第19話 狂犬王女の威厳ある最後
するとファリンがカタリナの脇から離れ、腰の後ろのホルスターあった拳銃を手にしながら静に近づいて行った。そして、そのスライドを引くと銃口を静に向けて大尉に尋ねた。
「じゃあ大尉、始めて良いよね」
「ああ、ファリン良いぞ」
大尉が言った直後だった。いきなり狭い部屋に銃声が響いた。
跪いた静の体がぐらりと前方へ崩れそうになった。
「倒れるな!
倒れたらこいつにも同じことをするぞ!」
すぐさま大尉が叫んだ。
その言葉に一度は前方へ崩れかかった静の体がゆっくりとまた起き上がって来た。
その顔は苦痛に歪み、左の太もも辺りの黒いドレスが、まるで水を零したようにびっしょりと濡れているのが分かった。
カタリナは先ほどの銃声は、ファリンが静の太ももを撃ち抜いた物だ分かった。
「次はどこにしようかねぇ、姫様」
ファリンが静に銃口を向けたまま、サディスティックな笑みを唇に浮かべてそう言うと、苦痛に耐えながら静はそのファリンを睨み返した。
そして再び銃声が響いた。
今度は静の体が後ろへ倒れそうになる。しかし、完全に倒れそうになる前に静は何とか姿勢を戻した。頭の上に置いていた両手の内、右手が力なくだらりと下に下がっている。そしてドレスの右肩が先ほどの様に濡れた様に染まった。
それでも静は悲鳴すら上げる事無く苦痛に唇を?みしめながらも無言でファリンを睨んでいた。
「へぇ……頑張るじゃん、この化け物姫様は」
ファリンは依然、サディスティックな笑いを浮かべたまま、さらに引き金を引いた。
静は苦痛にその体をエビの様に大きく跳ねさせた。それでも彼女は倒れる事無く跪いたままの姿勢を保っていた。今度は右足の脛辺りのドレスにじわりじわりとシミが広がって行った。
「止めて! もう止めて!
お願い。私が何でもするから!
どんな辱めでも受けるから姉さんにこれ以上酷い事をしないで!」
今までその残酷な光景をじっと見ていたカタリナがたまらず声を上げた。
「良い、良いんだ、カタリナ。
こいつらには曲りなりにも私にこれだけの事をする理由がある」
襲い来る苦痛に耐え、あえて笑みを浮かべて静はそう言ってカタリナを制した。そして、大尉の方を真剣な顔つきになって見て続けた。
「私は抵抗しない。気のすむまで嬲り殺しにすればいい。
王妃であった母を棺の中に遺体を残せぬほどバラバラにして殺し、
王女であるこの私の体をズタズタにして地獄の苦しみを味合わせた後、
またこうして嬲り殺しにしてるんだ。
もう良かろう。そいつは許してやってくれ」
しかし、静がそう良い言わるや否や大尉は、無言で腰のホルスターに刺さっていた拳銃を引き抜き静に向けて引き金を引いた。
「ぐわぁ……」
さすがの静も今回は思わず低い声を上げた。そして、まだ無傷でまともに動く左手で下腹部を押さえた。すぐに腰から下のドレスが手で押さえた個所がどくどくと内側から湧き上がる物で染みが広がって行く。
「これで姫様は二度と子供が埋めないお体だ。
まあ、それも奇跡でも起こってまた生き延びればの話だがね。
いや、このまま死んでしまっても子は産めないか」
そんな静を見て大尉はそう言ってさも楽し気に笑った。
「もう……止めて上げて……。
姉さんを一思いに楽にさせてあげて……お願いよ……」
カタリナはその光景を直視できず、静から顔を背けて泣きながら声を絞り出すようにして言った。
「ついに妹の口から死刑宣告が出るとは愉快。
良いだろう、そろそろこの姫君には死んでもらおう。
今度こそ確実にな」
大尉はそう言うと静の胸に銃口を向けた。ファリンとグァンミンはその口元にサディスティックな笑みを浮かべてそれを見ていた。カタリナは顔を背け眼を固く閉じた。
やがて大尉がゆっくりと手に持った拳銃の引き金を絞り込むと部屋にまた銃声が轟いた。
静は胸をのけぞらせる様にして後ろに倒れた。すぐにドレスの胸元から染みがひろがり、真っ赤な血が床に広がりだした。そして、その半開きになった口から一筋の血が流れ出た。静は目を見開いたまま、その体が数回、痙攣させるとそれを最後にぴくりとも動かなくなった。
「なんせこいつは『
念には念を入れておくか……」
大尉は再び銃を構えるとその銃口を静の額へ向けた。そしてまたその引き金を引き絞った。銃声と共に静の額に血の華が咲き、床と後頭部の間から血と脳漿、さらには脳の一部までもが流れ出始めた。
大尉はそれでも銃を下ろさず、また引き金を引こうとした。
その時だった。
「もう止めて! もう十分でしょ!
姉さんはもう死んでる。
これ以上、姉さんの体を傷つけないで!」
そう叫んでカタリナが静の遺体に駆け寄りとその体を大尉の銃口から守る様に覆いかぶせた。
さすがにカタリナまで撃つわけにゆかず大尉はやっとその銃を下ろしホルスターに戻した。
「姉さん、さぞ苦しかったでしょう。
でも、最後の最後まであなたは立派でした。
王族として何一つ恥じる事ない死にざまでした。
どうか安らかにあなたのお母様の待つ天国へ……」
カタリナは静の遺体をそっと抱き上げると、後頭部の一部が吹き飛んでしまった静の頭をそう言って涙を流しながら優しく撫でた。そして、手のひらで、大きく見開かれていた瞼をそっと閉じさせた。そして流れ出る涙を必死にこらえながらカタリナは姉を殺した大尉を強くにらみつけた。
「最後にお涙の頂戴の良い絵が撮れた。
感謝するぞ、姫様」
グァンミンがカメラからの伸びたコードが繋がれたタブレットを操作して録画を止めたのを確認すると大尉がカタリナに言った。
「次は場所を変えてあんた主演の特別エロショーの収録だぜ。
覚悟しときな」
「その時にはあんた死ぬ事の出来たこの姫さんを羨ましがることになるよ。
まあ、それも一瞬で、すぐに男無しでは一時も過ごせぬ変態女だけどね」
まだ静の無残な遺体を抱き締めてすすり泣くカタリナを見て、ファリンとグァンミンが下卑た笑いを浮かべた。
カタリナは一瞬、このまま王族としてのプライドを保ったまま尊厳ある死を選び舌をかみ切ろうかと思った。
『カタリナ、お前は唯一『ラマナス海洋国家王位継承権』を持つ王女だ。
この先、お前がどんな目にあっても、
例えそれが女として、耐え難い生き地獄だったとしても、
決してラマナス王族としての誇りを忘れるな。
そして、屈辱と言う泥水を啜っても生き延びよ。
決して生を諦めてはならぬ』
しかし、今胸に抱く静が言った言葉を思い出し、それを思い留まった。それが自身をどんなに惨たらしく悲惨で屈辱に塗れた生き地獄へと導く決意だと分かっていても、あえてその道をカタリナは選んだのだ。
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