よしよし、ですね。助かりました。

 11月下旬、日奈が萱場にこんなことを言って来た。

「今度の土曜日、学校の体育祭なんです。休養日にさせてください」

 萱場は日奈の練習量・質ともオーバーワーク気味になりそうだったので、どこかで休養日は取らせるつもりだった。丁度いい。しかし、休養日も運動とは。

「大丈夫です、怪我しないよう注意しますから」

 まあ、体育祭ならば出番と言ったって限られているだろう、あくまでも‘軽く’だぞと萱場は認めた。

「そして、タイスケさんにお願いが」

 今までの日奈のお願いには碌なものがなかった。しかし、今回のは至極まっとうなお願いだった。

「タイスケさんと、妙子さんと、ゆかりちゃんの3人で運動会観に来てください。わたしが休みならタイスケさんも練習にならないでしょ」

 萱場は遠く鹿児島の家族と離れて暮らす日奈の親代わりくらいしてやりたいと思い、快く引き受けた。しかし、と思った。

「高校の体育祭って、普通父兄は来ないんじゃないか?それに俺が高校の頃は平日にやったような気がするけどな?」

「いえ・・合波高校の体育祭は父兄が来ないと始まらないんですよ。ところで、ゆかりちゃんはもう首はすわりましたよね?」

「?うん、すわったけど?」

「じゃあ、わたしが抱っこしても大丈夫ですよね?」

「妙子に抱っこの仕方習ってからならな」

「よしよし、ですね。助かりました」

「助かりました?」

 日奈の最後の言葉に一抹の不安を覚えながら、体育祭当日を迎えた。体育祭にしては遅い季節の11月末だが、東京は晴天でカラッとした清々しい日になった。

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