第20話 家族 

 ドラゴン討伐の翌日、俺は風邪で寝こんでいた。

 いや、本当は、風邪のふりをして横になっていた。体調が良くなってから、王都に帰る。そうギルドマスターに伝え、万事うまく運んでくれたのはルルだ。

 通常なら許されないのだろうが、ドラゴン討伐成功で、皆が浮きたっていたからか、あっさり許可が下りる。


 「おい、早く治せよ!」

 「無理するな」

 「早く元気になってね」


 マックとハピィフェローのみんなが、戸口のところから、声を掛けてくれた。

 近づくと、ばれる可能性があるので、感染性が強い風邪だということにしてある。

 ルルさん、マジ頼りになる。


 昼頃、そそくさと出発準備を終えた討伐隊が町を離れる。見送りのがくが、遠くから聞こえてくる。

 それが完全に聞こえなくなった頃、ルルが入ってきた。


「旦那様、準備ができました」


 外に出ると、木製の背負子しょいこが二つ置いてあった。それを背負い、二人で山道に向かう。途中、討伐で通ったのとは別の道に入る。

 ある程度進むと、右側に大きな岩が現れる。斜面を登り、その裏側に回る。

 置いてある枯れ枝を取りはらうと、白く光る魔法陣が現れる。


 ルルと手をつないで、魔法陣に触れる。次の瞬間、二人は洞窟内にいた。昨夜、俺がお母さんドラゴンと話した場所だ。

 奥に入っていくと、二つのボールがあった。

 気配を感じたのか、小さなドラゴンの頭が現れこちらを見る。


 入ってきたのが母親ではなくて、がっかりしたようだ。俺たちの姿を見ても騒がないのは、母親から言いふくめられているからだろう。

 ルルが、ポーチから白い球を二つ出す。二人が一つずつ球を掲げ、それぞれの子ドラゴンに近づける。

 白い球が、光となって二体の中に入っていく。


 光は、やがてドラゴンの子を包みこんだ。それが消えた時、人間の姿をした、七、八才くらいの美しい少女が二人現れた。

 二人とも透明感のある銀髪で、瞳の色はそれぞれ赤と緑だ。その目には、溢れそうな涙をためている。


 さっきの白い球は、お母さんドラゴンが作ったテレパシーの塊だそうだ。

 自分は、すでに死んでいること。球を持ってくる人を信頼して生きていくこと。そういうメッセージが込められている。


 昨日、洞窟からキャンプ地に戻る途中で、お母さんドラゴンと、こういうことを全て打ちあわせてあった。

 お母さんドラゴンは、このような日が来ることを見こして、ずっと前から準備していたようだ。

 二人の少女に、用意してきた服を着せてやる。その後、ルルと俺の腕の中で、二人の涙が枯れるまで泣かせてやった。

 これがお母さんドラゴンの望みでもあったし、俺自身もそうしたかったからだ。


 二人が落ちついてから、静かに話しかける。


「二人は、見知らぬ人にすがることになって、とても不安だろう。

 俺がお母さんや君たちに会ったのは、つい昨日のことだからね。

 だけどね、縁、関係って言ってもいいかな。

 それは、時間ではないんだよ。

 君たちのお母さんに会ったのは、ほんの短い間だったけど、俺は大好きになったんだ」


 二人は目を見開き、じっと聞いている。


「なぜだか分かるかい。お母さんが、命がけで君たちを守る姿を見たからだよ。

 約束しよう。

 これからは、俺たちが命がけで君らを守る。

 何があってもだ。

 だから安心して、うちの子になっておくれ」


 幼いから全部は分からないだろうが、二人は深く頷いてくれた。

 母ドラゴンは、人間の俺にそこまで期待なんてしなかったかもしれない。

 だけど、これは俺が本当にしたいことなんだ。

 繋いだ手から伝わるルルのぬくもりが、何の心配もいらないと確信させてくれる。


 異世界で、家族ができた。

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