いないいない・・・・いたー!

「まあ、知らずの内に父親の言葉が残ってるんだろうな。高校選ぶ時もそうだったし、仕事も陸と海の違いで同じ会社で似たようなことやってるしな。

 死んだのは病院のベッドでだけど、やっぱり海で生きて海で死んだ、って俺は思ってるし」

 ふっ、と見ると日奈が涙をぽろぽろこぼしている。

「おい、どうした?」

 萱場が声を掛けると、日奈はしくしくした声で泣いたまま普通に喋ろうとする。

「タイスケさんのお父さんって、かっこよかったんですね」

 本当に分かりやすい奴だな、とちょっとだけ嬉しい気持ちで萱場は日奈の泣き顔を見た。

「タイスケさんのお母さんはどうしてるんですか?」

 ああ、と萱場は何気なく普通に答える。

「父親が死んだ後、生命保険会社のセールスレディーをやって随分無理したからな・・・

 去年、癌で亡くなったよ。ゆかりを見せてやれなかったのが残念だったけどな・・・」

 言うなり、日奈は子供のように声を上げてわーっと泣き出した。

 おいおい、と萱場がうろたえる脇で、妙子が日奈の背中をよしよしと撫でてやる。

「日奈ちゃんは優しい子なんだね・・・」

 泣きじゃくる日奈の大声でゆかりが目を覚ました。今度はゆかりの方が大声で泣き始める。

 日奈の背中からそっと手を離し、ごめんごめんと言いながら妙子はゆかりの方に向かう。そしてエプロンで自分の顔を隠しながら、

「いないいない・・・・」

とゆかりが不思議そうに妙子を見始めると、ぱっ、とエプロンを下げて顔を見せ、

「いたー!」

とゆかりに満面の笑顔を見せてやる。ゆかりはあっという間に泣き止み、けらけらと声を立てて笑い始めた。

「あ、笑った」

 日奈もあっという間に泣き止んで、母親と赤ちゃんの遣り取りを不思議そうに見ている。

「ゆかりは‘いないいないばあ’が大好きで・・・泣き出して困るといつもこれをやるのよ」

 妙子が笑いながらそう言うと、日奈は、んー、と何かを考えてますよ、というアピールのポーズを取り始めた。しばらくじっと考えていたかと思うと突然、

「浮かびました!」

 萱場は今日一番の日奈の不審な挙動にびくっ、となりながら恐る恐る訊いてみる。

「え、何が?・・・」

 日奈は鬼の首を取ったような顔で自信満々に叫んだ。

「‘ゆかりちゃんフォーメーション’ですよっ!」

「はあ?」

 今日三度目の萱場の‘はあ?’だ。日奈は得意そうに解説を始める。

「‘いないいないばあ’からヒントを得ました。まず、わたしがタイスケさんの背後にすっぽりと隠れるんです。敵が、あ、佐倉が消えた、って思った瞬間にタイスケさんがしゃがみこんで、突然現れたわたしがスマッシュを打ちこむという・・・」

「日奈はいいよな・・・人生、楽しそうで・・・」

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