第16話 海水浴と山脈施設 - 点魔法 付与重力 -


 気持ちのいい入浴が終わり、俺がタオルで体を拭いていると、女に動きがあった。


 彼女は研究室から出ると、長い廊下を奥へ奥へと進んでいく。

 まだ、女が誰にも出会っていないことから考えると、この巨大施設の中には、意外に少人数しかいないのかもしれない。

 壁に大きなドアがあり、それを開けて入っていく。

 そこは白い巨大な部屋で、長いテーブルが沢山置いてある。

 人が結構いる。

 彼らは、長いテーブルに着き、食事をしている。


 女は、壁際の突起に何か話しかける。

 壁に開いた穴から、すぐにトレイが出てくる。トレイには、シリアルを固めたバーのようなものと、チューブが載っていた。

 どう見ても、まずそうだ。もしかすると、ここの人たちは、食事をエネルギーの補給としか考えていないのかもしれない。

 女は、トレイを持ち、二人の男性が座っているテーブルに着いた。


「アンナ、町はどうだった?」


 女の名前は、「アンナ」と言うらしい。


「退屈だったわよ、もう。

 私も、早く上級職になりたいわ」


「君、まだここにきて五年じゃないか。

 俺は、十年目だぞ」


「そうそう。

 早くても、十五年はかかるからな」


「でも、あなたたちも、『賢人会』入りを狙ってるんでしょ」


「まあね。

 今取り掛かってる研究がうまくいって、さらに次の段階がうまくいけば、可能性があるかもしれない」


「まあ、気が長い話よね」


「ああ、そういえば、君がいないとき、上からの連絡があったんだ」


「どんな連絡?」


「なんでも、獣人関係の素材搬入が、しばらく途切れるらしい」


「ええっ! 

 それじゃ、私の研究が進まなくなっちゃう……」


「お前だけじゃないぞ。

 ほとんどの研究者が、獣人素材を使ってるからな」


「まあ、魔道具系は、全滅だろうな」


「一体なんで、そんなことになっちゃったの?」


「その点について、賢人会からの連絡はまだ無いんだ」


「何か隠してるのかもしれないわね」


「まあ、隠してても、俺たちには、どうしようもないけどな」


 男たち二人は食事を終え、席を立った。

 もちろん、二人にも『・』を付け、その拡散を狙う。

 俺は、三人の会話を参考に、点ちゃん1号の位置を調整する。山脈の西側、つまり、学園都市の反対側の原生林の上に出る。

 山を上から見下ろす位置では無く、横上方から斜めに見下ろす場所に点ちゃん1号を固定する。

 高度を下げたので、機体の色は、空の色に合わせた青色に変えている。

 人口密度が低いからか、夜になっても研究者につけた『・』の数は、二十にもならなかった。


 俺は、一旦、住居へ帰ることにした。


 ◇


 次の日は、学園が休みだったので、朝から山脈施設の観察に向かう予定にしていたが、みんなのストレスが溜まっているようなので、例の群島へ連れていく。

 まずは『・』が拡散しないと、山脈に行っても意味が無いからね。


 初めて島に来る、コルナ、ミミ、加藤は、白い砂浜と青い海に、一発で心を撃ちぬかれたようだ。この日のために、水着を用意していたコルナとミミは、さっそく水辺へ走っていく。

 ポルは、初めて見るミミの赤いビキニ姿に、顔を赤くしている。


「お兄ちゃん、一緒に泳ぐよ」


 俺の腕にぶら下がっているコルナは、紺のワンピース型水着だ。

 あなた、何か狙ってませんか?

