第40話 国際会議


 俺がアメリカから日本に帰って一週間後、ニューヨークの国連ビルでは、報道機関を閉めだし、異世界に関する会議が行われていた。

 現在、発言しているのは中国代表だ。


「しかし、本当に異世界などあるのですかな?

 ましてや、地球からそこへ行き、また帰ってきたなどと……」


「彼らが異世界からの帰還者だというのは、すでに明らかです」


 こちらは日本代表だ。帰還者が日本人だという事もあり、今回は日本が議長国を務めている。開催地が日本にならなかったのは、常任理事国の中に、それに関し強硬に反対した国があったからだ。

 その反対した国、つまり中国の代表が、再び手を挙げる。


「このいただいた資料からだけでは、本当のことかどうか分かりませんな」


 資料というのは、日本で俺たちについてすでに分かっていることと、加藤のジャンプ映像、プレスクラブでの映像などだ。

 そこで、アメリカ代表が手を挙げる。

 

「それは、わが国の大統領を疑うということですか?」


「どういうことでしょう?」


「大統領ご自身が、彼らの力をその目で確認しているということです」


 会場がざわつく。ざわつきは次第に大きくなり、議長が静粛を呼びかけるほどとなった。

 異世界からの帰還者について半信半疑だった各国代表も、アメリカ大統領がその力を直接目にしたとあらば、信じざるを得まい。


「我が国に彼らを預からせていただきたい」


 発言したのは、ロシア代表だ。

 彼が続ける。


「我が国は、以前から極秘裏に異世界に関する研究をおこなってきた。

 我が国こそ、異世界からの帰還者が住むにふさわしい場所である!」


 もちろん、異世界についての研究うんぬんはでっち上げだ。

 しかし、独自のルートから、『初めの四人』に関する情報を手に入れていたロシアは、彼らの存在が世界のパワーバランスを決定づけると分かっていた。

 そうなると、手段なぞ選んではおられない。


「いや、異世界について、そして魔術についての研究は、わが国が最も進んでいるということに関して、みなさんよくご存じでしょう。

 異世界人は、わが国にもらい受けたい」


 これはイギリス代表の発言だ。

 確かに、の国は魔術の研究が盛んだ。 

 しかし、異世界の事などつい近ごろ知ったばかりだ。


 この後も、フランス、ドイツ、イタリアと、先進各国が次々と異世界人を「所有する」権利を主張した。


 インド代表が同様の発言をしている時、会場が突然静かになった。

 彼が、発言の途中で黙りこんだからだ。

 なぜか?


 会議場は円形になっており、中央は空いている。

 そこに、突然四人の若者、つまり、俺たちが現れたからだ。

 日本とアメリカの代表が、椅子を倒しガタっと立ちあがる。


「初めまして。

 議題となっている『初めの四人』です」


 畑山さんが発言する。今日の俺たちは、異世界の服を着ている。

 当然畑山さんは、女王としての正装だ。


「私たちの意見も聞かず、好き勝手な議論、ご苦労様です」


 彼女が議場をぐるりと見回す。

 それだけで、各国代表は、亀のように首をすくめた。


「すでに日本、アメリカ両国には、我々の意思を伝えてありますが、この場を借りて、世界の方々にもそれを聞いていただきたいのです。

 議長、よろしいですか?」


 議長を務める日本代表の男が、魅入られたように頷く。


「では、『初めの四人』の総意を伝えます」


 畑山さんの凛とした声が会場に響く。


「我々並びにその関係者への調査、攻撃が行われた場合、その国の上層部を消去します。

 何かするなら、その覚悟で。

 政府関係者以外の者が、そういう行動を取っても同様です。

 我々には、どこかの国が誰かに依頼してそういう行動をとったとしても、それを知る手段があります。

 くれぐれも軽はずみな行動だけはなさいませんよう。

 では、仲間からも一言あります」


 俺が言葉を引きとる。


「以降、俺たちへの接触は、全て『異世界通信社』を通しておこなってもらいます。

 また、通商などの意思がある国は、もうすぐ設立される『ポンポコ商会地球支店』にコンタクトを取ってください。

 最後に、今、名前を挙げた会社に所属する者、その会社との取引先、および我々の家族が、先ほどアリスト国女王陛下がおっしゃられた『関係者』となります」


 俺は、ここで少しを置いた。


「特に、ここにいる先進国、大国の方々に伝えたい。

 先ほど、異世界の研究などしていないのに、それを理由に我々に対する権利を主張した国がありましたね」


 思いあたることがある国の代表が下を向く。


「あなた方、力ある国は、今までそのダブルスタンダードを使い、いわゆる後進国を散々苦しめてきました。 

 ここで、はっきりさせておきましょう。

 我々の前で、そのような対応をした国とは、それ以降、一切のおつきあいをしません」


 俺は、懐から『枯れクズ』の欠片かけらを取りだした。

 辺りに虹色の光を放つ円盤状のそれを頭上に掲げる。


「これは異世界でも俺たちだけが入手できるもので、光エネルギーを蓄える働きがあります。

 これにより、エネルギー問題とそれに伴う環境汚染問題などの多くが解決するでしょう。

 我々と協力関係を望む国には、これを有償で提供します」


 ここまで来ると、各国代表は身を乗りだし、食いいるように俺の話を聞いている。

 最後に畑山さんが言葉を引きとる。


「我々の言葉を信じるも信じないもあなた方の勝手です。

 ただ……」


 彼女が、ゆっくりと体を一回りさせ、会場の全員と目をあわせる。


「あなた方が誠実に対応するなら、こちらも同じ態度で臨みましょう。

 私が治める国、アリスト王国との条約も歓迎します」


 彼女が腰を折り礼をしたので、俺たち三人もそれにならう。

 日本代表、アメリカ代表が拍手を始めると、会場が歓声に包まれた。

 特に貧しい国の代表は、まっ赤な顔で、涙を浮かべてまで拍手している。

 俺は会場にいる全員に点を付けると、畑山さんたちに瞬間移動の合図をする。


 舞子、畑山さん、加藤の順で消え、最後に俺が消える時、指を鳴らすと、会場にあった机が全て姿を消した。

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