようじゃな。

 じゃが、そのわらわやシローを見よ。

 頼もしい助けがあるではないか。

 よいか、巫女様は、世界を「救う」存在なのじゃぞ。

 それを忘れるでない』


『はい、分かりました』


『童、シロー、そして、点の子よ。

 巫女様を頼むぞ』


『はい! 

 エミリーは、絶対にボクが守ります』


『(^▽^)/うん、分かったー』


『では、巫女様、いずれまたお目にかかりましょう。

 他の神樹たちを頼みますぞ』


 俺たちは、点ちゃん1号に乗り、ドイツの「黒い森」を後にした。

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