第30話 異世界科(下)


 俺たちは、異世界科の生徒と教室で食事をしている。


 教室の机を四つずつ合わせテーブルを作り、各テーブルに一人ずつ俺たちが座る。

 ナルとメルは、ルルと並んで座る。

 エリミーとハーディ卿は、ポルと一緒に座った。

 翔太は畑山邸に帰してある。


 なぜか俺が着いているテーブル以外は、すぐに生徒たちで埋まった。


 ぽつんと座っている俺を見かねた林先生、校長先生、教頭先生が俺のテーブルに着く。

 なんなんだ、このテーブルは。PTA席みたいになってるぞ。


『(*´з`) ご主人様、人気ないですねー』


 いや、点ちゃん、傷口に塩をすりこまなくてもいいから。


 生徒たちが全員座ると、先生方も各テーブルに分かれて座った。

 なぜか、俺のテーブルに来る先生はいない。

 こ、これは寂しすぎる。


「林先生、俺、何か警戒されてるんですかね?」


「多分そりゃ、きっと例の噂のせいだな」


「噂?」


「ああ、お前が某国の核兵器を消滅させただの、基地を消滅させただの、変な噂が流れててな。

 それでちょっと怖がってるんだろう」


 やばい!

 本当のことだよ、それは。

 特派員協会で記者から怖がられていたのも、それが原因か。


「ま、まあ、それなら仕方がないですね」


 こうして、にぎやかな他のテーブルとは対照的に、俺たちのところは、お通夜のような雰囲気が流れていた。

 しょうがないから、異世界の食べ物を配ろうとしたが、林先生から止められる。

 何かの法律で、学校でそういうことは、できないそうだ。


 やることがないので、俺はエルファリアのお茶と蜂蜜クッキーを自分だけに出した。

 こうなると、やけ食いだ。


 俺がクッキーをしこたま詰めこみ、頬をリスのように膨らませていると、ナルとメルがやってきた。


「パーパ、メルにもクッキー頂戴!」

「ナルにもー」


 俺は二人に蜂蜜クッキーと『白神酒造』で買った牛乳を出してやった。


「わーい、ミルクだー!」

「美味しいね!」


 二人はクッキーを食べおえると、ミルクの輪っかができた口を突きだしてくる。


「はいはい、今、拭くからね」


 点収納からハンカチを出し、二人の口を拭いてやる。

 俺が拭きおえると、笑顔の二人はルルの所に戻っていった。

 むしゃくしゃしていた気持ちが、いつの間にか晴れていた。


「ふーん、異世界に家族ができたとは言ってたが、本当だったみたいだな」


 林先生が感心したように言う。


「ぼ、坊野君、今のは君の娘さんかね?」


 校長先生が目を丸くしている。


「はい、俺の娘ですよ」


「き、君、その年でもう結婚してるのかね?」


 教頭先生も突っこむ。


「結婚してはいませんが」


「どういうことだ? 

 だいたい、あの娘たち、どうみても君の本当の子じゃあるまい」


「教頭、シローが自分の娘だと言ってるんです。

 それ以上でもそれ以下でもありませんよ」


 林先生がきっぱりした口調で言う。


「……あ、ああ、それはそうだな」


 教頭がぎこちなく頷いた。


「あ、そうそう、これ先生方で飲んでください」


 俺はビン詰めの『フェアリスの涙』を一本、机の上に置いた。


「おい、シロー。

 これ、例の酒じゃないのか?」


 林先生は、何度か『フェアリスの涙』を飲んだことがあるからね。


「ええ、そうですよ」


「林君、例の酒とは何だね」


 校長が酒の入ったビンを手に尋ねる。


「異世界の『妖精酒』らしいですよ。

 この量だと、そうですね……二、三千はするでしょう」


「ほう、割と安いもんだね。

 これで、二、三千円か」


「校長、桁が違いますよ」


「林君、桁とは?」


「二、三千万円ですよ」


「「ええっ!」」


 校長が驚いて落としかけたビンを、俺が点魔法で受けとめる。

 ビンは宙を浮き、テーブルの上に戻った。

 校長と教頭は、怖いものでも見たような顔をしている。


「ははは、二人ともシローとつきあうときは、このぐらいで驚いてちゃいけませんよ。

 私は、内輪のパーティで、アメリカ大統領と我が国の首相を紹介されたことがあります」


「……」

「……」


 食事が終わると、俺は体育館で全校生徒への講演が控えていた。

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