第34話 竜王と竜人


 ラズロー、ジェラードの二人を『竜王の間』に連れてきた俺の前に、子竜を従えたルルが立っている。


「ルル様、その後ろにいらっしゃる方は……」


 ラズローが尋ねる。


「生まれたばかりの真竜です」


「「おおお!」」


 ラズローとジェラードの声が揃う。

二人はすぐ子竜に平伏した。

 子竜は驚いたような顔をした後、ルルを見上げている。ルルがその頭を撫でてやった。


 クルルルル


 子竜はとても嬉しそうだ。二人の間には、深い信頼関係ができているようだ。試しに俺が子竜に手を伸ばすと、キッとこちらを睨み頭を遠ざける。なんか悲しいな~。


 その時、『宝の湯』の扉が開き、竜王様が姿を現した。紺色の『こるな ちゃん』水着を着たコルナと彼女の子竜も後から出てくる。

 コルナは竜王様の体を魔術で乾かす係だから、ついでに入浴していたのだろう。


「「竜王様!」」


 また、ラズローとジェラードの言葉が重なる。


『良い湯じゃった。

 シロー、お主も入らぬか』


「はい、後ほど是非。

 ところで、竜王様、この二人がお話していた竜人の責任者でございます」


 竜王様が、平伏姿勢でピクリとも動かない二人の背中を見おろす。


『二人とも大儀じゃ。

 天竜の手伝い、くれぐれもよろしく頼むぞ。

 わしからも直接礼を言いたくてな』


 二人にも竜王様の念話が届いたようだ。


「「ははっ、ありがたき幸せ!」」


 打ちあわせもせずに、よくそれだけ声を揃えられるよ。

 俺は感心してしまった。


『困ったことがあれば、我が友シローを頼るとよいぞ』


「「ははっ」」


『では、帰るがよい』


「「ははっ」」


 ラズローとジェラードって、実は凄く気が合うんじゃないか。

 竜王様が俺たちの前から去っていったので、やっと二人が顔を上げる。

 興奮したのだろう。ジェラードがまっ赤な顔をしている。赤竜族のラズローは元々赤ら顔だから、違いがよく分からないんだけどね。


「あら、白竜の若様」


 声がしたのでそちらを見ると、体に布を巻いたコリーダが立っていた。彼女も入浴していたのだろう。濡れた濃い茶色の髪につやのある褐色の肌が映え、輝くばかりの美しさだ。

 そして、体のラインがはっきり出る布だからこそ、形がいい大きな胸と美しく張った腰が目立っていた。

 それを見たジェラードが鼻血を出してしまった。俺があわてて点収納から布切れを出し、渡してやる。

 そうやって俺とジェラードがあたふたしていると、コリーダの子竜がよちよち歩きで近づいてきたかと思うと、ジェラードに向け一声鳴いた。


 グエッ


 明らかに好意的なものではない。問題はその後で、子竜は俺にまでグエッと鳴くと、コリーダの後ろに戻った。


「どうやら俺もお前も、真竜から嫌われたようだな」


 俺がぼそりと言うと、ジェラードはこれ以上ないという絶望の表情を浮かべ膝をついた。

 コリーダを見て鼻血を出したんだから、そのくらいの目には合ってもらわないと。


『(・ω・) ご主人様ー』


 ぎくっ。な、なんだい、点ちゃん。


『(=^・^=)ノミノ 白猫が、またぺしぺししたいって』


 勘弁してください。ルルに今のところを見られたら死ぬしかない。


『(・ω・) おおげさですね』


 頼むからやめてよ、点ちゃん。


『(*´з`) まあ、私をいつも使ってくれるなら、考えないでもないですよ』


 使う使う、約束するから!


『(・ω・)b まあ、嘘でもいいんですけどね。白猫は昔の記憶でも余裕で引きだせますから』


 俺は崩れおち、両手を地面に着いた。


「シロー、どうしたのです? 

 体の具合でも?」


 ルルがやってきて優しく心配してくれる。ああ、今はその優しさが痛いよ。


「大丈夫、なんでもないから。

 ちょっと点ちゃんといろいろあってね」


「何があったのです?」


「なんでもない、なんでもない」


 俺は慌てて立ちあがった。

 こうして竜人と竜王様の会見は、俺とジェラードの心にダメージを与えて終わった。

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