 点魔法でビーチボールを作ると、全員が凄く喜んでくれた。

 ボールラリーしたり、ウキワにしてぷかぷか浮かんだり、それぞれ工夫して遊んでいる。


 テコのために、一人乗りの小型船も作ってやる。海岸から余り離れないように設定し、テコを乗せる。舟は、舳先へさきを向けた方に進むようにしてある。

 テコは、これがすごく気に入って、名前まで付けていた。でも、いくら何でも『タイタニック2号』は、縁起悪いと思うよ。


「探検に行く」


 加藤は、そう言いのこし、木立の奥へと消えた。まあ、やつらしいといえば、らしいけどね。


 昼になり、お腹が減ったので、点ちゃん収納から食べ物を出そうとしたら、肩に豚のような獲物を担いだ加藤が帰ってきた。

 俺たちは、急きょバーベキューモードになり、各自が働いた。

 石を運ぶ者、枯れ木を集める者、水を汲んでくる者。


 水は、水の魔道具からでもれるのだが、加藤が森の奥で見つけた泉からんで来た。せっかくだからね。

 俺は、点ちゃんでコンロを作る。火属性の点を付けた流木を投げこむと、すぐに十分な火力になった。

 塩やハーブは、点ちゃん収納にちゃんと用意してある。

 アウトドア好きの俺は、その辺、抜かりがない。


 テーブルと各自の椅子を用意すると、いよいよ豚を焼く。焼き肉のタレが欲しいところだが、ここはアリストで手に入れた、肉のうまみを引きだす、つけ汁を利用する。

 ある程度焼けたところで、さらにつけ汁を塗って焼く。

 香ばしい匂いに、みんなの空腹が最高頂になった頃、ちょうど肉の塊が焼ける。


 獣人世界で手に入れたナイフで、表面がよく焼けた肉をこそげとり、各自の皿に置いていく。肉の上から、さらにつけ汁を掛け、みんなは、それにかぶりつく。


「うわっ、うまっ!」

「おいしーっ」


 ミミとポルは、歓声を上げながら食べている。

 コルナとテコは、黙々と食べている。

 真剣な表情が、ちょっとカワイイ。

 加藤と俺は、馬鹿話の合間に肉を焼き食べる。

 みんなの喉が渇いた頃を見計らい、キンキンに冷えたジュースを出してやる。点魔法で作ったコップの底に水魔術を付与し、コップ自体の温度が下がるようにしてある。

 みんなは、点ちゃん収納に入れたジュースの在庫が無くなるまで、飲みつくした。

 泉の水がものすごく旨いのに気づいた俺は、もっぱらそっちを飲んでいた。


 お腹が一杯になったので、みんな、眠くなったようだ。

 点魔法で自立型のハンモックをつくり、木陰に設置していく。ハンモックには、風魔術と水魔術が付与してあり、涼しいそよ風が吹きあげるようになっている。

 それぞれが、それに横になり、気持ちよくお昼寝している。まさに、くつろぎの図だね。


 みんなが昼寝している間に、俺はバーベキューサイトの後始末に取りかかる。食事の後で、その場所を汚して立ちさるのは、アウトドアマンの沽券こけんにかかわるからね。

 豚は処理が難しい部位を処分し、塩を厚めに塗ると、点ちゃん収納に納める。

 点ちゃん収納は、収めたものが普通に腐るから、気をつけなくてはね。


 三時間ほどして、眠っているみんなを起こす。


「こんなに気持ちよく寝たのは、初めて」


 ミミが、全員の気持ちを代弁する。

 点ちゃん。みんな、すごく喜んでるよ。


『(*ω*) フフフ、そう言ってもらえて、よかったですよ、ご主人様』


 ピカッ!


 おおっ! 久しぶりのピカ来たーっ。

 初めて見たみんなは、すごく驚いている。まあ、人の身体が光れば、誰でも驚くよね。しかも、かなり強い光だからね、今回のは。


「だ、大丈夫なんですか?」


 ポルが、心配してくれる。


「ああ。

 身体が光るのは、俺の魔法がレベルアップした証拠だから」


「で、レベルいくらになったの?」


 ミミが、聞いてくる。

 点ちゃん、レベルどうなった?


『(Pω・) レベル12です。新スキルは、「付与 重力」ですね』


 重力かー、ブラックホールとかできるのかな?


「レベル12だよ」


「えっ!? 

 魔術のレベルって最高で10までじゃないの?」


「ああ。

 普通の魔術なら、そうらしいけど、俺の『点魔法』は特別みたいなんだ」


「さすが、お兄ちゃん」


 コルナが、また腕に抱きついてくる。

 加藤が、意味深な顔で、こちらを見ている。

 おい、誤解してるぞ。


 こうして、一日だけのバカンスは幕を閉じた。

 俺は、のんびりしすぎて、山脈施設の調査のことをすっかり忘れていた。

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