閑話 少年の願い

 かあさんととうさんはむずかしいかおをしてそれをみている。


 ぼくはとてもかなしいきもちになった。


 ぼくにもっとちからがあればそんなかおをさせないですむのに。


 ぼくがもっとつよければ。


 ぼくがもっとかしこかったら。


 かみさま、どうかぼくのねがいをきいてください。


 ぼくのだいじなものをまもってください。


 ぼくはへやのまどからそっとつきをみた。


 あおいあおいつきだ。


 ぼくのひとみのような。




******




 とても大きな青い月だ。こんな真っ青な月は見たことがない。


 俺は何をやっているんだろう。


 ここのところ、生きている実感がない。


 物を売る商売なのに、自分が買い物するのはコンビニか深夜営業のディスカウント店ばかりだ。


 死ぬまで、こんな日々が続くのだろうか。


 まぁ、いいさ。どうせ死ぬまでの暇つぶしだ。


 俺には特に大事な物なんて無い。


 守るべき物なんて、ちっぽけなプライドと1Kマンションの今の暮らし。


 こんなはずじゃ無かったのに。


 俺はなんで生きている?




*****




『あなたの願いを叶える力は私にないけれど……もともとあったモノを呼び起こすことはできるわ。さあいきなさい、愛し子よ……ふふふ』






 青い月だけがすべてを見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る