第六章 加藤健一 5

 散々食べて飲んでゲームをして遊びまくり、片づけをして夕方俺達は帰宅する。

「ありがとうございました」

「おじゃましました」

 なんて酒瓶を持つライトの力強いこと。なんでも両親に「酒瓶は持って帰ってこい」と言われたらしいが、その量の酒瓶がちゃんと自転車に乗るのだろうか。

 ココアは一日上機嫌で、白い花のカチューシャをつけたまま最初から最後までニコニコしていた。

「うん、今日はありがとう、じゃあね、またね」

 なんていう笑顔に元自殺志願者のそれは見つけられない。

 さて、帰る直前、酔いつぶれて寝ていたはずの健一が二階の書斎兼寝室から降りてくる。

「あ、おじさん」

「おじゃましましたー」

「ありがとうございましたー」

 なんて口々に言う俺達。未だ酒の抜けきっていないらしい健一は、「ああ」とか「うん」とか曖昧な返事を返しながら、「テル君」と俺の名前を呼んだ。

「はい?」

 なんて間抜けな返事をする俺。

 健一は「あ」とか「う」とかもごもごと口の中で言葉を濁し、迷い、それからはっきりとこう言った。

「……お水、ありがとう。また、おいで」

 はい。


 月明りの下、三人でまた騒ぎながら歩く。

 あれがよかったとかあれがうまかったとかあのときのあれはずるかったとかそういうこと。途中でベリ子ブー子の馬鹿コンビと別れ、ライトがふと気が付いたように言った。

「そういえばさ。途中、テル、おじさんに水持ってったじゃん」

「うん」

「なんか話したの?」

 なんていうライトは月光の下とてもキラキラしていて、まるで本当に神様みたいだ。馬鹿だけど。俺はそんな神様みたいな親友の言葉に、左右に首を振った。

「話してないよ」

 俺はね。

 俺の適当な答えにライトは適当に納得したようだった。これでいい。酔いつぶれた健一と≪鍋島浩之≫の会話なんて夢みたいなものだ。友達の父親がうっかり酔って黒歴史を暴露し泣きじゃくったところを見てしまったなんてこと、誰にも知られてはいけないんだ。

 俺が意味もなくライトの脇腹をチョップをすると、屈んだついでに俺の背中に寄りかかってくる。重い。しかも暑苦しい。やめろよ、って言っても無理ー、なんていうライトは本当に馬鹿で鬱陶しい。

 しかし俺は、そんなライトが好きなのだ。

 俺の親友。俺の神様。

 俺は今の親友をちゃんと大事にするべきなのだ。


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