第10話 天竜国のダンジョン3


 俺たちは、通路脇の部屋にモンスターがいるたびそれを倒し、先に進んでいった。


 そうした理由は、この直線型のダンジョンでは前後から敵に挟まれるのが一番厄介だからだ。後ろに敵を残しておけば、いつそれが襲ってくるか知れない。


 部屋を十は過ぎたろうか。その部屋は、今までと違っていた。ロックバットがいない代わりに、部屋の片隅に、漬物石くらいの大きさの石が腰くらいの高さまで積んであった。

 ポルが不用意に近づこうとするのを、リーヴァスさんが制した。

 彼は懐からゴルフボールくらいの金属球を出し、それを投擲する。金属球は一番上の石に命中し甲高い音を立てた。


 そのとたん、石積みが崩れて立ちあがる。


 俺と同じくらい背丈がある石人形だ。石と石の繋ぎ目がぼんやり光っているのは、魔術的な力で動いているからだろう。確かに、ゴーレムと言うより石人形の方が近い。


 コルナが火魔術の詠唱を始めた。昨日、若い天竜から教えてもらった攻略法を試すつもりだろう。

彼女は、治癒魔術以外に標準的な属性魔術が使える。

 呪文の詠唱が止むと、コルナの手から、テニスボールくらいある火の玉が飛びだした。

 それが石人形の頭部をなしている丸石にぶつかる。


 石と火だから一見無駄に見える攻撃だが、石人形はバランスを崩すような動きを見せると、倒れてバラバラになった。


「やった! 

 コルナさん、すごい」


 ミミが喜んでいる。倒れた石人形の頭部を見ると、石の表面に文字ルーンが一つ書いてあり、それが半分ほど焼けこげていた。

 若い天竜からの情報では、この頭部の文字が石人形の弱点だということだった。

 石を色々調べてみたが、どうやって動いているのか分からなかった。


『(Pω・) 魔術で動いていたみたいですよ』


 点ちゃんが教えてくれるが、それはすでに分かっていたことだ。


「あっ!」


 ミミが声を上げ、部屋の奥に突進する。危ないという間もなく、彼女はティッシュ箱サイズの宝箱を抱え、戻ってきた。


「ミミ。

 宝箱は、色々な罠が仕掛けられていることも多いですよ。

 次から慎重になさい」


 リーヴァスさんに叱られたミミは、三角耳がぺたりと寝ている。

 床に置かれた宝箱をドライバーに似た十五センチくらいの金属製道具で調べていたリーヴァスさんは、その道具を蓋に引っかけ、ゆっくり宝箱を開けた。


 宝箱の正面を避けているのは、何か危険なものが飛びだすことがあるのかもしれない。


 宝箱の中には、指輪が一つとポーションの小瓶が一つ入っていた。

 さっそく点ちゃんに鑑定を頼もうと思ったが、あることを思いつき、両方のアイテムに点を着けた。情報がみんなのパレットにも送られるよう、点を設定してある。


 じゃ、点ちゃん、宝箱の中に入ったモノを鑑定してくれる?


『(^◇^)ゞ 了解でーす』


 さすが、点ちゃん。五秒も待たずにパレットに文字が浮かぶ。


速度増加の指輪 スピードが五パーセント上がる。

ヒーリングポーション 体力が一定量回復する。


 皆に、パレットをチェックするように言う。


「へえ、パレットには、こんな使い道もあるんですね」


 ルルが、感心したように言う。


「指輪の方は、かなり良いものです」


 リーヴァスさんが教えてくれる。

 相談の末、指輪はポルが着けることになった。


「次は、私がもらうんだから」


 ミミがうらやましそうにポルの指輪を見ている。

 君、速度が三十パーセントも増加する靴を履いてるよね。そう突っこもうと思ったが、止めておいた。


 それから三つほど石人形の部屋が続き、いずれも最初と同じやり方で対処した。

 その後、宝箱は出ていない。


 そして、一行は明らかに今までと様子が違う部屋までやってきた。


 ◇


 その部屋は、通路の左右ではなく正面にあった。

 つまり、この部屋を越えないと、前に進むことができない。


 部屋は今までの五倍くらいの広さだった。小さな体育館くらいはある。

 そして、ロックバットが五体飛んでおり、石積みが三山あった。


 石積みが全て石人形になれば、八体ものモンスターがいることになる。

 こういう事態はすでに予想していたので、真竜廟に入ってすぐの部屋でリーヴァスさんが見せてくれた作戦を使うことにした。

 それは、「釣り」と言われるもので、一匹ずつモンスターをおびき寄せ、倒していく方法だ。


 ルルが腰のポーチからスリングショットを取りだす。

 これは二股に分かれた腕の間にゴムが張ってあり、その力で小石などを飛ばす武器だ。俺の故郷では「パチンコ」と呼ばれていた。


 部屋の入り口に立った彼女は、小さな玉を取りだすと、それをスリングショットにつがえ、ゴムを引きのばした。スリングショットからは、ヒモが垂れており、これは発射時の音を消す効果があるそうだ。


 ヒュッ


 ほんの小さな音を立て、玉が飛びだした。


 ロックバットの一匹に命中する。ルルは、投擲系の技術が高いらしく、俺は今まで彼女が的を外すのを見たことがない。

 玉が当たったモンスターはこちらに気づき、部屋の入り口に向かってくる。


 俺たちはリーヴァスさんの指示に従い、部屋の外で待機した。

 部屋から飛びだしたロックバットに皆の攻撃が集中する。それはあっという間に地面に落ちた。


 これを繰りかえし、それほど時間を掛けずに、大部屋のモンスターを全て片づけることができた。


 皆で大部屋に入る。

 奥の壁に、さっきまで無かった出口が開いていた。

 その少し手前に宝箱が置いてある。


 ミミが飛びだし、宝箱に触れようとする。しかし、宝箱に手が届く前に、リーヴァスさんに首根っこをつかまえられた。

 さっき注意されたばかりなのに、懲りない奴だ。


 我に返ったミミが、しきりに謝っている。

 リーヴァスさんが、俺の方を見て頷いたので宝箱を調べる。


 どうだい、点ちゃん。


『□…→(Pω・) ミミちゃんは危なかったねー。触れると、弓矢が発射されるよ』


 その仕組みって解除できるかな?


『(・ω・) 簡単だよー』


 待てよ。ここは、後々の事を考え、別の方法を試そうか。

 俺はリーヴァスさんに頼み、罠解除用の道具を貸してもらった。それをミミに渡す。


「ミミ、これを使って開けてごらん」


 罠が発動しても弓矢が当たらない位置にミミを立たせ、箱を開けさせる。細長い金属製の道具が宝箱の鍵穴に触れる。


 シュッ、ターン


 宝箱からいきなり飛びだした矢が、向かいの壁に深く突きささる。

 ミミがまっ青になった。紙一重でそれが自分に刺さっていた訳だからね。これに懲りて、少し自重してくれるといいのだけど。


 一行は、戦闘終了時に部屋の奥に現れた出口へと向かった。

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