第3部 再会

第15話 リーダーを追って1


 獣人世界では、ケーナイギルドの会議室に、リーヴァス、ルル、コルナ、ミミが集まっていた。


もちろん、アンデもいる。そして、座の中央にいるのは、猫賢者だった。


「シロー殿がポータルに消えた、その顛末は分かった。

 それで、『黒竜王の涙』は、アンデ、お前が持っておるのだな。ニャ」


「はい、賢者様。

 こちらでございます」


「おお! 

 まちがいない、宝玉じゃ」


 猫賢者は、三つの玉を目より少し高い位置に掲げた。


「しかし、これを使う呪文が分からねば、意味をなさぬな」


 アンデが、何か思いだすように話しだす。


「ああ。

 犯人の呪文ですが、一部なら聞きました」


 史郎に向け、猫人の男が走りよろうとするタイミングで、岩陰から飛びだしたのが功を奏したようだ。


「確か、『黒き竜~今開かん』です。

 ほんの一部だけですが」


「おおっ! 

 でかしたぞ、アンデ。

 それだけ分かれば十分じゃ。ニャッ」


「賢者様。

 それでは、シローと同じ世界に行けるのですね?」


 ルルが顔を輝かせる。


「そうじゃ。

 まあ、実際に試してみるまでは、分からんが。ニャ」


「リーヴァス様、リーダーとポン太を発見するまで、どうかパーティをお願いします」


 ミミは、いつになく真剣な顔をしている。


「引きうけましょう。

 彼は、私の家族ですからな」


「よし、そうとなったら、善は急げだ。

 ギルメンにも、召集を掛けるぜ」 


「いえ、アンデ殿。

 ここは、私たちだけで向かいます」


「しかし……」


「宝玉の効果が定かでないわけですから、皆さんに命を掛けろとは言えません。

 分かってくだされ」


 アンデは、リーヴァスの言葉に俯いていたが、きっと顔を上げるとこう言った。


「分かりました。

 私たちは、全力でサポートに回ります。

 賢者様、宝玉の準備ができるのは、最短でどのくらいでしょうか」


「そうじゃな。

 少し調べたいこともあるから、二日後というところか。ニャ」


「分かりました。

 リーヴァス様、物資の調達等は、全てこちらにおまかせ下さい。

 ケーナイギルドは、総力を挙げますよ」


「かたじけない」


 リーヴァスが頭を下げる。


「「「ありがとうございます」」」


 ルル、コルナ、ミミも頭を下げた。


 こうして、ケーナイギルド全面協力のもと、転移の準備が始まった。


 ◇


 リーヴァスたちが、シロー用の部屋に戻ると、コリーダが出迎えた。


 彼女は、ナルとメルの世話に、部屋に残っていたのだ。


「お話は、どうなりましたか?」


「うむ、なんとかなりそうですぞ」


「良かった」


 コリーダが、心底ほっとしたように、胸に手を当てた。


「おじい様、ナルとメルはどうしましょう」


 ルルが、ベッドでぐっすり寝ている二人の髪を、手でとく。


「そうだね」


 リーヴァスさんも、今回の事に二人を連れていく事に、躊躇(ちゅうちょ)しているようだ。

 その時、部屋のドアを、小さくノックする音がした。

 ミミが開けると、猫賢者が立っていた。部屋に入ってきた彼は、寝ているナルとメルの方に、深々と礼をする。


「リーヴァス殿、伝えるのを忘れていたことがあっての」


 ナルとメルを起こさないためだろう。猫賢者は、そう囁(ささや)いた。


「何でしょう」


「あなた方の旅じゃが、お二方は、ぜひお連れするとよい」


「何か、お考えがあるのですな」


「竜人世界は、古代竜の故郷ともいえる場所じゃ。ニャ」


「そうでしたか」


「神樹様と話したとき、ナル様、メル様のお母上の話が出ての」


「ナルとメルの母親ですか?」


「そうじゃ。ニャ

 かつて、神樹様とお母上がお話になった折り、こういう時が来るなら、その世界を見せてやってほしいと、お願いになったそうじゃ」


「分かりました。

 彼女たちも、連れていきましょう」


「ぜひ、そうなさるとよい。ニャニャ」


 猫賢者は、そう言うと、ベッドの方に一礼し、部屋から出ていった。


「では、みなさん、明日から忙しくなりますぞ。

 今日は、ゆっくり休んでおきなさい」


「「「はい」」」


 リーヴァスが、部屋から出ていく。彼は、ギルドにある、もう一つの客室を使うことになっている。

 ミミも、実家で泊まるので出ていった。


 部屋には、ルル、コルナ、コリーダが残った。部屋の隅に椅子を動かし、寝ている娘たち二人を起こさないよう話を始めた。


「コルナ、コリーダ。

 もし、私に何かあれば、ナルとメルを頼むわよ」


 ルルが、静かな声で言う。


「ルル、ナルとメルは、私の子供でもあるのよ。

 そんなことで、気を遣う必要はないわ」


 コルナが、応える。


「ええ、三人の誰かに何かあっても、この子たちは、絶対に守りましょう」


 コリーダが、当然のように言う。


「シローのためにも、私たちが出来ることをしましょう」


 最後にルルが言う。三人は、視線を交しあい、頷いた。


 この瞬間、ルル、コルナ、コリーダは、本当の家族になった。

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