11#雌タヌキと雄タヌキはの吐息はひとつに

 「・・・・・・」




 「・・・・・・」




 「あれ?おいら達、死んだの?」


 タヌキのポクと雌ダヌキは、目を冷ました。


 「よお!『タヌキ寝入り』からお目覚めかい?」


 目を開けた目の前に、トビとカラスが心配に覗いていた。


 「んもう、お前ら轢かれる寸前だったよ!しかも、2匹持ち上げたんだぜ!脚の鍵爪も翼も疲れたぜ!!」


 トビのスピーは、嘴の鼻の孔をパンパンに膨らましてぜえぜえと荒い息をして笑った。


 「ほおら、風船も無事だぜぇ。」


 カラスのカーキチは、オレンジ色の風船をタヌキ達の目の前に置いた。


 「わ、割れちゃった・・・」


 雌ダヌキは震えた。


 「カーキチ!!それ俺達が割った風船じゃん!これだこれ!」


 「しまった!ごめん!!これだこれ!」


 カラスのカースケは、すっかり浮力が無くなり小さく縮んだオレンジ色の風船をタヌキ達の目の前に転がした。


 「あら、無事だったのね。」


 雌ダヌキは、風船のゴムの匂いを嗅いだ。


 「俺の脚元に、偶然転がってたんだぜ!」


「ところで、何で風船追いかけてたの?」


 タヌキのポクは、雌ダヌキに聞いた。


 「それはね、母さんを思い出すの。母さん風船が大好きでね。」


 雌ダヌキは、鼻を青空に突き上げじっと見上げていた。




 「同じだね。」




 「何で?」「おいらとも母さん死んだんだ。」


 「あたしも。車に轢かれて。」「ふーん。」


 「あ、私の名前言わなかったね。あたし、『ポコ』って言うの。」


 「ポコ・・・いい名前だねえ。そうだ!ポコ。」


 「なあに?」


 「お、お、お、おいらと・・・けっ、けっ、けっ、けっ、こ、こ、こ、こ・・・」


 「なあに?ポクさん?」


 「けっこ、こ、こ、こ、こ、こ、お、お、お、お、お・・・おいらと・・・おいらが、この縮んだ風船を大きく膨らませてあげようか?」


 「あなた?いや、あたしに膨らませさせて!!」


 雌ダヌキのポコは、風船に触ろうとしたタヌキのポクから奪い、おもむろに吹き口の栓を歯でこじ開けた。




 しゅーっ・・・



 「やば!萎むわ!!」


 ポコは慌てて吹き口をくわえた。


 雌ダヌキのポコは、鼻の孔から「すうーーーーっ!」と思いっきり息を吸い込んだ。


 ポコは、お腹を空気で満たすと頬をめいいっぱいに膨らませた。




 ぶう~~~~~~~っ!!




 雌ダヌキのポコは、力みすぎて思わず屁をしてしまった。


 「くせえ!!」


 トビのスピーは、嘴の鼻の孔を翼で塞ぎ、カラスのカーキチとカースケは、鼻の髭をぽりぽりと翼で掻いた。


 「似ている・・・!!おいらの母ちゃんと・・・!!」


 タヌキのポクは、胸がキュンとなった。


 ポクは、幼い頃に母ダヌキに風船を膨らませて貰った時、息を吹き込む寸前に屁をしたことを思い出した。




 ぷぅーーーっ・・・


 ぷぅーーーっ・・・




 雌ダヌキのポコは頬をはらませて、ゆっくりとゆっくりと風船に息を吹き込んだ。




 ふーーっ・・・ふーーっ・・・ふーーっ・・・




 雌ダヌキのポコは、ゆっくりとゆっくりと、優しく優しく、頬をめいいっぱいはらませてオレンジ色の風船に息を吹き込んだ。


 風船は、どんどんどんどん大きく大きく膨らんでいった。


 「母ちゃん…母ちゃんの『生き写し』だ・・・この雌ダヌキは・・・!!」


 タヌキのポクは、あの時目の前で死んでいった母ダヌキや父兄弟のことを思い出してうっすらと涙がこぼれた。




 ・・・まだ母ちゃんは『終わって』なかった・・・!




 ・・・今ここにいる・・・今ここにいる彼女。雌ダヌキとしてまた生き返ったに違いないんだ・・・!!



 ・・・これは『運命』・・・!出会う『運命』だった・・・!

 ・・・それを導いたのは、彼女の膨らませているオレンジ色の風船だ・・・!!




 「あれ?この風船やばくね?」


 カラスのカーキチは大きくなりすぎて、洋梨のようになってきたポコの風船に気付いた。


 「やば!割れちゃう!!割れちゃう!!」


 カラスのカースケは、慌てて翼をバタバタとはためかせた。


 「怖い!!パンク怖い!!」


 トビのスピーは、目の後の耳の穴を翼で塞いでピーピー騒いだ。


 「この位でしょ!」


 雌ダヌキのポコは、風船の吹き口から口を離した。


 「ねえ、ポクちゃん!風船の続き膨らませて!!」


 「え?う、うん!」


 タヌキのポクは、雌ダヌキのポコから口移しに船の吹き口を渡された。


 「間接キッス?」


 2羽のカラス達はニヤニヤとした。


 ポコのよだれがべっとりと付いた、風船の吹き口をポクはくわえた。




 すーっ・・・




 雌ダヌキのポコの吐息が風船のゴムの縮もうとする力で押されて、タヌキのポクの肺に入る。


 ポクは興奮した。




 ・・・おいらとポコちゃんは一体になった・・・!!




 ポクは風船にそっと息を吹き込んだ。




 ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・




 タヌキのポクは、頬をはらませて雌ダヌキのポコの膨らませた続きをした。


 風船は洋梨を通り越し、吹き口の付け根まで膨らんでいった。


 「ひゃっ割れちゃう!!」カラスもトビも耳穴を塞いだ。


  「あの・・・風船を・・・」


 雌ダヌキとのポコは、あとひと吹きでパンクするくらいに膨らんだ風船をタヌキのポクから奪おうとした。




 しゅう・・・




 「何で空気が漏れる音?吹き口は抑えてるのに?」




 ばぁーーーん!!









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る