闘うことはわたしらだけのものじゃないってことを

 日奈の集中力が今度はマーメイのそれに火をける。


 火?


 そもそもマーメイは怜悧な水のイメージだったが、日奈は彼女の本質を見極め、修正をかける。


「タイスケさん。リー・チェン組はパワープレイに出ると思います」


 萱場も頷く。


「ああ。日奈があれだけ切れ味鋭いプレーを見せればそれを面的な力でプレスしてくるだろうな」


 まずリーがいきなり爆発した。


「ハウッ!」


 日奈の高速ロングサービスを後ろに跳び退いて滞空したまま、上半身の筋肉だけでスマッシュをねじ込んできた。

 ボディー狙いのそれを日奈が腕を折りたたんで返すと、リーは左足だけ着地した次の瞬間にはまた宙に飛び、2発目のスマッシュを執拗に日奈のボディーに打ち込む。


「せっ!」


 しぶとく日奈もコート中盤へ返球すると今度はマーメイが飛び込んできた。


「ヤッ!」


 長身の彼女がジャンプする必要があるのかというぐらいの高度に飛んで、ネットから2mほどの位置からなのに日奈の前に垂直に叩き込んだ。

 そのままマーメイは勢い余ってポストに肩を激突させた。

 駆け寄るリーに彼女が中国語で何か叫んだ。


「・・・・・!」


 無言で頷いてまたポジションに戻るリー。


「マーメイは何て言ったんでしょう?」

「『負けたくない!』だ」


 まるでわたしと同じだ、と日奈はシンパシーを抱いた。


「タイスケさん。わたしも負けたくないです」

「ああ。IQの高い頭脳が彼女らの人格だと思ってたが、違ったな」

「はい」

「熱いハートがあの世界最高ペアの本質だ。IQは闘う上での道具でしかない」

「負けたくない負けたくない負けたくない!」

「ならどうするんだ」

「全部出し切って、使い果たします!」

「よし! 勝つぞ!」


 自分たちのサービスではないが、萱場と日奈は掛け声をかけた。


「オー・ゼ!」

「オ!」

「ゼ!」

「オ!」

「ゼ!」

「オー!」


 日奈はマーメイ・チェンの目を射抜いた。

 萱場はマイク・リーの眼底の奥底まで覗き込んだ。


 両者、サヴァンナで遭遇した猛獣同士のように、にらみ合った。


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